【目次】
新卒の女子との談笑に嫉妬が爆発
お話を伺ったのは…
佐々木真美さん(仮名・35歳)、埼玉県出身・中堅私立法学部卒業後、国内製薬会社に勤務。3歳年上の夫(飲食店経営・年収不明)と結婚5年。東京都足立区内の分譲マンション在住。子どもは4歳の男の子。身長160cm、地味で真面目そうな雰囲気、数年前のシルエットのスーツを着ており、声が低く、少々言葉が強い。
「今の男の子は若くして結婚するんですね」
真美さんが初めて不倫をしたのは、息子が4歳の誕生日を迎えた半年前。
「義両親が近くに住んでいるんですが、誕生日パーティにキャラクターのケーキや、ゲーム機などを私に断りもなくプレゼントしてたんです。教育に悪いですよね。かなりむしゃくしゃしてしまって、10歳年下の後輩と飲みに行こうって誘いました。今の子って結婚が早いんですよね。優しくて頭がいい男の子は、目端が利く女の子にさっさと捕まえられて結婚してしまう。後輩の妻は、大学時代に付き合っていた女性で、今は専業主婦。彼に子どもはいません」
真美さんは地獄の婚活を経験している。
「結婚したいのに誰からも相手にされない。十人並みの容姿をしていて、定職と知性あって優しい男はみんな結婚しているという現実を知りました。それで、私は”定職があればだれでもいい”と腹を括って、友達の紹介をたどってやっと『マシかな』と思える夫と結婚。夫は粗暴だし本も読まないし、趣味はギャンブルだし最低ですよ。育児は全面的にやってくれていますが、息子が夫に染まっていくのを見るのも辛い。そんなことを語っていたら、後輩に頭ポンポンされて、泣いちゃったんですよね。後輩の手が気持ちよくて、私から強引に誘ってしまったんです」
後輩も「夫婦はもう終わっている」と言っていたのに……
翌日、何食わぬ顔をして、出勤する後輩と真美さん。
「彼はとても上手だと思う。自分勝手で、アダルトコンテンツと同じようなことをしたがる夫とは大違い。好きになっちゃったんですよ。それに後輩は『妻はわがままだし、もう限界』と言っていたし、『真美さんと俺は相性がいい』とも言ってくれました。私の方が絶対に彼のことを理解しているし、愛している。それから週に1回程度飲むようになったのですが、そのたびにホテルに行っていました」
会社で姿を見るたびに、胸がキュンとしていた
真美さんと彼は、部署が近く会社でもよくすれ違う。
「会社で姿を見かけるたびに、胸がキュンとしていました。また彼はとても仕事がデキるんですよ。エレベーターで一緒になったり、誰もいない会議室で2人きりになったりするのが、私の毎日の楽しみでした。でもその毎日を新型コロナウイルスが分断したんです」
コロナで彼に会えなくなった
学校の休校措置によって、小学生の子を持つ社員はリモートワークを推奨されるようになった。
「他のママ社員は喜んでいましたが、私は絶望ですよ。だって彼に会えなくなるんですから。家で仕事をしている間も、ずっと彼のことを考えていました。彼とベッドの上で目を合わせ、体が吸い込まれていくようなあの感覚を思い出して、恥ずかしいやらうれしいやら……あの感情を何度も思い出しているうちに、彼に会えないことが悲しくなってきたんです」
思い詰めて会社に行ってしまう
そしてリモート5日目に何かに憑かれたように会社へ向かう。
「リモートワークをしていると、煮詰まってくる。抱えている案件について、上長に相談したく、ふらっと会社に行ってしまったんです。すると、会社はコロナなどなかったかのように、皆が出社して活動している。ショックでした。彼の部署を通りかかると、新卒の女の子が彼と楽しそうに語り合っている。彼女の若くてぴちぴちした肌を見ていると、自分はオバサンだな…と。いろいろ辛くなって、家に帰りました。妻とうまくいっていない彼が、新卒の女の子とデキちゃったらどうしよう…とか、不安に押しつぶされそうになって、夜中に飛び起きたこともありました」
彼が住む街を徘徊する
それから、落ち着かない日々を過ごす。夫からは「大丈夫?」と心配されて、息子はよくぐずるようになり、イライラする真美さん。
「自分で自分の機嫌をとらなくちゃ、母親失格だと思いました。彼に会えば落ち着くと思って、彼の住む駅まで行ったんです。スーパーマーケットや公園などを歩いていると、『この街で暮らしているんだ…』とウキウキしてきたんです。1時間くらい歩いて、本屋さんに立ち寄ると、彼と妻がいたんです」
妻は妊娠しており、明らかに臨月ともいえる大きなおなかを抱えていた。
「文字通り、頭を殴られたようなショックでした。彼の腕を取り店の外に出て『どういうことよ! 仲悪いんじゃないの?』と言ってしまったんです。彼は『まあまあ、後で説明するから』と言って、妻を支えるようにして、その場を去っていきました。私は悔しいやら悲しいやらで、どこをどう帰ったか覚えていません」
その日から、距離を置かれた。
「SNSのすべてをブロックされました。その翌週に上長から連絡があり会社に呼び出されたところ、私が彼に対して片思いを募らせて、セクハラとパワハラを繰り返しているという話になっていたんです。彼は自分の都合のいいように、会社に報告していたんですよね」
上司は「母親なんだから、大人になりなさいよ」と諭してきた。
「女性だけ『母親なんだから』と言われることも悔しいし、それよりも『奥さんもできた人で、今回のことは大きくするつもりはないと言っている。よかったね』と言われたんです。様々な怒りのやり場がなく、爆発しそう。あれだけ『愛しているよ』って何度も言ってくれたのに、私は何だったんでしょうか。この恨みを晴らしたい。私の正当性を認めさせたい。出社停止が解除されたら、キッチリ話し合いたいと思います」
世の中のすべてが敵だと思い、ハリネズミのようになっているときは、なかなか物事は上手く進まないものだ。後輩男子には、一児の母の重すぎる思いを受け止め切れなかったのかもしれない。
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Writer&Editor
沢木 文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。お金、恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。