夫はアプリ婚した15歳年上の経営者
お話を伺ったのは…
高森静香さん(仮名・34歳)。東京都出身・中堅女子大の文学部卒業、パート社員(年収110万円)。15歳年上の夫(IT関連会社経営・年収2000万円)と結婚5年。東京の城南エリアの中古マンション在住。子どもは4歳の娘。身長160cm、元読者モデルでロングヘア、アイプチとカラーコンタクトをしており、ぱっと見、可愛い。娘を産んでから増えた5キロが減らないのが悩み。
違和感だらけの夫とは利害関係が一致して結婚
静香さんと夫は、マッチングアプリで出会った。
「私が28歳のときに、当時付き合っていた彼と別れて、マッチングアプリに登録。真面目な出会いを謳ったアプリだけあって、いい人ばかりと出会いましたが、なにせみんな年収が低い。幻滅していた時に主人に出会い、交際3か月で結婚したんです」
当時44歳だった夫は独身主義者だった。しかし、両親から「結婚しない限り財産の相続分を減らす」と言われており、結婚を急いでいた。新婚旅行で静香さんが「どうして私と結婚したの?」と聞くと、「自然妊娠の可能性が高ければ、誰でもよかった」スマホをいじりながら、サラッと言ったという。
「夫は仕事第一、それに長年付き合っている年上の女性がいる。私も結婚したかった。プレッシャーから解放されたかったし、もう家賃を払いたくなかった。利害関係が一致して結婚したんです」
生活費は月50万円、それでも空しい専業主婦生活
新居は東京の城南エリアにあるハイエンドマンション。夫は毎月の生活費50万円を約束。これを機に、静香さんは派遣社員を辞めた。
「生活費は、夫の会社から毎月25日に振り込まれます。マンションは外観はオシャレなのですが、家の中は壊滅的に汚かった。リビングには書類と脱いだ服が散乱していて、冷蔵庫には何年も前にいただいた高級食材が未開封のまま放置してある。あまりの汚部屋に絶句していると、『静香の好きにして』と言うから、全部捨てて、素敵な部屋にしたら、今度はがらーんとして寂しくなった」
専業主婦になり、満員電車での通勤、セクハラ、パワハラ、突然の残業から解放されたけれど、何もすることがなくて、空しかった。
妊娠・出産して誇らしい気分になるも、ワーママを見て落ち込む
夫は誰かに入れ知恵されたのか、排卵日付近に関係を迫った。
「すぐに娘を授かりました。その時は、人として何かを達成したような誇らしい気持ちになったのです。しかし、要塞のようなマンションの中で、孤独に子育てしていると行き詰まる。夫は一切手伝わないどころか、『夜泣きがうるさい』と一時期ホテル暮らしをしていました。でも、腹は立たなかった。生活費をふんだんにくれていたことが大きいかも。『自分は手伝えないから』と、ベテランのシッターさんを、週2で派遣してくれて、その間は遊びに行けましたし」
大学時代の友達と、ランチやお茶を楽しむ。彼女たちは、働きながら子育てをしており、その姿がまぶしかった。
「平日のランチならいいよ、と言われて丸の内界隈に行く。友人たちは首からIDを下げて、ボサ髪と素爪で忙しくしている。時間に追われているかもしれないけど、社会から求められている自信に満ち溢れていてまぶしかった。『専業主婦、いいな』と言われても嫌味にしか聞こえなかったんです」
娘が3歳になったときに、犬を飼い始め、社会復帰する
静香さんは、3歳まで母親がベタ付きで育児をした方が良い、という「3歳児神話」を信じている。
「娘が3歳になり幼稚園に行くようになってから、1日3時間程度働くことにしました。近所の会社の事務手伝いと受付です。それと同時に、チワワを飼い始めました。1匹じゃかわいそうなので、3匹飼うことにしたんです」
犬好きな夫と娘は喜び、積極的に世話をするようになった。そして、静香さんは運命的な出会いをする。
「うちのワンコたちの担当獣医さんに一目惚れしたんです。イケメンで優しくて、仕事熱心で。本当に大好きです。まだ20代で独身」
「私の話を親身に聞いてくれる」ペットの担当医が好き
静香さんは、彼のことを「優しい」と何度も言う。その理由を聞いた。
「うちのワンコのうちの一匹は、生まれながらに障害があるんですよ。夫はペットショップに返品すると言ったのですが、障害がある子は処分されると聞いて、私は大反対。ウチの子として大切に飼っています。夫と娘は元気な2匹をかわいがるのですが、私は障害がある子がかわいい。熱を出したり、皮膚炎が悪化するたびに、病院に連れていくのですが、そのたびに先生が私の話を親身になって聞いてくれるのです」
用事もないのに、通院を繰り返し…
チワワを3匹飼い出してから、この1年間で、動物病院に50万円近く払ったという。
「ワンコがすぐに体調を崩すので、隔週で通っています(笑)。彼に会うのが楽しみというのもあります。彼のことが、本気で好きになったのは半年前。『痩せましたね』と彼がつぶやいたこと。てっきりワンコのことだと思ったんですよ。なぜなら多頭飼いをしていると、強い子に押しのけられて、体が弱い子はご飯を食べそこなってしまうことが多いから。そのことを言うと、先生は『いや、あなたが』と恥ずかしそうに言う。その時に、心臓がギューッと掴まれたように痛くて、ドキドキしてフワフワして最高の気分でした」
通院のたびに差し入れし、公式LINEでやりとり
それから、静香さんは、自作の弁当やキッシュを差し入れするようになる。先生は喜んで受け取るという。その礼は、病院の公式LINEアカウントから、行われているという。
やり取りを見せていただくと、「先ほどはごちそうさまでした。ありがとうございます」という文面だった。静香さんからは、「先生、今日もいい天気ですね!」「今日も1日幸せです」「月がキレイですよ~」など、絵文字やスタンプを多用した文面があり、「はい、そうですね」などという返信が来ていた。
「絶対に、先生も私のことを好きだと思います。彼女もいないみたいだし、ほとんど休みなく仕事しているし」
ほぼ、1年間、熱心にアプローチを続けているが、進展はない。
「何回か、診療時間の終わりごろに行って、先生から食事に誘いやすい雰囲気を作ったのですが、『これから学会があるので』と言われました。すごく残念そうに言うんです。私も脈がなければ諦めるのですが、相手も私のことが好きだとわかっているから、後はじっと待つだけです」
将来的には、夫と離婚して、ワンコと娘を連れて、先生と再婚したいのだという。
「かわいい動物と愛情に囲まれて、すごく楽しく生活ができると思うんです。動物病院は儲かるみたいだし、私が受付と事務をやれば、彼を助けられる。”引き寄せの法則”ってあるじゃないですか。ずっとそのことをイメトレしていれば、叶うという。だから私、彼との幸せな生活を祈っているんです」
夫や娘より、彼を優先して考えた1年間。静香さんは、「今までになく生き生きとしている」と語る。夫にも優しくなり、娘の世話も怠らず、家族関係は良好。彼と動物病院の共同経営を目指しているため、今の仕事にも熱が入り、パートから契約社員に昇格する打診もされたという。
脈がない片思いは、人生向上のエネルギー源かもしれない。恋は現実にならないから、輝くのだ。
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Writer&Editor
沢木 文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。お金、恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。