「思っているけれど口にしなかったことを、文字にすることは新鮮でした」
――今回、フォトエッセイ「瞳のまにまに」の発売はどのようにして決まったのですか?
田中さん(以下、敬省略):お話をいただいたのがきっかけでした。テレビ局のアナウンサーは、いち会社員なので「自分の本を出す」「自分の話をする」「自分のことを主張する」という機会がほとんどなく、勇気がいることだと思いました。でも、こんな機会は一生に一回しかないかもしれないと思い、お受けすることを決めました。
――実際にエッセイを書いてみていかがでしたか?
田中:「こんなに大変なんだ」と思いながら書いていたのですが、書く作業がすごく楽しかったので終わってみると寂しさが押しよせてきました。思っているけれど口にしなかったことを、文字にするいう作業がとても新鮮でした。
――エッセイを書くことで、新たな自分の発見はありましたか?
田中:思っていることや悩んでいることを人にほとんど話さないタイプなので、文字に書き起こしてみると、ぼーっと生きているようで自分もちゃんと考えていたんだという気づきがありました(笑)。
――完成したフォトエッセイを見ての感想を聞かせてください
田中:「これが世に出てしまうんだ」と、少し不安な気持ちになりました。先ほどもお話ししましたが、アナウンサーとしても、プライベートの自分としても、とにかく自分のことを話さないタイプなので、留めていたものを一気にこんなに出してしまって大丈夫かな?と(笑)。読んでくださる方の反応が楽しみですが、その反面少し怖い部分もあります。
――タイトルに込めた思いは?
田中:もしかしたらこうしてフォトエッセイを出させていただくのは最初で最後かもしれないので、猫を被った姿で書いたり、映ったりするのではなくて、いらないものを削ぎ落とした〝ど真ん中〟の自分を表現したくて「瞳のまにまに」というタイトルを付けました。〝まにまに〟という言葉が好きで、もしタイトルを自分で決められるなら、入れたいと思っていた言葉です。まだ発売はされていないですが(インタビュー当時)、このタイトルにしてよかったと思います(笑)。
――いちばんこだわった部分はどこですか?
田中:もちろん全部ですが、やっぱりエッセイだと思います。せっかく書いても、次の日に改めて読んでみると「気持ち悪い」と思って全部消したり(笑)、ありのままを書こうとしているのに、ONのスイッチが入って格好よく見せようとしているときもあったり…。「この本に嘘の自分を絶対に入れたくないという」という強い思いがあったので、少しでも自分の中で「違うかな?」と思う文章は入れないようにしました。
――アナウンサーという職業のパブリックイメージと実際の自分自身のギャップを、どのように自己分析されていますか?
田中:私自身、アナウンサー=キラキラしているというイメージが元々あまりありませんでした。実際にこの職業に就いてから、自分がどんなふうに見られているか、世の中ではどんなイメージなのかというのを、ジワジワと実感していきました。そのギャップに対して若干違和感を感じながらも、仕事をする上ではあまり問題意識も感じていなかったのでそのままにしていましたが、SNSなどを通じて、本来の自分とは違う捉えられ方をされるというのは少しやるせないなという思いが、ここ2、3年くらいで膨らんできたような気がします。パブリックイメージに自分を近づけるのではなく、本来の自分でいたいという思いがあったからこそ、今回のフォトエッセイはすごくいい機会をいただいたと思っています。
――読者にここを読んでほしい、見てほしいというところがあれば教えてください
田中:今回のエッセイで、PMSについて触れているところがあります。これを読んだ方はどんなふうに思うかな?と思いながら書いたのですが…口には出せないけれど、何かを我慢して踏ん張って働いている方はたくさんいますし、毎日朝起きていることだけでもえらい! とご自身を誉めてあげてほしいです。私自身も「今日は〇〇がツラい」「調子が悪い」というのを出さずに、画面に映るようにしていますが、テレビに出る仕事だけではなく、誰もがいろいろなツラいことを抑え込んで頑張っていらっしゃると思うんです。そういう方々の気持ちの負担が少しでも軽くなったらいいなと思いながら書きました。
「メイクのことを気にせず、ふと見つけた温泉に入れて幸せ!」
――定番のオフィスファッションは?
田中:〝オフィスファッション〟なんて言えないものだと思います(笑)。入社して2年くらいは、わりときれいめの格好を心がけていたのですが、最近は…パンツにスニーカーが定番です。初めてカジュアルな服装で出社したときは、アナウンス室の皆さんに驚かれました。マウンテンパーカにすごく大きなリュックを背負って出社していたので、「山登りでも行くの?」と(笑)。
―ちなみに、その〝すごく〟大きなリュックには何が入っているのですか?
田中:テレビ東京のアナウンサーは基本、自分でメイクをするので、メイク道具フルセットだけでも結構な荷物になります。家用と仕事用で2セット用意するのがいいと思うのですが、それももったいないと思って。フルセット持ち歩くのは、かなり嵩張りますし重たいです!
――プライベートではどんなファッションですか?
田中:古着が好きなんです。学生のときにハマっていたことがあり、少しブランクを経て、また最近戻った感じです。ダメージデニム、ゆるっとしたTシャツにメガネ、というスタイルが多いです。
――PC、スマホ、財布以外で、通勤時の必須アイテムはありますか?
田中:えっと、なんだろう…バックを見てみますね。あ、ラムネです! 規則正しく三食摂れないことが多く、集中力が切れたときにラムネ食べると、ちょっと回復する気がします。
――美容のルーティンはありますか?
田中:信じられないくらい、何もしてないんですよ(笑)。色々な化粧品やケア方法を取り入れてみたのですが、超敏感肌というのもあり、なかなか合わなくて…。ふと全部やめてみたら肌の調子がよくなりました。メイクを落とす、たまに保湿用のパック、化粧水、クリーム、終了!です。
――最近、幸せを感じた瞬間は?
田中:夏休みに離島へ行きました。普段メイク道具一式を毎日持ち歩いているのに、なぜか忘れてきてしまって…。空港で気づいてどうしようかと思ったのですが、結局そのまま過ごしたんです。それが意外と最高でした(笑)。旅先でふと見つけた温泉にメイクのことを気にせずそのまま入れたことに幸せを感じました!
――働く上で、自分自身で大切にしていることは?
田中:他のお仕事にも通ずると思うのですが、アナウンサーの仕事は、作る側の皆さんが作り上げたものを、最終的に言葉にしてお伝えする立場で、やろうと思えばすべてお任せすることもできてしまいます。原稿に書いてあるものを読むだけでも、現場は成立するかもしれない。でも、それは絶対にしないと心に決めています。ひとつひとつのお仕事に自分のこだわりを持って取り込むこと、〝お任せにしない〟ことを大切にしています。
――お仕事で壁にぶつかったり、ツラいことがあったときは、どのように切り替えていますか?
田中:まず、人に相談することはありません。ひとりで食事に行くことも多いのですが、店員さんやその場で一緒になった初めて会う方と楽しく話すことで、無意識に切り替えられているのかもしれないです。
――入社されてから約5年、後輩が増えていると思いますが、どんな先輩でいたいですか?
田中:自分では真面目に仕事をしていると思っているのですが…その真面目さっていうのかな? ひとつひとつの仕事に対して、自分なりのこだわりをもって、及第点でいいやと思わずに仕事に向き合う姿から、後輩たちに何かが伝わればいいなと思います。正解のない仕事ではあるので、すべてを教えるというのは難しいところもあります。だからこそ、仕事をしている姿を見て何かを感じてもらえたら嬉しいです。私も先輩たちからそうやって教えていただき、学んできました。
――これから先、どんな社会人生活を送りたいですか?
田中:5年10年先のことをちゃんと考えないといけないとは思っているのですが…明日のことを考えることで精一杯で、正直、想像がつかないです。でも、こうやって28歳で本を出させていただき、5年後に本を見返したときに、「根幹は変わってないな」と思えるような自分でいたいです。具体的に何をしたいというよりは、歳を重ねたからこその、その年相応のお仕事ができていたらいいなと思います。
とても柔らかくてキュートな顔立ちから感じる〝イメージ〟とは異なる、芯の強さとブレないまっすぐさ、そして飾らない自然体な魅力を放つ田中アナ。初フォトエッセイ「瞳のまにまに」は、5年間のアナウンサー生活で出会ったヒト、コト、モノについて、ご自身の言葉で執筆。インタビューでもお答えいただきましたが、今回、いちばん大切にしたという〝削ぎ落としたど真ん中の自分〟が伝わってくる一冊になっています。Oggi読者世代も共感できることがたくさんあるので、チェックしてくださいね。
テレビ東京アナウンサー田中瞳フォト&エッセイ「瞳のまにまに」
¥1,980/講談社/11月20日発売
撮影/岡本俊 構成/小山恵子
※本記事は2024年11月20日に公開されたOggi.jpと同内容になります。
あわせて読みたい