屋台で食べるの初めて
【登場人物】
あん(私)…メーカー勤務のシングルマザー。8年前に離婚し、実家に出戻り。39歳。
蓮…生意気盛りの小学生。11歳。
臣斗くん…あんの会社の後輩・海斗くんの大学の同級生。34歳
結衣…蓮の彼女。4年生からS塾に通い中受予定。
【前回までの話】
シングルマザー歴8年目にして、子連れ再婚を果たしたあん。しかし、事実婚で結婚指輪も婚姻届も、新居もない「ないない尽くし」からのスタート。パートナー臣斗の実家への挨拶の席で、義母に蓮の中学受験をゴリ押しされるも、金銭的にも蓮の性格的にも無理だと判断したあん。しかし、息子の蓮から「結衣ちゃんと同じ中学校へ行きたいから塾に行く」の一言から中学受験がスタートしてしまう。勉強を見てくれる臣斗くんのおかげもあり、なんとか塾にしがみついている蓮。一方、あんと臣斗は蓮の受験を期に一緒に住むことを考える。が、賃貸と購入で意見が衝突。結論は出ないまま母の緊急手術が必要との連絡が。手術で癌を全て取り除いた母から、あんと蓮、臣斗くんの3人で息抜きに…と旅行の提案が。
前回の話▶︎まさかの母が緊急手術!今後の家族の形が一瞬頭をよぎる【39歳、子連れ再婚の365日vol.5】
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初旅行で気づいたステップファミリーの溝とは?
こんにちは。バツイチ子連れで再婚をしたあおいあんです。
前回は、母の緊急手術でてんやわんやの中、いつかひとり残される父のことを考えたり、再婚後の母の言動の変化に気付いたりと、体力的にも精神的にもフル回転の毎日をお伝えしました。
母の提案で蓮と臣斗くん私の3人で旅行へ行くことに。息子に行きたいところを聞いたところ、福岡県の太宰府天満宮へ行きたいとのこと。学業の神様・藤原道真が祀ってあるもんね。受験生らしいセレクトだと思った。
現地に着いた日はポートタワーや温泉を楽しみ、夜は中洲の屋台へ出かけた。
蓮
私
そういえばそうだね。フードトラックとかイマドキのはあるけど、昔ながらの屋台ってなかなか見なくなったもんね
臣斗
何食べたい? ちょっとづつ何軒か行ってみようか?
私
それいいね! 締めをラーメンに決めて、あとは気になるところ入ってみない?
せっかくの旅行。家の購入案件はひとまず置いといて、蓮のためにも思いっきり楽しもうと決めてきた。
蓮
いいよ。じゃあココ! めんたいポテトチーズ
1軒目も2軒目も蓮が選び、ちょこっとづつ食べて移動。最後の締めのラーメン屋さんへ。
蓮
豚骨じゃなくて醤油ラーメンがいい
蓮は醤油ラーメン以外、塩ですら口にしない。流石に子どもには豚骨は濃厚すぎて無理だったかな。
臣斗
福岡は豚骨が名物なんだよ。食べられなければ俺が全部食べてあげるから、一度は挑戦してみよう
蓮は渋々、豚骨ラーメンを食べるも、匂いがダメだったようで案の定ギブアップ。20時を過ぎ、そろそろホテルに戻ろうと思った時、
臣斗
もう1軒寄ってからホテル戻ってもいい?
臣斗くんもGW中休まず仕事したり、母の入院中、蓮のフォローをしてくれたので中洲にひとり残し、私と蓮は先にホテルへ戻った。蓮は遊び呆けるのに罪悪感を感じたようで、塾の勉強を30分くらいしたが、疲れてそのまま寝落ちした。
22時になっても戻ってこない臣斗くん。臣斗くんだって羽を伸ばしたいよねと思い、連絡はせずにいた。23時が過ぎ、24時になろうとしている。連絡して私もそろそろ寝ようかなと思ってたところ、部屋のチャイムが鳴った。ドアを開けるとベロベロに酔っ払った臣斗くんがドアにもたれかかっていた。
臣斗
あん~♡
廊下に響くほど大きな声に思わず、「しっ」っと指を立てた。
私
もう蓮寝てるから、静かに入って
と先に部屋に入った私の後ろから臣斗くんが抱きついてきた。酒臭いし、ニンニク臭いし、嫌悪感しかなかった私はちょっとイラついた声で「やめて!」と小さな声で言った。何の反応もなく臣斗くんはそのままベッドにドサッと倒れ込み、寝てしまった。やれやれと思いつつも、息子が楽しみにしている明日の太宰府天満宮のために、私も寝た。なにやら毎朝行われている8時30分からのお祓いを受けたいんだって。
次の日の朝、全く起きない男子たちに代わる代わる声をかけ、私は身支度を終えた。蓮はようやく体を起こすと「くっせー!」と一気に目を覚ました。臣斗くんの昨夜のアルコール&ニンニク臭に、蓮はバスルームへと逃げ込んだ。蓮が身支度をしている間、臣斗くんを何回も起こしたけど、うんともすんとも返事が返ってこなかった。蓮は「もう寝かせておけば?」と呆れ顔。私たちは臣斗くんを置いて、大宰府天満宮へと急いだ。
朝のお祓いに何とか間に合い、天然記念物に指定された大樟や太鼓橋、道真公ゆかりの品々が見られる宝物殿など隅々まで太宰府天満宮を堪能した。そろそろお守りでも買って帰ろうかと話していたところ、臣斗くんから電話が。
臣斗
本当にごめん。太宰府天満宮に着いたんだけど、どこにいる?
私
今からお守り買いに行くところ。もう全部見終わったから…
臣斗
じゃあそっち行く!
私もお酒を飲むし、酔っ払う時もある。でもさ、再婚して家族として初めての旅行で、しかも蓮の合格祈願をしに行くのに深酒からの寝坊では、百年の恋も冷めるし、ご利益もなくなりそうだよ。怒りがズンズンズンと蓄積されているのが自分でも分かったが、ここは神様の前、心穏やかに…と努めた。
蓮
結衣ちゃんの分も買っていい?
私はニヤニヤしながら「いいよ」と言いつつ、本当はそれが1番の目的でこの旅を福岡にしただろー!と心の中で叫んだ。せっかく来たんだから御祈祷もお願いしようかな?といろいろ見ているところに、臣斗くんが登場。
臣斗
蓮、本当にごめんね。怒ってるよね?
蓮
大丈夫。ママが朝の御祈祷に連れて行ってくれたし
蓮は唯ちゃんのお守りを選んでいて、正直臣斗くんのことなんてどうでもよかった。一方、私は白い目で臣斗くんを見ていた。
臣斗
あん、ごめん! 父親として失格だよね
「父親として」という言葉にドキッとしたが、今は昨晩と今朝についてイラついているのだ。そんな言葉には騙されないぞ!とさらに怒りを無駄に重ねていった。
臣斗
蓮、せっかくだから御祈祷してもらおう。このちゃんとしたお守りが付いた方にしよう
えっ!? ちょっと待って。そんな立派な方じゃなくていいでしょ。お宮参りじゃあるまいし、受験ごときで1万円近くも使う? それって普通の感覚?
私
こっちでいいよ。まだ受験できるほどの学力だってないし、そんな贅沢しなくていい
臣斗
あん、こうゆうのは後悔がないように大きい方がいいんだよ。な、蓮!
中受をしたことない私を馬鹿にしたような言い草に、積み重ねてきた怒りが崩壊し本音が炸裂した。
私
はっ!? 寝坊したくせに偉そうに上から目線やめてくれない!
「蓮はご祈祷に興味ないんだよ。そんなのも分らないの?」と喉まで出かかったが、さすがに言ってはいけない言葉だと理性が働いた。昨日の夜、後ろから抱きつかれてから私の機嫌は悪かった。せっかくの旅行だし、楽しく楽しくと自分の気持ちに蓋をしていた。でも小さなイライラが、旅行という逃げ場のない空間で発散されることなく、どんどん積み重なっていった。目の前の臣斗くんは言い返してくることはなかった。
蓮
俺こっちでいい、ママ。結衣ちゃんとお揃いのお守りも買って欲しいし
蓮は小さい方のお守りを指差していた。蓮は遠慮をしたのかもしれないけど、そもそもご祈祷の値段なんて子どもには関心がないこと。大金を払いたがるのは大人のエゴでしかないと思う。ましてや今回の旅の、蓮の本心は結衣ちゃんとお揃いのお守りさえ買えればいいのだ。そこが分かっていないくせに、横からしゃしゃり出てくるから腹立たしいのだ。
私
じゃあこっちでお願いしてくるね
蓮と臣斗くんを残し、私は御祈祷をお願いしに行った。2人がコソコソ話しているのを背中で感じていたが、私はシカトした。ご祈祷をしてもらいその後、お昼を食べ観光名所を巡ったが、私と臣斗くんが蓮を介さず、2人で話すことはなかった。
最終日、蓮が最後にもう一度温泉に入りたいというので出かけた。女湯でひとりになった私は、昨日の出来事をぼんやり考えた。臣斗くんが蓮の本心を見抜けなくて当たり前だ。再婚してまだ日も浅く、ましてや一緒に暮らしているわけでもない。私が臣斗くんに期待しすぎたのかもしれない。それに母の病気、蓮の受験、父の役立たずさ、いっぱいいっぱいだったから、臣斗くんの態度にも過敏になったんだ。
そう、今回の旅行は蓮のためのもの。終わりよければなんとやら。帰りは臣斗くんとも仲良く帰ろう。そう心に決めて温泉を後にし、飛行機で東京へ戻り、臣斗くんの車で家まで送ってもらうと臣斗くんのスマホが鳴った。電話の相手は…。
あおいあん
契約社員でメーカー勤務、現在38歳のシングルマザー。高学年になりちょっと生意気になった10歳の息子と実家に出戻り。40歳を前に「もう一度、女としての人生を!」と一念発起。離婚をしてから7年という恋愛ブランクを埋めるべく奮闘し、5歳年下の彼氏と再婚を決めた。
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