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FASHION おしゃれプロ

2021.12.11

vol.9:2,990円のニットを買う人と、1億9,800万円のジュエリーを買う人

雑誌からウェブサイトまで、今年に入ってから、さらに幅広いファッションメディアに関わるようになり、気づいたことがあります。高いものでも安いものでも、考え方は同じ。今回のテーマは「ものの価値について」です。

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editor_kao
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こんにちは、editor_kaoです。
個人的な話なのですが、今年になってから仕事の幅がものすごく広がり、「ファッション」という同じジャンルにもかかわらず、媒体によって扱うものに、あまりに価格差があることに驚いています。

今さらですが、大人のおしゃれって、いろいろあるのね……

あるウェブメディアでは、プチプラアイテムについて書くことが多く、「え、このニット2,990円なの!?」とか「わ、ジャケットなのに7,000円台⁉」とか、日々、ブランドの企業努力に感心しています。日本のプチプラ市場ってすごいですよね。安くても、ちゃんとしたクオリティのものがたくさんあって。

その傍らで私は、ラグジュアリーなファッション誌を手がけることもあるのですが、それはそれで驚きが。誌面に登場するアイテムの、なんと美しいこと! 洋服にしても靴やバッグ、ジュエリーにしても、遠目から見ても上質なのがわかるものばかり。というか、上質なものは遠目でもそうなのだということを、この雑誌に関わるようになって知りました。

まあ、もちろんお値段もすごいんです。基本的に10万円以下のアイテムは、ほとんど登場しません。80万円くらいするニットや、100万円しちゃうバッグが、普通の感覚として出てきちゃう。130万円の時計は安いほう……って、耳を疑いますが、その雑誌は、読者対象がそういう設定なので。いちばん緊張したのは、1億9,800万円のダイヤモンドネックレスを撮影したときでしょうか。今までも、展示会でそういったクラスのジュエリーを見せていただくことはあっても、実際にモデルさんに着用して撮影したのは初めて。何かあったら、出禁でもすまないのでは……と、悪い妄想が、勝手に頭の中を駆けめぐりました。

文章力と人生経験が、きらめくダイヤモンドには足りなくて

ただ、そのときに実感したのは、「このネックレスを買う人が、世の中には存在する」ということです。さすがに1点ものですし、雑誌に出たからとすぐに売れるとは思えないのですが、売るためにつくられた商品であることも確か。これだけハイクラスのジュエリーを扱うのは、企画としてもスペシャルだったのですが、それでも原稿では、具体的によさを伝えなくてはなりません。素敵なことはわかります。でも自分の筆力、そして人生経験が、このネックレスに見合わなくて……。2,990円のニットなら、魅力を存分に伝えられるのですが、同じノリで書くわけにはいきません。結果、すごーく時間がかかっちゃったんですよね。そしてあれは果たして、ふさわしい文章だったのか……。

ファッションの仕事をしていると、ときどき思うんです。「価格ってなんだろう?」と。かなり昔の話なのですが、「同じ金額で叶う贅沢」という特集を、これまた別の雑誌で担当したことがありました。トップに取り上げたのが、“シャネル”のバッグとアフリカ旅行。当時はこのふたつが、ほとんど同じ価格だったんです。これは、どちらを選ぶという話ではなかったのですが、ほかにも予算別にさまざまなものを並べる企画で、個人的にも学ぶことが多かった。「ものの価格ってなんだろう?」と、しみじみ考えたのも、このときが初めてだったかもしれません。

ものの価値とは、自分が何を得られるかだと思うんです

最終的には、その価格が高いか安いかではなく、自分が納得できるかどうか、が大事だと思うのです。以前、この連載で「服のどこに投資するかは自分しだい」という話(vol.2:今の時代の“いい服”ってなんだろう?1万円のTシャツを着るには理由があって)を書いたのですが、それと同じ。その価格が適正かどうかを判断するのは自分。手に入れたもので、自分がどれだけのものを得られるのか、なんですよね。

最初に書いたとおり、今年になって関わる媒体が増えたことで、またこの疑問と向き合うことになりました。しかし今となって想像できるのは、もし私が1億9,800万円のダイヤモンドネックレスを手に入れたとしても、ただただ困っていそう……ということくらい。

でも世の中には、たとえ買えなくても美しいものがあるし、そういったものと直接出合えるのは、この仕事の特権だと思っています。だから私は、すばらしいものに見合う文章力、そのスキルが必要なんですよね。これからも、精進します。

【今日のひと手間】
秋冬のインナーに重宝しているのが、”ユニクロ”のソフトタッチタートルネックT(メンズ)です。カーディガンやシャツのインに、タートルニットでは暑すぎる……というときに便利。タートルは折りたたまず、伸ばしてふわっとさせておくと、様になるんです。

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エディター

editor_kao

大人の実用ファッションを中心に、人物インタビューや日本の伝統文化など、ジャンルレスで雑誌やブランドサイト、ウエブマガジンで活動中。また、インスタグラム@editor_kaoでは、私服コーディネートを紹介するかたわら、さまざまなブランドや百貨店とのコラボレーションも手がけている。ライフスタイルWEBメディアkufura(クフラ)でも「4ケタアイテムで叶えるオシャレ」を連載中。

イラスト/柿崎こうこ

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