重いものを持ち上げても、鍛えたい筋肉に負荷をかけるフォームになっていなければ意味はなく、それとは反対に、軽いものでも鍛えるべき筋肉に的確に負荷をかければ、驚くほど筋肉は発達するのです。
筋肉に効かない悪いフォームの典型は、以下の2つです。
A ダンベルやバーベルなどの重りをゆっくり持ち上げて速く下ろす
B 重りを床などに落とした際の反作用を利用して持ち上げる
両者に共通しているのは、重りを「しっかりと下ろしていない」という点です。
ジムに行かれたことがある方は、マシントレーニングやバーベルトレーニングで、1回ごとにガチャンガチャンと大きな音を出しながら重りを床に叩きつけるように落としたり、その際に床から受ける反作用を利用し、持ち上げる人を見かけたことがあることでしょう。
まるでバスケットのドリブルのように、1回ずつバウンドを利用して持ち上げているのです。騒音で周りに迷惑をかけるだけでなく、自身にとっても努力の割に効果が得られない残念な方法です。
「上げる」ことを意識しすぎるのはダメ
筋トレは「重りを持ち上げて、下ろす」という動作を繰り返すシンプルな運動ですが、こういった方々は持ち「上げる」ことばかりに意識がいって、「下ろす」ことに注力していないのです。
少し専門的な話になりますが、重りを持ち上げる際、筋肉は縮みながら力を発揮します。これを〝コンセントリックな収縮〟と呼びます。そして重りを下ろす際は、筋肉は伸びながら力を発揮します。こちらは〝エキセントリックな収縮〟と呼びます。
上体起こし(腹筋運動)では、上体を起こす際、お腹の腹直筋はコンセントリックな収縮をし、上体を床に下ろしていく際にエキセントリックな収縮をします。
努力の割に筋肉が鍛えられない人は、コンセントリックな収縮だけを意識し、エキセントリックな収縮をおろそかにしているのです。上体起こしでいえば、体を持ち上げることを重視するあまり、床にドスンと上体を落とし、その際に床から受ける反作用を使って起き上がってしまっているのです。
効率よく筋肉を鍛えるには、重りを下ろすエキセントリックな収縮が大事だということは、経験則からある程度知られていました。近年、エディスコーワン大学(オーストラリア)の野坂和則教授らの研究によって、それが科学的にも事実であることが明らかになってきました。
つまり筋トレは持ち上げるコンセントリック・トレーニングよりも下ろすエキセントリック・トレーニングが重要ということです。
同じ努力をするなら、最小限の努力で最大の効果を引き出したほうがいいですよね。それがエキセントリック・トレーニングなのです。
パートナーに重りを持ち上げてもらって、自分で重りを下ろせば完全なエキセントリック・トレーニングになりますが、パーソナル・トレーナーを雇いでもしない限り現実的ではありません。1人で行う場合には、「いかにコンセントリックな収縮ではラクをして、エキセントリックな収縮をしっかり強調するか」が重要なポイントになります。