砂糖の量を0.01%変えただけでも味のバランスや印象は変わってきます。私は面倒くさがりなので、最初はおっくうだと感じていましたが、そういう細かいところまで突き詰めると、実はおいしいポイントが眠っていたりします。後悔するのも嫌なので、本当に細かいところまで妥協せずに確認してやるようにしていました。
“晴れ感”とは? 想像する味がメンバーで異なり対立
先ほどから「ピーリーな香り」「果汁感」などたくさんの味覚を表現する言葉が使われていますが、具体的には想像しづらいかもしれません。言葉で味を伝える苦労というか、社内のコミュニケーションで困ったことはないですか?
マーケティング部と開発部で「元気になれる爽やかなレモン」の意味合いで“晴れ感”という共通ワードを置いていました。これがすごく抽象的なワードで「鼻にスーッとくるようなもの」を想像する人もいれば、「切りたてのフレッシュなレモン」を想像する人もいて、人それぞれ認識がまったく異なっていました。そのせいで味づくりが止まってしまうほどに、険悪になったことがありました。
これはもう農園に行って実物を見るしかないと考えて、瀬戸内にメンバーを連れて行きました。場所を借りて、朝から晩まで摘みたてレモンを切ったり搾ったりして、ワークのようなものを行いました。摘みたてから1時間たっただけで、香りはまったく違います。また、同じ木でも日の当たり方によって違ってきます。いろいろ体感して、議論を重ねて、そこでようやく全員共通の“晴れ感”を見つけました。
実際に体感して認識を共有したのですね。ほかにも工夫していることはありますか?
レモンの香りは、香気成分レベルに落とすと300種類くらいあります。これをすべて覚えるのは無理ですが、飲料として必要な成分は絞られてきます。ここにわかりやすいあだ名をつけています。例えばレモンが劣化するとメンマのような味がしてきます。ここに「メンマ臭を下げたい」といった共通ワードができると、次の改善につながりやすくなります。
メンマ臭! そうして言語化できると伝わりやすそうです。最後に、キリンレモンは以前から瀬戸内のレモンエキスを使っています。いろいろなレモンを味わってきて、やはりいちばんおいしかったからですか?
キリンレモンには独自性があって、果汁感だけではなく、ピール部分、外皮の部分、薄い皮の部分といろいろなレモンの香りが凝縮されているのが大事だなと、ほかを見てその大切さに気づかされました。結局は、キリンレモンには「瀬戸内がいい」「本物のレモン感がいい」という結論に至ります。
それで、瀬戸内のレモンがおいしかったので、個人的にレモンの木のオーナー権を買いました。コロナでなかなか瀬戸内には行けませんが、農家さんがレモンを送ってくれるので、今も自宅で研究しています。今は、開発はしていないのですが、そういったところは続けてやっています。
第一印象では物静かに見えた宮本さんだが、レモンのこととなると話が止まらない。とくに香りを表現する言葉の多さには圧倒された。「神は細部に宿る」というが、彼女はその神を見つけようとしているようにも思える。南半球搾りで味が変わるかなどうまく感じ取れる自信はないが、今度試してみようと思う。
ライター
高橋 ホイコ
1976年生まれ。国民生活センター勤務を経てフリーライターに転身。ウェブメディアを中心に執筆中。企業の一風変わった取り組みへの取材を得意とする。趣味はホルン演奏、ピンクのガジェット収集、交通インフラの豆知識集めなど。トマトマンの斜め上行く生活術管理人。
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