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2018.10.18

米中の貿易戦争騒動で日本が改めて考えるべきことは?【三浦瑠麗の「優しさで読み解く国際政治」】

 

国際政治学者・三浦瑠麗さんに教えていただく世界の「今」。今回は、米中の貿易戦争で本当に危機感を覚えなくてはならない点を伺いました。

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煽られる米中貿易戦争の舞台裏。本当に危機を感じるべき国は?

「米中の貿易戦争が始まった」という鮮烈な見出しが新聞や雑誌に躍っています。選挙戦中から製造業の保護を打ち出してきた米国のトランプ政権は、鉄鋼(25%)とアルミニウム(10%)への関税を発動し、6月までに各国へ実行されました。特に中国から輸入される鉄鋼はその量が凄まじいことから、米政界が過剰生産だとして中国への批判を強めています。 問題は、これが明らかなWTO規定違反であるのに加えて、米国の製造業の競争力を逆に損なってしまう公算が高いこと。製造業にとっては、単にコスト増を招くだけだからです。

日本に関しては、輸出しているアルミニウムは他で代替しにくい高性能素材ですから、10%の関税をかけられても米国への輸出量が減るとは思えません。 しかも関税措置の対象となった各国は、米国に対する対抗措置として、米国からのさまざまな輸入品に関税をかけると発表しました。米国経済に与えるダメージは、こちらのほうが深刻です。 たとえば、中国は米国債の買い控えを検討し、対抗措置をワインや畜産といった農産品を対象にしています。これらの特徴は、他の国のもので代替可能であること。米国では製造業が衰退している結果として、おもな輸出品はIT、軍事、農業の分野に集中しています。つまり、中国は米国産の牛肉を食べなくともオージービーフを食べればよいので困らないけれど、米国の畜産農家は痛手を受けることになります。

イラスト/本田佳世

米中の貿易戦争は、実際に起きるのか?

なぜトランプ政権はこのような非合理的で乱暴な関税措置をとるのでしょうか。それは11月の中間選挙を意識した保護主義風の演出にあるといえるでしょう。「中国に対しても他の国に対してもこんなにタフだ」と見せるためです。実質的には米国経済にマイナスであったとしても、トランプ大統領を支持する層に対しては、タフにふるまい「溜飲を下げる」効果のほうが大きいという読みなのでしょう。もはや国際経済をめぐる議論ではなく、米国政治における民衆感情と雰囲気をめぐる問題なのです。

では、米中の貿易戦争は実際に起きるのでしょうか。米国がこれまでのところ実際に発動している関税措置は、発表したうちの一部にすぎません。ブラフ(口先の脅し)に留まる部分も多いでしょうし、実際、米国経済が相当の打撃を受ければ、どこかで手打ちをせざるを得ません。中国から米国への輸出で儲けているのは、原材料や部品を安く仕入れられる米国企業であり、消費財を安く手に入れられる米国の消費者なのですから。 しかも、関税措置の最大のターゲットである中国は、自らの経済を犠牲にしてまで貿易戦争などしたくありません。中国は日本や韓国と違って安全保障を米国に依存していませんから、交渉するならどうぞという姿勢です。グローバル経済の下では、本質的には貿易戦争などできないのです。 米中貿易戦争を煽る人々は、実体経済がわかっていないか、過去の覇権競争の事例にとらわれすぎています。米ソの冷戦モデルを米中に当てはめようとする人もいますが、当時の米ソ間の貿易は総額の1%程度しか占めていませんでした。今や中国は米国の最大の貿易パートナーであり、それゆえに多くの貿易赤字を生んでいるのです。

国際政治学では、これまでの歴史から、米中の権力移行に伴う対立激化を予測する説が少なくありませんが、これほどまで深く結びついた経済パワーの間で覇権交代が起きた事例は、過去には存在しません。 危機があるのはむしろG7諸国の側。米国は、第二次世界大戦後に西側諸国優遇政策をとってきました。これは、第三次世界大戦を避けるための意識的な努力でした。戦後復興を助け、敗戦国にも寛大な政策をとり、米国市場を開いてきた。しかし、冷戦が終わったことを正面から捉えれば、もはや同盟国を特別扱いする理由はないとトランプ政権は考えています。 日本経済だって米国が見逃してくれるほど小さくありません。米国の対外貿易赤字の2位は日本なのですから。安全保障を米国に頼り切る日本は、もっと自身が危機感を覚えなければならない立場にあるのです。

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国際政治学者

三浦瑠麗

1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。

Domani9月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:イラスト/本田佳世  構成/佐藤久美子

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