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Kimono Life
2006.11.15 UPDATE


第2回 呉服屋は怪しい
TEXT/小野緑


女が着物をつくるとき

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本真綿紬『あけぼの暈かし』
(ほんまわたつむぎ・あけぼのぼかし)
裾から上に向かって淡色になっています。八掛けは黒。ここが山龍テイスト!

いよいよ着物をつくることになった。20代後半から、好きなデザイナーはジャンポール・ゴルチエ、定番カラーは黒…と、硬質なファッションで通してきた私が、いきなり着物を着るというのは、まさに青天の霹靂である。友人たちからは「どうしたの!?」という質問の嵐。どうしたもこうしたも、山龍と出会ってしまったからなのだが。

私の場合、幸か不幸か、たまたまKimono Masterの異名を取る人物と出会うというきっかけが背中を押してくれた。しかし、ライフスタイルの中に、着物を着るというシーンがほとんどなくなった今、普通はどんなことがきっかけで、みんな着物に袖を通すのだろうか?

山龍師匠に相談に来る中でいちばん多いケースは、やはりお稽古事を始めたときなのだそうだ。お茶にお花に日本舞踊と、和の習い事はちょっとしたブーム。そういう空間に身を置けば、自然に着物への興味もわいてくるのだろう。かく言う私も、学生時代にかなり本格的に茶道をやっていたので、あまりわけもわかっていないくせして、親に頼んで何着か着物をつくってもらった。その後の人生が、まったく和の世界と関係のない方向に脱線していったため、私の中では封印されていた過去であるが…。

次に多いのが、友達の誰かが着ていたから、という理由。やはりファッションの情報は、友達から口コミで広がっていくパターンが定石である。ドマーニ世代ともなると、だいたい自分のファッションの好みが確立されているので、昔ほど友達に左右はされないが、着物というと話は別である。立ち居振る舞い、伝統文化など、キャリアの知的好奇心をさり気なくくすぐる要素は尽きない。友達=ライバルの動向にはどうしても敏感になるというもの。そして40代になると、今度はPTAの役員、夫の仕事関係の集まり、各種婦人会など、社会的なお付き合いにおける必需品として必要になることが多くなるのだそうだ。

「だいたいがそういう理由。これ以外にいきなり、私だけ着物つくる! と言ってくるのは、変わった奴やわ」

面白そうに笑う山龍師匠。どうせ私は変わった奴です…。

正しい呉服屋の選び方

しかし、ひとつ言い訳させてもらうと、私だっていきなりつくったわけではございません。少し前からつくりたいとは思っていたけれど、着物はルールがややこしいし、どこで買ったらよいやら、わからないことが多すぎて、なかなかチャンスがなかったのだ。

「ホントは着物いうのに、決まりごとはないの。もともと階級服で、格式のある人だけが着ていたものやからね」

師匠は簡単に言うけれど、付下げより訪問着のほうが格が上とか、紬はパーティには向かないとか、いろいろ耳にしますよ…。

「それはみんな嘘やから。格式のない一般 の人が着るようになってから、勝手に着物に格式を付けていっただけ」

今、巷で当たり前に囁かれている着物の格分けやルールは、ほとんどが明治の中期以降に、売る側の都合で出来上がったものだという。もちろん、ホスト側なのかゲスト側なのか、家紋入りはいつ着るか、というような基本ルールはあるけれど、ややこしいことは考えなくても、着物はそれだけで、どこでも一目置かれる「パワードレス」なのだと師匠は言う。言われてみればなるほど、と思える話。そういう着物の常識は、いったい何を読み、どこで学べばよいのだろうか?

「……ないな! ないねん、それが!」

着物の本や雑誌には書いてないの?

「どこにも書いてあらへんよ」

うそ! 呉服屋さんや着付け教室でも教えないのですか?

「今は、99%の呉服屋がアマチュアやし、ちゃんと着物の説明ができる販売員もろくにおらんよ。誰もちゃんと学ぼうという意識がなかった。だから、この業界はアカンの」

ピシャリ! と師匠は言ってのけた。

昔は、地方の豪商が呉服屋を経営していたので、京都や江戸に買い付けに来ては、そこでつくっている現場を確認したり、目利きになっていくプロセスがあったそうだ。しかし、今はそれがないため、目利きが育たないのが実情らしい。

着付け教室にしてもまたしかり。大手の小売り会社からの業務委託で、着物入門者のための着付け講習会を催す場合など、いつもは着物を着付けたり販売してるだけだった人が、突然講師に指名されるというレベルなのだとか。なんともいい加減。それじゃあ、着物を素敵に着こなせるわけないし、ましてや、着物に興味なんかわくわけがない。

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綾錦袋帯(あやにしきふくろおび)
西陣織の源流と言われている帯です。柄が、パターンの繰り返しでなく、全部違っており、全体に入っているところが豪華! 本来の販売価格は180万円だったそうな!

着物をどこで買うか? と言えば、普通 は呉服屋か百貨店の呉服売り場である。その呉服屋自体が、なんか怪しい。ヴィトンやシャネルには入れるけど、呉服屋には簡単には入れない…でしょ? 展示会形式の販売会で無理矢理何枚も買わされ、多額のローンを組まされるという、詐欺まがい、というより、詐欺そのもののトラブルの話をよく聞くし、そこまでいかなくても、販売員の強引さに辟易としてしまう。自分に着物の善し悪しを見定める目利きの力がないのと、自分に似合っているかどうかすらよくわからないのも大きな理由だ。だいたい、呉服屋の善し悪しは、どこで見分ければよいのだろうか?

「呉服屋を選ぶときの絶対条件は、潤沢に在庫がある店であること!」

どうしてですか?

「在庫の多い店ゆうのは、店が問屋に行って買うて来るわけやから、それだけで、自分も目利きになっていくわけ」

在庫が少なく、展示会を開いて予約を取って販売する呉服屋は、常に品物を借りて来て売るので、いつになっても目利きにならず、素人のままなのだそうだ。1週間ぐらいディスプレーが変わっていなかったら、そこは在庫が薄いと見て間違いなし。まめにウインドウの商品が変わっている店をチェックするのが、良い呉服屋を見分ける秘訣なのだそうである。

そして、何の目的で買うか、予算はどれくらいか、どんな色がいいかなど、自分の意志や好みをハッキリと言うのも大切なこと。なによりも買う側の私たちが、少し勉強すれば、呉服屋なんて恐れるに足りないのである。

ふと思った。エルメスのスカーフ柄の名前はいくつも言え、ヴィトンのバッグの新作シリーズは知っているし、銀座のグッチビルに興味津々なのに、伝統的な日本の素晴らしきブランド、『Kimono』に関しては、この年になって、やっと少しわかってきたばかり。

いやはや、呉服屋が怪しい以前に、日本人として自分がいちばん怪しいのではないか、と思う今日この頃です。


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小野緑プロフィール

東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、雑誌の編集者を経て、フリーのライターに。女性誌、音楽誌を中心に活動し、1993年、 株式会社『Mighty Green』を設立。出版関係の企画・編集及び執筆活動の他、海外ブランド雑貨のプロモーションや、タイアップのコーディネイトなども。1997年から、コマーシャルのプロデューサー、コピーライター、メディアプロデューサーと仕事の幅を広げる。現在は、ライフスタイルブランド『beluga』の、コンセプトプランナー、ライフスタイルアドバイザーの仕事に没頭中。


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山石康裕プロフィ−ル

京都出身。染織原材料メーカー『箔蔵』、着物メーカー「株式会社山石」、麻布和装サロン「上品屋(じょうぼんや)」オーナー。日本の伝統文化を守り育てていくための勉強会、『山石会』主宰。製造の中でも全てが細分化されている京都の染織業界の中で、唯一全体を見渡し、人間国宝をまとめあげるコンダクターとしての手腕には定評がある。「上品屋」の着物は、美智子皇后御用達でも知られている。近年は「和」のライフスタイルをクリエイトする「Kimono Master」としてTV、雑誌、インターネットなどさまざまなメディアで活躍中。 http://www.yamaryu.tv


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Kimono Master
山龍(やまりゅう)


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