第1回:みみちゃん(7歳)
みみちゃんは2009年生まれの小学2年生。お母さんの実家は都内の台湾料理屋です。台湾人のお父さんはヒーリングサロンを経営していて現在台湾に単身赴任中。お母さんも在日台湾人。お店はじぃじがじぃじのお父さんから受け継いだ老舗です。取材に来たわたしたちは、ランチのビーフンを食べながら、みみちゃんが降りて来るのを待ちました。
ドタドタドタ…………(上の階から「赤ちゃん貸してー!」の声が近づいてくる)
先頭きってみみちゃん、その後を追って長男のりゅう君(4)、そしてお母さんとお母さんに抱かれた次男ゆう君(1)が登場。
母:お待たせしましたー。
みみ:赤ちゃん貸してー!
みみちゃんは弟のゆう君を抱っこしたいようです。
母:だめー落とすから。
みみ:落とさない! 落とさないから貸して!
ゆう:……。
お母さんからゆう君を奪い取ろうとするみみちゃん。その場でジッと様子をうかがうりゅう君の頭のてっぺんは毛がピンと立っています。まるで水木しげるの『悪魔くん』みたい。
まほ:りゅう君、寝癖?
りゅう:……おねえ
みみ:(さえぎって)わたしが朝やったの!
まほ:みみちゃんがセットしたの? スゴイね。
みみ:へへへ……水とティッシュでやったの(と、言いながらりゅう君の髪をツンツン)。
まほ:何をイメージしてるの?
みみ:おだいりさま。
まほ:お内裏様? ひな祭りの?
みみ:そー。
りゅう君の立った髪は、お内裏様の「烏帽子(えぼし)」を表しているそうです。
まほ:ひな祭り、もう終わっちゃったのに?
みみ:ツンツンツンツン……(今度は赤ちゃんの顔を指でツンツングイグイ)
ゆう:ミャー! ビエーン!
母:みみ! やめて!
まほ:ハハハハ……。
母:りゅう、今年ひな祭りの存在を知ってから将来の夢がお内裏様になったんです。
まほ:渋い夢だねぇ。
りゅう:……(小声で)しゃく、もってくるの忘れちゃった……。
みみ:(大声で)忘れたねっっ!!!!!
まほ:じゃあ、みみちゃんの将来の夢……
みみ:あ、ちょっと待っててね。(そう言うとみみちゃんは個室の外に出て、隣の部屋へ。りゅう君も後を追って部屋を出る)ガタ! ガタガタガタガタガタガタ!(部屋を仕切っている蛇腹の壁が揺れる)
まほ:ぎゃー!
母:みみ!!!!!(怒)
みみ:ぎゃはははは!!
将来の夢って何ですか?
超元気なみみちゃん、動き回ってお腹が空いたのか、お昼のルーロー飯(台湾の代表的な肉かけご飯)が運ばれて来るとようやく椅子に座りました。りゅう君は早々と座って、主にルーロー飯の具ばかり食べています。お肉が好きなんだね。それにしても、毎日美味しい台湾料理が食べられるなんて本当に羨ましいですね。
まほ:(気を取り直して)将来、何になりたい?
みみ:(小声で)アイドル。フフフ……。
まほ:どうしてなりたいの?
みみ:かわいいから。
母:散々大騒ぎしてよく言うよ。
まほ:名前とか決まってるの?
みみ:リボンドハート。
まほ:それなに?
みみ:リボンとハートって意味。合言葉。
まほ:かわいいね。流行るかも。弟のりゅう君には、将来どうなって欲しいとかある?
みみ:男らしくなって欲しい。
りゅう君は赤ちゃんの頃から、みみちゃんにドレスを着せられたりヘアアレンジをされたりしたせいか、女の子の格好をすることに抵抗がなく、自分からドレスを着て遊ぶようになったのだそうです。姉としてさすがに不安になってきたらしく、最近では戦闘ごっこなどをみみちゃんが率先してりゅう君に教えているというのです。
みみ:ウルトラマンとか、好きになって欲しい。
母:でも、最近は結構そういうのも好きだよね。自分のこと「オレ」って言うしね。
まほ:「オレ(カフェオレの発音)」? それとも「オレ(抹茶オレの発音)」?
母:オレ(抹茶オレの発音)。
りゅう:オレなんて言わない!
母:言うでしょ。最近なんでも否定するんですよ。
まほ:りゅう君、お内裏様の他にも夢ある?
りゅう:(お母さんの膝の上の乗りながら)……うんてんしゅ。
まほ:電車の?
りゅう:(首を横に振る)
まほ:新幹線?
りゅう:(首を横に振る)……たくしー。
まほ:タクシーの運転手かあ。
りゅう:(お母さんの方を向いて)ママ、りゅうがうんてんしゅになったら、にんきでるとおもう?
母:うん。人気出ると思うよ。
まほ:じゃあ、お姉ちゃんがアイドルになったら、人気出ると思う?
りゅう:(首を横に振る)
みみ:りゅう!
まほ:あ、怒った(笑)。
みみ:そんなこと言うんだったら、後でりゅうのこと焼くよ! お鍋の上で! 立たせたり座らせたりして、焼くよ!
まほ:やばい(笑)。地獄(笑)。
人生初の試練って?
そんなみみちゃんも、去年試練があったとか。お母さんと弟たちと一緒にお父さんの待つ台湾へ帰る日、なんと空港でみみちゃんのパスポートが失効していることに気づいたそう。
まほ:それでどうしたの?
母:頼み込んだんだけど、どうやっても無理で。
まほ:そりゃそうだ……。
母:ちょうどじぃじとばぁばが送りに来ていたから、みみだけそのまままた実家に逆戻り(笑)。パスポートが発行されるまでの10日間、わたしたちと離れて暮らしたんです。
まほ:それは大変だ。
母:台湾の空港に迎えにきた夫が「アレ? みみは? トイレ?」って聞くから、「日本」って(笑)。
まほ:『ホーム・アローン』じゃん!
母:しかも、空港ついた途端、りゅうが39度の発熱。イミグレーションのサーモグラフィー、りゅうだけ真っ赤で(笑)。
まほ:インフルエンザ?
母:いえ、夏だったし。インフルエンザは今年の冬に姉弟(きょうだい)全員やりました。
まほ:え……! 3人全員!?
みみ:ばぁばもなったよ!
まほ:ぎょえ~!
母:その後みみは、アデノウイルスで3週間学校休んで……。治ったと思ったらりゅうにもうつって……。
まほ:聞くだけでグッタリ(笑)。
人生設計してますか?
最後に、みみちゃんへ未来のことを聞きました。
まほ:今後の人生設計とかってある?
みみ:じんせいせっけい?
まほ:大きくなるまでに、したいこととか。
みみ:6年生までに一輪車がうまくなりたい。
まほ:6年生、まで、結構あるねえ。
みみ:じゃあ、3年生になるまで。
まほ:一輪車、今の子も好きなんだね。
みみ:一番すき。ひろばでやるの。
まほ:中学生になったら?
みみ:わかんない。
まほ:髪伸ばしたい、とかさ。
みみ:髪伸ばしたい。
まほ:(笑)。
みみ:耳のところまでまっすぐで、その下フワフワ。湯浅先生みたいな。
まほ:湯浅先生、耳のところまでまっすぐで、その下フワフワなんだ。……高校生になったら?
みみ:お弁当食べれるようになりたい。
まほ:大人になったら?
みみ:赤ちゃんが生まれる人のお手伝いしたい。
まほ:助産師さんてこと? あれ? アイドルは?
みみ:アイドルは……若くないと。
まほ:なかなか現実的だね……若いって何歳?
みみ:……じゅうだい。
まほ:20代は若くないの?
みみ:ひとつだったら若い。
まほ:21歳ってこと?
みみ:うーん、わかんない。若いかも……わかんない!
まほ:気を遣ってくれてるのかな(笑)。結婚は? 子供は欲しい?
みみ:……わかんない、わかんない! YouTube観たい!
みみちゃんはそろそろ電池切れ。新幹線動画をジッと観ていたりゅう君のスマホを取り上げて喧嘩勃発。ということで、退散することにしました。元気なみみちゃんが、家族の太陽であることは間違いありません。そして、お姉ちゃんに圧倒されつつも自分のペースを守っている弟たち。頼もしいです。たくさんの家族に囲まれて暮らすみみちゃんのお家は毎日賑やか。お母さん、ホンットーにご苦労様です!
つづく
文・絵:しまおまほ 編集:小川和子 デザイン:根本真路
エッセイスト、イラストレーター
しまおまほ/
1978年生まれ。主な著書に『ガールフレンド』『マイ・リトル・世田谷』(主にスペースシャワーブックス)などがある。
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