Summary
- 「お忙しい中」は相手の時間への配慮を示すクッション言葉。
- 感謝・依頼・謝罪など、唐突さを和らげる役割がある。
- 多用すると慇懃無礼に感じられる場合があるため注意。
「お忙しい中、ご連絡ありがとうございます」「お忙しい中恐縮ですが」ビジネスメールや電話で、毎日のように使っているこのフレーズ。なんとなく「枕詞」として定型文のように使っていませんか?
実はこの「お忙しい中」という言葉には、相手への深い配慮と、スムーズなコミュニケーションを生むための大切な役割があります。しかし、使い方を間違えると、「慇懃無礼」(いんぎんぶれい、丁寧すぎてかえって失礼)な印象を与えてしまうことも。
この記事では、相手の状況を尊重し、信頼関係を深めるための「お忙しい中」の正しい使い方を徹底解説します。
「お忙しい中」とは? 意味と使い方を解説
言葉をただの「記号」として使うのではなく、そこに込められた「心」を理解して使うと、伝わり方は劇的に変わります。まずは基本的な意味からおさらいしましょう。
「お忙しい中」の意味とは?
文字通り、「あなたが多忙であることは承知しているその最中に」という意味です。
相手が自分のために時間を割いてくれたこと、あるいはこれから時間を割いてもらうことに対して、「あなたの貴重な時間を奪って申し訳ない」「時間を割いてくれてありがとう」という感謝や謝罪、恐縮する気持ちを表現する言葉です。
これを文頭につけることで、いきなり用件を切り出す唐突さを和らげ、「あなたの状況を理解していますよ」という配慮の役割を果たします。

「お忙しい中」が使われる典型的なシチュエーション
主に以下の3つの場面で力を発揮します。
感謝
会議に参加してもらったときや資料を作成してもらったときに「お忙しい中ご参加いただき、ありがとうございます」と使います。
依頼
確認や対応をお願いするときに「お忙しい中恐縮ですが、○○をご確認ください」と前置きします。
謝罪
迷惑を掛けた場面で「お忙しい中申し訳ございません」と表すことで配慮を示します。
「お忙しいところ」との違い
似た言葉に「お忙しいところ」があります。「中」と「ところ」、どちらを使えばいいか迷いますよね。結論からいうと、意味はほぼ同じで、どちらを使っても間違いではありません。
お忙しい中
期間や状態の「内側」にいるニュアンス。継続的な忙しさを指すことが多いです。
お忙しいところ
特定の「時点」や「場面」を指すニュアンスが強いです。
メールなどの文章では「お忙しい中」が一般的によく使われます。電話や訪問など、その瞬間に割り込む場合は「お忙しいところ」の方が、状況にしっくりくることがあります。
「お忙しい中」を文頭につけることで、唐突さを和らげ、「あなたの状況を理解していますよ」という配慮の役割を果たします。
「お忙しい中」を使うビジネスシーン別・実例集
実際に明日から使えるフレーズを、シチュエーション別に紹介します。
社内メールで使う場合(上司・同僚宛)
社内の人に対しては、あまり堅苦しくなりすぎず、かつ敬意を払うバランスが大切です。
・上司に書類確認をお願いする時
「お忙しい中恐れ入りますが、お手すきの際に見積書の確認をお願いできますでしょうか」
・他部署の人に協力を依頼する時
「お忙しい中お手数をおかけしますが、ご協力のほどよろしくお願いいたします」
取引先や外部関係者への連絡メール
社外の人へは、より丁寧な言葉遣いを心がけます。「お忙しい中」をクッション言葉として効果的に使いましょう。
・アポイントの調整を依頼する時
「お忙しい中恐縮ですが、来週以降で30分ほどお時間をいただけますでしょうか」
・相手からの連絡を待つ時(催促をやんわりと)
「お忙しい中とは存じますが、ご確認の状況はいかがでしょうか」
単に「まだですか?」と聞くよりも角が立ちません。
お礼・返信時に使うフレーズ例
相手のアクションに対して、まず「時間を割いてくれたこと」への感謝を伝えます。
・素早い返信をもらった時
「お忙しい中、早々にご返信いただき誠にありがとうございます」
・打ち合わせに来てもらった時
「本日はお忙しい中、弊社まで足をお運びいただき心より感謝申し上げます」

会議・打ち合わせ時の口頭表現
メールだけでなく、話し言葉としても使えます。会議の冒頭や締めの挨拶に入れると、場が引き締まります。
・会議の冒頭で
「皆様、本日は年度末のお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
・電話をかける時
「お忙しい中失礼いたします。○○社の△△ですが、今お時間よろしいでしょうか?」
「お忙しい中」の言い換え・類似表現集【シーン別に解説】
いつも「お忙しい中」ばかりでは、表現がワンパターンになってしまいます。相手との関係性や、その時の状況に合わせて言葉を着替えられるのが、大人の嗜みです。
フォーマルな場面での言い換え例
目上の方、役員クラス、あるいは謝罪が必要な場面など、より改まった印象を与えたい時に使います。
・ご多忙(たぼう)の折(おり)
「ご多忙の折、大変恐縮ではございますが」
・ご多用(たよう)中
「ご多用中のところ、誠にありがとうございます。」
「多用」は「公私ともに忙しい」という意味を含みます。
カジュアルな社内連絡用の言い換え例
親しい先輩やチームメンバーなど、少し肩の力を抜いた表現が良いです。
・お手すきのときに
「急ぎませんので、お手すきの時にご確認ください」
・お仕事中
「お仕事中失礼します。今ちょっといいですか?」

取引先・目上の人向けの丁寧な言い換え例
「お忙しい中」よりもさらに相手の状況を慮(おもんぱか)る表現です。
・ご繁忙(はんぼう)の折
「年末のご繁忙の折とは存じますが」
相手が明らかに繁忙期である場合に使うと、「こちらの事情をわかってくれている」と好印象です。
「お忙しい中」以外に使える便利なクッション言葉
「忙しい」という言葉を使わずに、配慮を示すフレーズもあります。状況によって使い分けましょう。
・恐れ入りますが
依頼や質問をする時の万能クッション言葉です。
・お手数をおかけしますが
相手に何らかの作業を発生させる時に使います。
・差し支えなければ
相手に断る余地を残し、負担感を減らす表現です。
最後に
POINT
- 「お忙しい中」は相手の多忙を前提にした配慮表現。
- 感謝・依頼・謝罪の前置きとして使うと効果的。
- 場面に応じて「ご多忙の折」などに言い換えると好印象。
「お忙しい中」という言葉。それは単なるビジネスマナーの定型句ではなく、「あなたの時間を大切に思っています」というメッセージそのものです。相手の立場を想像し、心を込めた「お忙しい中」が使えるようになれば、あなたのコミュニケーションはもっと円滑に、そして温かいものになるはずです。ぜひ今日から、意識して使ってみてくださいね。
TOP・アイキャッチ・吹き出し画像/(c) Adobe Stock

執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
あわせて読みたい


