【目次】
結婚直後に最愛の弟が突然の事故死
結婚願望がなかったのにアメリカ人のAさんと籍を入れた理由。
それは単純に、彼が外国人だったので、ビザを取得するためというのが大きかったそう。
望さん:彼も結婚には興味がないタイプだったので、同じ国籍だったら結婚という形を取らなかったかもしれません。「お互い快適に暮らすため」という合理的な目的のために結婚したけれど、ちゃんとプロポーズもしてくれて、すごく幸せな結婚生活になりました。
Aさんは英語講師の仕事をしながら、幸せな新婚生活を送っていた結婚2ヶ月目に事件は起きました。
望さんの最愛の弟が、交通事故で急死してしまったのです。
望さん:私たちの結婚式を祝ってくれた親族が、その2ヶ月後に弟のお葬式に集まり、みんな一気に天国から地獄に突き落とされた気分でした。弟がいなくなった辛さと、その後の裁判の煩雑さで、当時のことは記憶がほとんどないんです。環境を変えたくて、彼の実家があるL.A.に逃げるように移住しました。
壮絶な共依存生活の始まり
この頃からAさんがお酒を飲んで悪酔いすることが多くなります。
高卒で学歴にコンプレックスがあったAさんは大学に通い始め、望さんはカフェでバイト。おおらかな性格の夫は、生活も行き当たりばったりで、父親が経済的な援助をしてくれて生活には困っていなかったため、大学の勉強に集中しつつ時々バイトをしながら、悪酔いするとき以外は望さんと楽しく暮らしていました。けれど、最初は楽しく飲んでいたお酒が1日にビールを3リットルも飲むようになった頃には、彼が酔って望さんに突っかかることが増え、ケンカをすることも度々。
その背景には、Aさんが子どもの頃に受けた心の傷が関係していたといいます。
望さん:彼は複雑な家庭環境で育っていて。幼い頃から母親の虐待を受けていたんです。ヒステリックな母親は、彼の目の前で父親に猟銃を向けたこともあったそう。そして親戚のボブおじさんだと思っていた仲のいい男性が、実は、実の父だと大きくなってから知らされたんです。それも彼に絶望感を与えたみたいで。「父は母の虐待を知っていながら僕を守ってくれなかった」という恨みがあるし、母親の愛情に対する飢餓感もすごくて。
いわゆる、機能不全の家庭で育ったAさん。
母親の母である祖母も、Aさんの母に対して虐待をしていて、負の連鎖を抱えた家系。自分を辛い目に合わせた母親に繋がるものすべてを断ち切りたくて、Aさんは15歳のときに、仲良しの姉以外、腹違いの妹の含めた全員と絶縁していました。その縁を再び繋いだのは望さん。
望さん:その前に、スーパーで彼が父親をみつけたけど声をかけられなかったと話していたのを聞いていたので、「そろそろ連絡をしたら?」とは言っていたんです。そのあとに、私たちが結婚してL.A.に住んでいると知って彼の妹が連絡してきたから、仲直りするように彼の背中を押しました。。そこから、妹の家の近所に住んで、実のお父さんとも連絡を取るようになりました。
それでもAさんは、仲直りして援助してくれてるようになった実の父親のことも「お父さん」と呼ぶことはなく、親子の間にまだよそよそしい空気は残っていました。
アルコール依存になった夫が抱える苦しみ
望さん:彼はものすごく頭が良いし、何をやっても器用にこなせてしまうタイプ。日本語も独学でその頃にはペラペラになっていたし、絵を描かせても上手い。才能に溢れていてバイタリティもあるから周りの人気者でした。それなのに、そんな生育環境だったせいで、自己肯定感がとにかく低いんです。自信がなくて、「親に認めて欲しい」という気持ちが常にどこかにあったんだと思う。
お酒を飲むと、普段抑えている母親に対する怒りやさみしさが溢れてしまい、それを望さんにぶつける。時には物に当たったりすることも。
「どんなに罵倒しても自分から離れずに、すべてを受け入れて欲しい」。機能不全家族で育った「アダルトチルドレン」の彼は、無意識に、望さんに母親の無償の愛を求めていたのです。
望さん:あまりに辛くて、「私に無償の愛を求めないで。私が与えた分は返して欲しい」と伝えました。彼もそれは頭では理解しているのに、お酒を飲むとタガが外れてしまうんですね。暴れることで構って欲しがる。そうすると私も、「私がなんとかしてあげなきゃ」と思ってしまう。それが共依存の始まりでした。
帰ってこない夫が不安でパニックの発作に
その頃、望さんは望さんで、弟が事故で亡くなったことでPTSDの不安障害を抱えていました。
望さん:夫が帰宅予定の時刻を過ぎても帰ってこないと、「死んでるんじゃないか」というパニック状態になってしまう。だからちゃんと予定通りに帰宅して欲しいと何度も説明しているのに、彼は「どうして僕のスケジュールをコントロールしようとするんだ」と、またケンカ。彼の妹が、パニックの発作を起こした私を見かねて、彼が飲んでいるパブに車で連れて行ってくれたことも何度かありました。
そんな精神状態のふたりが一緒に暮らしていたら、負のループに陥るのは容易に想像がつきます。
愛する弟の突然の死を経験した望さんも不安定な精神状態だったために、突然泣き出すことも。「弟の死を乗り越えたら、彼を忘れることになってしまうと思い込んでいたんです」。
上手くいかない妊活や、大学を卒業しても定職に就こうとする素振りのない夫にも嫌気がさして、ある日、望さんは日本に帰ることを決意します。
望さん:「私は日本に帰るけど、ついてくるかどうかはあなた次第」と、決断は彼に委ねました。結局、彼はついて来て、お金もないので私の実家で同居することになりました。
けれど日本に帰ったことで、夫婦の共依存関係は悪化することに。
壮絶な夫婦の物語と、そこから幸せになった望さんのエピソードは次回に続きます。
インタビュー・文
さかい もゆる
出版社勤務を経て独立。と思った矢先、離婚してアラフォーでバツイチに。女性誌を中心に、海外セレブ情報からファッションまで幅広いジャンルを手掛けるフリーランスエディター。Web Domaniで離婚予備軍の法律相談に答える「教えて! 離婚駆け込み寺」連載も担当。著書に「やせたければお尻を鍛えなさい」(講談社刊)。講談社mi-mollet「セレブ胸キュン通信」で連載中。withオンラインの恋愛コラム「教えて!バツイチ先生」ではアラサーの婚活女子たちからの共感を得ている。