複雑なものを抱えながらも魅力的な女性になった
未知子の背景には何があったのか
──脚本家・中園ミホさんが当初想定していた「クールな手術ロボット」だった「ドクターX」こと大門未知子が、米倉涼子さんによって人間味と愛情あふれる人物になったという背景が明かされた対談の前編(>こちらから)。
この「人間らしさ」のさらなる源が明かされるのが、シリーズファイナルとなる『劇場版ドクターX』。ここでは、「ドクターXがどうやって誕生したか」のエピソードゼロが展開されます。シリーズファンにとっては、当時からこの構想があったのかどうか、気になるところですが…。
中園:「最初から考えていた」と言えたらかっこいいけれど、実はまったく想定していなくて。未知子のあんなところが見たい、こんなところが見たい、という思いで書き続けてきただけで、まさかこんなに続くと思っていませんでしたから。そこに米倉さんが人間味を加え、どんどん未知子が変わっていき、その結果、このようなファイナルになりました。
米倉:第1シリーズで終わる予定でしたからね。でも、連続ドラマ中に役者たちから、未知子のバックボーンはどうなってるのか聞かれたら、どうしてたんですか(笑)。
中園:考えてなかったわ(笑)。それに私、終わったことは忘れてしまうので。続きを書きながら、「あのとき、どうだったっけ?」ってさかのぼって調べたりして。
米倉:(笑)。
中園:ファイナルとなる『劇場版ドクターX』で未知子の生い立ちを描いたのは、私自身が彼女のエピソードゼロを見たいと思ったから。どうやってここまでになったんだろう。何があって強くなったんだろう。子供の時どんな子だったか、研修生のときはどうだったか。複雑なものを抱えながらも魅力的なひとりの女性になった背景には、どんなことがあったのか。
▲『劇場版ドクターX』より。1シリーズからたびたび登場し、いったんは医療インフルエンサーに転身した森本光(田中圭)。未知子の影響を受けて医師として戻ってきたが、恩人でもある未知子の生い立ちを知ろうと広島・呉を訪ねる。
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
感情が高まって、終始涙をこらえるのに必死でした
中園:そしてやっぱり、未知子と晶さん(下の写真)との関係は、最後にきちんと描きたいということも思っていました。最初のころは、マネージャーとしてちょっと胡散くさい感じだったけれど、未知子にとってはかけがえのない存在なんですよね。
物語の中だけでなく、実際にふたりはすごく仲がいいでしょ。友達のようでもあり親子もようでもあり。打ち上げでもいつも一緒にいて。それを見て、私も刺激されたのだと思います。
▲『劇場版ドクターX』より。晶さん(岸部一徳)は、未知子が所属する名医紹介所の所長。未知子の師匠でもあり、どんなことがあっても味方でいる頼れる存在。謎に包まれたその素性が、シリーズファイナルでついに明かされる。
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
米倉:未知子にとって晶さんはお座布団のような存在。お座布団を枕にして、うとうとしながら癒されるような、仕事を越えた人としての深いつながりがあるんです。ただ、クールな未知子が映画で人間くさくなりすぎてもいけないんじゃないか、ということは考えました。
つい感情が入りすぎて、それを抑えなきゃ、強い大門未知子にならなきゃって、ずっと自分に言い聞かせながら演じていた気がします。特にその時期、私自身の病気もあって、立っていることさえも大変なこともあったり、だからこそ病気になる側の立場も痛いほどわかったり。感情が高まって、終始涙をこらえるのに必死でした。それを隠して大門未知子になるのは、すごくつらかったかな。
写真をもっと見る努力と継続なしに夢はつかめない
──未知子と患者、未知子と晶さん、それぞれのつながりだけでなく、『劇場版ドクターX』のメッセージは、未知子と同じ働く女性に向けてのエールとして受け取ることもできます。おふたりはこのメッセージをどのように捉えているのでしょうか。
米倉:努力とか継続とか、そういう泥くさいことは、今どき古いと思われるのかもしれないけれど、何かをやり遂げるためには、やっぱり欠かせないこと。ごく一部の超天才やロボットでもないかぎり、必死の努力なしに夢はつかめないんだろうと思います。大門未知子がそうだったように。
中園:こんなふうに、米倉さん自身がとても泥くさいでしょう。私だったら、これだけの美貌があったら、努力も何もしないんじゃないかと思うもの(笑)。私、怠け者なので。でも、何か成し遂げたい、何者かになりたいと思うのなら、そこには高い壁が立ちはだかるし、近道はなくて。自分の努力で乗り越えていくしかないんだと、米倉涼子と大門未知子が教えてくれました。
米倉:中園先生も、12年の間、忙しい時期を乗り越えてきましたもんね。
中園:いくつも仕事が重なってしまったときは、脚本家仲間でもある林 誠人(はやし・まこと)さんが私に代わって脚本を書いてくれました。すると、同じ『ドクターX』でも、少し違うタッチが入ってきて、またそれがよかったんですよね。女性が妬まれたり、男性同士のいざこざがあったりしたのは、林さんならではでした。
米倉:私だけじゃない。中園先生だって、努力と苦労を重ねてきて…。
中園:いや、私の場合はお酒を飲みすぎちゃうのでダメです。
米倉・中園:(笑)
写真をもっと見る映画『劇場版ドクターX』
2012 年 10 月期テレビ朝日系木曜ドラマ枠でスタートした第1シリーズから12年――。第7シリーズまでの12年間で連続ドラマクール平均第1位を記録。さらには橋田賞や向田邦子賞、エランドール賞を受賞し、高い評価を得ている国民的医療ドラマの『ドクターX』。特技・手術、趣味・手術。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進む、“絶対に失敗しない”大門未知子が難易度の高い手術を行い、さらに権威・束縛・群れ…といった概念を打ち砕いていく。
劇場版で明かされるのは、大門未知子の誕生の秘密。“失敗しないハケンの外科医”大門未知子はどのようにして生まれたのか――。「ドクターX」のエピソードゼロがついに明かされます。そして、これまでのドラマシリーズでも幾多の危機を乗り越えてきた未知子が史上最大の危機に挑む!
公開中
監督:田村直己 脚本:中園ミホ
米倉涼子 田中圭 内田有紀 今田美桜 勝村政信 鈴木浩介 染谷将太 西畑大吾 綾野剛 遠藤憲一 岸部一徳 西田敏行
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
Profile
米倉涼子(よねくら・りょうこ)
1975年生まれ、神奈川県出身。1992年、第6回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞。翌年からファッション誌『CanCam』の専属モデルに。1999年からは俳優として数々の作品に出演。代表作は『整形美人。』(02年)、NHK大河ドラマ『武蔵』(03年)、『黒革の手帖』(04年)など多数。舞台『CHICAGO』(08、10年)、『風と共に去りぬ』(11年)で座長をつとめた。
中園ミホ(なかぞの・みほ)
脚本家。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務、コピーライター、占い師の職業を経て、1988年に脚本家デビュー。07年『ハケンの品格』が放送文化基金賞と橋田賞を、13年『はつ恋』『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。大河ドラマ『西郷どん』、連続テレビ小説『花子とアン』など、執筆作多数。ドラマ『ザ・トラベルナース』最新シリーズが現在放送中。25年のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』の放送が控えている。また、現在も四柱推命の占い師としての活動を継続中。
撮影/高木亜麗 スタイリスト/栗田泰臣(米倉さん) ヘア&メイク/奥原清一(suzukioffice/米倉さん) 構成/南 ゆかり
※この記事は2024年12月5日にOggi.jpに掲載した記事内容と同一です。
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