美しい人は、美しい物語を持っている。それは、甘くきらびやかという意味ではなくて、バラにトゲがあるように、さなぎが蝶になるように、美しさとは真逆の痛みや忍耐をも含んだ、真に美しい物語。
1,000人以上の経営者をインタビューしてきた敏腕経済キャスター。そして東証一部上場企業の社外取締役。40歳にして華麗なるキャリアを築く美女・江連裕子さん。密着インタビュー第3回は念願の経済キャスターの座に着いた27歳、そこから30代半ばまでのめまぐるしいほどの日々を振り返ります。
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©KEITA HAGINIWA 2017
これこそ、天職だと思いました
おとぎ話の結末はたいがい、「ふたりはずっと幸せに暮らしました」だけれども、本当にそうなのだろうか?白雪姫と王子はひと目惚れ同士だったけれど相性はどうだったの?シンデレラはいきなり王族の仲間入りをして大丈夫?…大人になると、知りたいのは「happily ever after」のその先の話。夢を叶えたその後にも、いやその後にこそ、本当の意味での現実が待っていると知っているからだ。
CS経済専門チャンネル・日経CNBCのメインキャスター。長年の夢だった経済キャスターに、ついにたどり着いた江連裕子さんにも、夢以上に素晴らしく、そしてハードな現実がやってきた。
「仕事は楽しかったです。毎日経済に触れられるし、日本の企業のトップの話を伺える。インタビューをすること、お話を聞き出すことも好きでした。これこそ、天職だと思えた。…でも、今度は圧倒的に経済の知識が足りないことに気がついたんです。東証一部上場企業の社長にインタビューして、スタジオに戻ってきたらメガバンクのチーフエコノミストやストラテジストがゲスト、それから大学教授と租税法についての対談…なんて日々が続く。27歳で彼らの話を理解するには、猛烈に勉強しないと、とても間に合わない。しかも毎日毎日、情報は新しく入ってきます。一社をインタビューするだけでも過去数年分の新聞記事やアニュアルレポートに目を通すことが必要。土日もほぼ勉強にあてて、ほとんど遊ぶ時間はなかったですね」
日経CNBCは、視聴者もほとんどが個人投資家やマーケットのプロ。「圧倒的な経済の知識」を理由に採用されたはずが、その知識もここではベースにしか過ぎなかった。特に経営者インタビューは業種も多岐にわたる。会話の糸口をなんとかつかもうと、経済知識のみならず、船舶免許、ダイビング、野菜ソムリエ…など自分の趣味や資格もどんどん増やしていった。9年間のキャスター生活でインタビューした上場企業の経営者は、1,000名を越える。
「知識や経験があれば、会話に共通点が生まれて一気に話が広がっていく。そもそもキャスターとしては年が若いというだけでハンデなんです。けれど、きちんと調べていけば『若いけれど勉強している』と信用してもらえるし、話のレベルも上がります。せっかくのチャンスをもらっているのに、何もしないのはもったいない。会食やランチもできるだけ経済関係の人と一緒に過ごし、学びの時間としてフル活用していました。日経新聞の本社の中にスタジオがあったので、論説委員や記者のところにも伺っていましたね。記事を書いた担当者に直接お話を聞けるのは、ぜいたくでラッキーなことでした。しつこく通っていたので(笑)、今でもとても仲良くしていただいています」
©KEITA HAGINIWA 2017
這うようにしてスタジオに向かう
リサーチは大変だけれども、知識が増えるのは自分自身も楽しかった。友人と過ごす時間はほぼないが、それだけやりがいを感じていた。趣味もすべて仕事につながる、充実した生活。ところが、そこに思いもよらぬ暗雲が立ち込めることとなる。
「8年目になったある日に、高熱を出したんです。そうしたら、その次の日から体中に激痛が走るようになってしまって。関節すべてが、どうにもならないぐらいに痛い。突き指、捻挫、骨折が一気に襲ってくるような痛みの嵐です。携帯も持てなくなりましたし、朝ベッドから起きようとしても、足の裏が激痛で立ち上がれない。這うようにしてスタジオに向かって…という日々が続きました。病院に行っても原因不明。“結節性紅斑”という診断でしたがそれなら1ヶ月ぐらいで治るはずなのに、いつまでたっても痛みが治まらない。毎日痛み止めを飲んで生放送を行って。足を引きずっている姿を人に見られたくなくて、スタジオと家だけをずっと往復していました」
今思えば、予兆があったかもしれない。症状が出る数年前から手首に謎の痛みが続いていた。でもそれは気のせいだと思っていた。
「これといった原因が思いあたらなくてウイルスかと悩んだりもしました。ネットでは今でも難病と書かれていますが(苦笑)、病院に行っても原因は不明だったんですよ。でも勉強を日々し続ける生活で体をいたわる時間は少なかったかもしれない。毎日の生放送に知らず知らずプレッシャーを感じていたのかもしれない。
職場の上下関係にも悩んでいましたし、総合的なストレスだったんでしょうね。だからと言って仕事を辞めるわけにもいかなくて痛み止めで抑え込んで。せめて気持ちだけでも前向きにしようと、留学の勉強を始めました。仕事以外は家にいるしかできないし、新しい目標に何かチャレンジをしたら、少しでも病気のことを忘れられると思ったんです」
その結果、イギリスの大学院に合格をする。一年間、体の激痛に耐えてきて、これで気持ちの整理がついた。すべての仕事を辞めた。36歳だった。
写真/社外取締役を務める、株式会社グルメ杵屋の本社は大阪。取締役会の出席のため、大阪と東京をしょっちゅう往復している。出張のお供は“セリーヌ”のビッグトート。同じく“セリーヌ”のポシェットを引っ掛けてのダブル持ち。ジャケットは必須だ。
江連裕子/1977年生まれ。経済キャスター、株式会社グルメ杵屋社外取締役。TBSニュースバードキャスター、KPMG税理士法人を経て、日経CNBCのメインキャスターを9年務める。過去の出演番組はテレビ東京『Mプラス11』など多数。経済セミナーの司会やコーディネーターとしても活躍。現在はラジオNIKKEI『ザ・マネー』(毎週月〜金曜日15:10〜16:00)の木曜日に出演中。オフィシャルブログhttps://ameblo.jp/ezure-yuko/
https://www.centforce.com/profile/t_profile/ezure.html
撮影/萩庭桂太