自由な時間が逆に負担や不安を生み、孤独やプレッシャーを感じやすくなる点が特徴。
受験生が追い詰められる「情報過多の夏」
受験を控える子どもにとって、夏休みは学習量を確保するための重要な期間とされています。とはいえ、時間がある分、「今こそ頑張るべき」といった意識が自らに重くのしかかることもあります。
加えて、塾の講座や模試、周囲の学習進度に関する情報が多く入ってくるため、「他人より遅れているのではないか?」といった不安を抱えやすくなります。結果として、気力や集中力が削がれていくことも見受けられます。
特性に応じた支援が届きにくい休暇期間
発達特性を持つ子どもや、生活のリズムを安定させる支援が必要な場合、学校という日常の拠り所がない夏休みは、環境の変化が大きな負担になります。登校という習慣が一時的に止まることで、生活の構造自体が崩れてしまうこともあるでしょう。
支援学級や特別なサポートが一時的に止まる中で、家庭内だけで過ごす時間が増えると、子ども本人も保護者も対応の難しさを感じやすくなります。一定の環境が保たれにくいことが、夏休み特有のつらさの一因として挙げられます。


制度と支援の「すきま」が家庭を追い詰める
「休み=家族の時間」とされる社会通念と、現実との乖離。学童の定員制限、支援の空白、休めない職場。こうした制度的な課題が、個人にのしかかる問題を構造的に深刻化させています。ここでは、制度と現場とのズレに焦点を当てて見ていきましょう。
学童や預け先の「受け皿不足」が選択肢を奪う
夏休み期間中は、子どもを安心して預けられる場所の確保が課題になりやすくなります。学童保育は、自治体ごとに受け入れ上限が異なり、希望者が多い地域では抽選や待機が発生します。さらに、対象年齢や保護者の就労状況などに細かな条件が設けられており、要件を満たしていても利用できない場合もあります。
こうした制度の隙間に置かれた家庭では、急な予定変更や在宅勤務への切り替えを余儀なくされる場面も見られますね。
「休めない職場」と「在宅の子ども」が同居する矛盾
企業の勤務体制は、一般的に年度単位で設計されており、学校の長期休暇に合わせた柔軟な運用が難しいことがあります。特にシフト勤務やカレンダー通りの営業を前提とした職場では、「夏休みの子ども」との時間調整が困難になりがちです。
周囲に頼れる家族がいない家庭では、子どもだけで長時間過ごさせることへの不安が高まり、心理的な負担として蓄積されていきます。
社会の「理想の夏像」が個人を苦しめる構造
夏は、レジャーや旅行、家族団らんの象徴として語られることが多くあります。企業の広告や学校の配布物などでも、「家族で楽しむ夏」が前提とされる表現が多く用いられます。
しかし、現実には、そうした時間を確保できない家庭も多く存在します。予定を立てる余裕がない、体力的に外出が難しい、経済的に選択肢が限られているといった背景を抱えている場合、社会が描く「理想的な夏」に自分たちが合致していないことに焦りや引け目を感じることもあるでしょう。
「つらい夏」を少しでも軽くするためにできること
誰かのせいにできない構造的なしんどさだからこそ、自分自身を少しでも守るための工夫が必要です。ここでは、家庭や職場で実践できるヒントや、同じ立場の人たちが実際に行っている「無理のない対処法」を紹介します。
「完璧にこなさない勇気」を持つ
家庭と仕事の両方を担っていると、「何もかも滞りなくこなしたい」という気持ちが強まることがあります。しかし、常に完璧を目指していると、予期せぬ変更や小さな失敗に対して過剰に反応してしまう場面が増えるかもしれません。
意識的に「今日はここまでで十分」と線を引くことで、自分の中の負担感を調整しやすくなります。設定の6割くらいできていればOK! の気持ちで。この期間は頑張り過ぎないことを目指しましょう。

「一人の時間をつくること」を優先事項に
自分だけの時間を意識的に確保することは、心身のリズムを整えるうえで効果的です。誰にも話しかけられずに過ごす時間があることで、気持ちの切り替えがしやすくなります。
日中の3分間でいいので、読書、音楽、簡単なストレッチなど、身体や意識をリセットできる方法を見つけておくと、緊張状態からの離脱が早まる傾向もあります。トイレのたびに、水に手を浸しながら深呼吸を6回することも効果があります。周囲の状況が変えられないときほど、自分の内側にあるバランス感覚を整えることが支えになります。
家庭内で「ゆるいルール」を設けて過ごしやすくする
家族全員が無理をしないためには、日常の中に緩やかな決まりごとを設けておくことが有効な場面もあります。例えば「お昼ごはんは一人ずつ好きな時間に取っていい」「夕食は惣菜でもOKにする日を週に1回つくる」といったルールは、親の心理的な負担を和らげつつ、家庭全体の柔軟性を高めてくれます。
あらかじめ合意された枠組みがあることで、突発的な対応に追われることが減り、安定した日常のリズムを保ちやすくなります。
最後に
POINT
- 夏休みは家庭内外で親の役割・負担が大きくなる時期。
- 「家事・仕事・子ども対応」の重複で心身のバランスを崩しやすい。
- 一人で抱え込まず、適度に手を抜くこと・支援を頼ることも大切。
家庭と仕事を両立する親にとって、夏休みは休みではなく「重なり続ける責任の季節」でもあります。それでも、すべてを自分一人で抱えこむ必要はありません。小さな工夫や共感の積み重ねが、重たくなりがちな日々を少しずつ軽くしてくれます。
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監修
キャリアコーチ 菊池啓子(きくち・ひろこ)さん
2003年から企業研修トレーナー・人材育成コンサルタントとして活動。国家資格キャリアコンサルタント。研修登壇回数は年間100回を超え、これまでに5つの大学でキャリアデザインを教える。現在「社外上司」として多くのビジネスパーソンの悩みに寄りそい成長をサポート。趣味は出張先での御朱印集め。家族は夫と猫2匹。
X:@lotus_kikuhime
ライター所属:京都メディアライン
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