不眠でメンタルクリニックにかかったとき〝もっと身近な心のケア〟の必要性を感じてオンラインカウンセリング事業を始めました。
今月の妻:櫻本真理さん
株式会社cotree 代表取締役・36 歳
心の自由を尊重しながらゆるやかに過ごす時間を大切に
人は、自分の気持ちを口に出してだれかに伝えることで、ほっと心が救われることがある。陽の光が差し込む明るいカフェのようなオフィスで櫻本さんが運営するのは、ビデオ通話や電話を用いて24時間受けられるオンラインカウンセリングサービスの『cotree(コトリー)』だ。
「かつて私自身が軽度の睡眠障害でクリニックに行ったとき、メンタルに関わる医療に違和感を感じたことがサービス立ち上げのきっかけです。ほとんど話を聞いてもくれず、5、6問の問診で“軽いうつ病ですね”と診断されて3種類の薬を処方されたことに違和感を覚えました。心の不調の入り口くらいにある人たちには、もっと気軽に、使いやすいサービスが必要なんじゃないかと考えたのです」
臨床心理士や産業カウンセラーなど80 人の心の専門家を擁して展開されるサービスの利用者は、働く30~40代女性が多いという。
「この世代の女性は仕事人としての役割以外に、女、妻、母といくつもの役割や葛藤を抱えています。どれを選べばいいのか、本当はどれも選びたい。そんな思いを話すことで、自分の物語を紡ぎ直していただくんです」
櫻本さん自身の現在に至るまでの物語を語ってもらうと、そこには“心”にまつわる1本の線が見えてくる。幼少時代に父を亡くし、それでも人生の選択肢は広げてほしいという母の想いで高校時代にアメリカ留学を経験。日本人は自分ひとりの環境の中、現地で受けた心理学の授業に救われる。大学時代は人の心の合理性の不確かさや行動経済学に関心をもち、そこから外資系金融会社に就職。現在の仕事に至ったのは、株式アナリスト時代のリーマン・ショックによる環境の変化だった。社内で相次ぐリストラに、会社に対する信頼感がゆらいで働くことが楽しめなくなり、落ち込んだり眠れなくなって、メンタルクリニックのトビラを叩いた冒頭の話につながる。
会社設立から4年。『cotree』が軌道にのる中、新しい事業も始めている。「SNSのつながりを“頼り合えるつながり”に変える『takk(タック)!』というスキルシェアサービスや『escort(エスコート)』という起業家向けのコミュニティサービスです。悲しいかな、現代は自分ではない他者に対する想像力が乏しくなってきています。顔が見える他者との頼り合いの仕組みづくりにより、日常や仕事がより豊かに変わるのではないかと考えたのです。
人はどんなに忙しくても、心の健やかさを保つことが大切です。私自身は、時間をみつけては学生時代を過ごした京都を訪れることを習慣にしています。東京では気が張っていますが、京都では役割を果たさなくてもいい気がして、すごくゆっくり眠れるんです(笑)」
Profile
さくらもと・まり/1982年、広島県生まれ。京都大学教育学部で心理学を学び、モルガン・スタンレー証券に入社。23歳でゴールドマン・サックス証券に転職、株式アナリストとして勤務する。起業した同僚の事業のスタートアップ案件に携るため28歳で退職。その後32歳で現在の会社を設立。オンラインカウンセリングサービスを中心とするメンタルヘルスケア事業を展開。結婚は25歳。夫とはひと月に一度は京都旅を。
Domani2018年12月号『女[独身]、妻[既婚子供なし]、母[子供あり]Catch! 働くいい女の「木曜14時』より
本誌撮影時スタッフ: 撮影/ 真板由起( N O S T Y ) ヘア& メーク/ 今関梨華( P – c o t t ) 構成/ 谷畑まゆみ