「大切なあなたを傷つける男が許せない」と言われて
お話を伺ったのは…
畑中萌美さん(仮名・39歳)。新潟県出身・都内の女子短期大学卒業、派遣社員(年収300万円)。5歳年上の夫(銀行勤務・年収1000万円)と結婚12年。東京の郊外にあるファミリーマンションに住む。子どもは11歳の息子。身長158cm、かなりほっそりしている。
お見合いパーティで知り合ったことを隠したい
萌美さんは、可憐ではかなげな和風美人だ。
「歴代の彼は5人いるのですが、全員モラハラでした。自力で出会うと、ダメ男ばかりを引いてしまうので、25歳から本気度が高いお見合いパーティに積極的に参加していた。地元に帰りたくなかったので、東京で結婚したかったのです。そこで半ばストーカーのようにしつこく言い寄ってきたのが夫なんです」
押し切られれるように結婚するも、「出会いについては絶対にしゃべるな」と釘を刺された。
「夫は恋愛結婚にこだわっていました。でも夫はエリート、私は庶民……住む世界があまりにも違いすぎて、共通点がないから出会いについてやたら聞かれるんですよ。そんなとき夫は『美術館の交流会で…』などとウソをついていて、驚きました」
社会復帰に大反対した夫
息子が2歳くらいまでは幸せだったが、徐々にモラハラ傾向が強まっていく。決定的だったのは、萌美さんが社会復帰したこと。
「結婚するまで続けていた販売の仕事は、夫から『家事と育児に専念しろ』と言われて辞めました。息子が生まれてから2年間くらいは、家族で海外旅行に行ったり、ママ友とランチしたり、楽しかったですよ。息子が幼稚園に入って時間ができたので『復帰したい』と言うと、夫が英会話の教室に通わせてくれました。でも私は勉強が嫌い。いつの間にか行かなくなってしまったことについて、怒鳴られたんです」
それを機に、萌美さんは社会復帰をする。
「父親が母親を怒鳴るような家庭で子どもを育てたくないと思い、自立するためにも派遣社員の仕事を始めたんです。『母親が家にいないと、息子がかわいそうだ』と何度も言われ、手を上げられたり、邪魔をされたりしましたが、新潟の実家に息子を預けたり、都内に住む叔母の手を借りたりして、就活と保活を同時進行してなんとか。それについては『オマエみたいなバカを誰が雇うか』と大反対されましたけど」
セクハラの嵐にあっても「夫よりはマシ」
萌美さんは、派遣先の会社で、かなりのセクハラを受けた。
「当時、33歳だったんですが、若く見えたんでしょうね。肩を揉まれたり、夫婦生活について軽口を叩かれたり、強引に誘われたり……あのときは、いろいろ麻痺していたので、『夫に比べればマシ』と思っていました。夫は私のことを自分の欲望を満たすための道具のように考えているところがあり、それに比べればセクハラオジサンは、暴力を振るわないだけいいんですよ」
とはいえ、不満は降り積もる。そんな萌美さんを支えてくれたのが、当時29歳の派遣社員男性。
「年齢も近く、優しい雰囲気なので、夫とのことを少し話してしまったんです。そしたら『僕の大切なあなたを傷つける男が許せない』と言ってくれて、キューンとなりました。それから『いつでも駆けつけますので、困ったときは連絡をください』とケータイ番号を教えてくれたんです」
夫の暴力から逃げ、トイレに立てこもった時に……
萌美さんと彼が不倫関係になったのは、それから間もなくしてのこと。萌美さんが34歳のときだった。
「夫が私の受け答えが気に入らないと、暴力をふるい始め、私はトイレに逃げ込んだんです。息子はリビングで泣いているけれど、夫は息子に手は上げないし、と。でも、私がこのままではトイレから出られない……そこで彼にメールをしたら、『助けに行きます』と。そこで15分もしないうちに、クルマで迎えに来てくれたんです。それがわかると勇気が湧いて、トイレから出て夫を突き飛ばしました。ひるんだすきに、バッグと息子の手を握り、彼のクルマに乗りました。彼は理想の王子様みたいでした」
その後、彼は自分が住んでいる実家に萌美さん親子を連れていってくれた。彼の両親は温かく優しく、息子は安心してぐっすり眠っている。
「それから2人で外に飲みに行ったのですが、お互いを求めてしまって”飲み”にならない。すぐにホテルに行きました。彼はとても優しくて、『痛くないんだ』と驚いたんです。歴代彼氏はもちろん、特に夫との関係はいつも激しい痛みを伴うもので、男女の夜がこんなに素敵なものだったのかと」
2日ほど、彼の実家に身を寄せていた。
「結局、夫から『お前がいないとダメなんだ』と土下座されて家に帰りました。あれから6年間、夫のモラハラは柔らかくなり、とりあえず結婚生活は続いています」
彼と萌美さんは、今も付き合っている。
「彼も34歳になって、息子も彼に懐いている。でも、夫と離婚して彼と結婚するとなると、生活のレベルがドーンと下がるんですよ。息子の大学進学も危ういかもしれない。そう考えると現状維持が最善のような気がするんです。彼からは『将来を考えたい』と言われているし、悩ましいところです」
決断を先延ばしにするうちに、ふたりの男性の人生を大きく変えているのかもしれない。それは”暴力”的なほどに…そのことに萌美さんは気付いていない。
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Writer&Editor
沢木 文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。お金、恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。