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「情けは人の為ならず」の誤用に注意
「情けは人の為ならず」は、誤用が広まってしまっている表現でもあります。文化庁発表の「国語に関する世論調査」で、「情けは人の為ならず」の意味認識状況を調査した結果、半数近い人が誤った認識をしていました。
「人に情けを掛けて助けてやることは、結局はその人のためにならない」という意味で認識している人が、なんと45.7%を占めています。
正しい意味と、なぜ誤用が広まってしまったのかを確認しておきましょう。
正しい意味は「人にした親切が自分に戻ってくる」こと
「情けは人の為ならず」は、親切な行いがいつかは自分に戻ってくるというポジティブな意味の言葉です。「情けは人の為ならず」の意味を、辞書でも確認して正しく把握しましょう。
【情けは人の為ならず】なさけはひとのためならず
人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくる、ということ。誤って、親切にするのはその人のためにならないの意に用いることがある。
もしこれまで間違って覚えていた方は、しっかりと認識を正しておくことが大事です。
「情け」は愛情や思いやりを表す
勘違いが起きやすい理由の1つに、意味の認識に変化が起きたことが挙げられます。現代における情けは「同情」の意味合いが強まっていますが、実は下記のとおり思いやり、情愛、風情、風流心の4つの意味を持っている言葉です。
【情け】なさけ
1. 人間味のある心。他人をいたわる心。人情。情愛。思いやり。
2. 男女の情愛。恋情。また、情事。いろごと。
3.風情。おもむき。あじわい。
4. もののあわれを知る心。風雅を解する心。風流心。
「情けは人の為ならず」では「人情」や「思いやり」といった意味で用いられているのがポイントです。情けの意味を知っていれば、意味を誤解してしまう可能性は避けられるでしょう。
誤用が広まった原因は「ならず」の解釈の間違い
「ならず」は打消しの意味を持っているのは多くの方が認識しています。しかし、「情けは人の為ならず」の場合は、どこに打消しが掛かっているかの解釈によって誤解が生まれてしまいました。
【本来の解釈】
ならずが「人の為」に掛かる:「情けは人の為ではなく、自分の為でもある」
【誤った解釈】
ならずが「為」に掛かる:「情けは人の為にならない」
上記のように整理をしてみれば、より理解が深まるはずです。
「情けは人の為ならず」の由来
「情けは人の為ならず」の言葉の成り立ちは、鎌倉時代に編纂された軍記物語『曽我物語』に由来しているとされる説があります。由来には不透明な部分も残されていますが、実際に『曽我物語』で「情けは人の為ならず」のフレーズが登場した後に、頻繁に用いられるようになりました。
一方で、「情けは人の為ならず。めぐりめぐって己(おの)がため。」という言葉から生まれたことわざであるともいわれています。
どちらにせよ「情けは人の為ならず」は、日本に古くから定着している言葉であるといえるでしょう。
「情けは人の為ならず」の類義語と対義語
言葉の意味と由来を理解できたところで、類義語と対義語をそれぞれ2つずつご紹介します。
【情けは人の為ならずの類義語】
「善因善果」「人を思うは身を思う」
【情けは人の為ならずの対義語】
「悪因悪果」「恩が仇」
情けは人の為ならずの関連語の知識を付ければ、表現の幅をグッと広げられます。それぞれの語句を詳しく解説します。
類義語は「善因善果(ぜんいんぜんか)」「人を思うは身を思う」
「情けは人の為ならず」と似たようなシーンで使える言葉として、次の2つがあります。
・「善因善果」:よいことをすれば必ずよい報いがあること
・「人を思うは身を思う」:他人に情けを掛ければやがて自分のためになること
どちらの表現も、他の人を思ってした行いが、よい結
果となって自分に戻ってくるという意味が含まれています。