親だって人間です。ひとりの時間をもつことで、母の上機嫌をキープする。それは子どもの笑顔につながります
トップス¥86,000・イヤーカフ¥28,000(ADEAM 東京ミッドタウン店〈ADEAM〉)
「子どもは自分の分身、という言葉を耳にすることがありますが、私は、なまこ(娘さんの愛称)がお腹にいるときから、『もうひとり、別の人がここにいる』という感覚でした。生まれてきた瞬間も、『わわ、完全に自分とは違う生き物が出てきた!』という感じ。その感覚は夫も似たところがあって『子どもができた=家族のメンバーがひとり増えただけ』などと言って、飄々としています(笑)。
ですから、母になったからといって、私の中で大きく何かが変わった、ということは正直あまり感じていないんです。
ただ、日々の子育てを通して変わったことのひとつに〝未来〟への考え方があります。子どもたちの悲しいニュースを見るたびに心がギュッと痛くなるし、環境問題への関心も高まりました。
『この子たちが大人になるころは、どんな世の中、どんな地球になるんだろう』と、娘が大きくなったときの世界、地球の未来を自分ごととして考えるようになり、自分が元気なうちになんとかよくして残さなければと危機感を感じています。
それともうひとつ、出産後すぐ、しばらくの間は、オリジナル曲をつくりたいという気持ちがゼロに。今思えば、完全にホルモンに乗っ取られていたわけですが(笑)。当時は、昔から脈々と受け継がれてきた子守唄に感銘を受けて、歌への意識が変わりました。自己表現としての歌から、娘を笑顔にするための歌へ。メッセージを伝えるための歌から、もっともっと日常の一部に。そんな変化に驚きつつも、面白いなと感じて。
でも、娘が1歳半くらいのとき、授乳期間がほぼ終わったころでしょうか、突然ライブ中に『終わった!』という瞬間が訪れたんです。以降は猛烈に、自分の言葉を書きたい気持ちにかられました。
子どもが生まれて母になっても、私の中のコアな部分はまったく変わらないし、あいかわらず大人になりきれないけれど、ただ、前よりずっと〝自分の不完全さ〟に正直になれた気がしています。
強くて、たくましくて、優しくて、いつだってゆらぐことのない〝母〟になれたらどんなにいいか。
私は、母としてまだまだ不完全だし、自信もない。考え方も偏ってしまうし、日々、感情はぐらぐらゆらぎます。
でも、私の周囲の大好きな人たち、尊敬している人たちに関しては、胸を張っていい人だ! と言い切れる自信があります。だから、その人たちに『うちの子のこと、一緒に育ててください!』と、頼っちゃおう、と思っているんです。
娘にとっても、親だけが正しい存在ではないだろうし、彼女には、私が大好きな、心から尊敬している人たちから、多くのことを学んでほしい。彼らのいいとこ取りをしてほしい。それにもし、今いる場所にいたくなくなっても、頼る人がほかにいる、逃げる場所はほかにあるんだよ、と知っておいてほしい。
何より、親どうしがつながりを広げ、助け合うことは、親の負担をちょっとでも軽くすることができると思うんです。親も逃げ場をつくること。自分の時間をもつこと。親だってひとりの人間です。ひとりになりたいときもあるし、イライラするときだってある。
私は、30分でも時間ができたら大好きな〝ひとり銭湯〟に行ったり、娘が寝た後夫に留守を任せて、好きな音楽を聞きながら近所の公園を散歩したりします。わずかでもそんな〝ひとり時間〟をもつことで、幸せな気持ちになれる。子どもは敏感。母の上機嫌をキープすることが、子どもの笑顔につながると思います」
ミュージシャン
坂本美雨
さかもと・みう(40歳)/1980年生まれ、東京都出身。1990年に音楽家である両親(坂本龍一氏、矢野顕子氏)とともに渡米。ニューヨークで育つ。17歳で音楽家としてデビュー。2013年初のベストアルバム『miusic~The best of 1997-2012~』を発表。2016年「坂本美雨 with CANTUS」名義にてフルアルバム「Sing with me Ⅱ」をリリース。 2018年「かぞくのうた」を配信リリース。ソロ活動に加え、2006年からシンガーソングライターのおおはた雄 一氏とのユニット「おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)」としても多くの音楽フェス等に出演中。2020年、結成14年にして1stアルバム「よろこびあうことは」発売。音楽活動の傍ら、演劇出演、ナレーション、執筆も行う。2014年に結婚、2015年7月に第一子を出産。
Domani12/1月号「2020年→2021年〝じぶんのじかん〟、〝かぞくのじかん〟。」より
撮影/三浦憲治 ヘア/Dai Michishita メーク/早坂香須子 スタイリスト/岩田麻希 協力/プロップス ナウ、EASE 構成/田中美保、上阪泰幸(本誌) 再構成/WebDomani編集部