「お送りします」と「お送りいたします」は敬意の度合いが異なり、相手や場面で使い分けることが重要です。
場面別の適切な選択|やり取りの相手や立場に応じた使い分け
どちらを選ぶかは、「相手」と「状況」で判断します。
<「お送りします」が適切>
・同僚や、比較的関係の近い先輩・上司
・定例的な報告や、通常の業務連絡
・社外でも、頻繁にやり取りのある担当者
<「お送りいたします」が適切>
・役員や、非常に格上の相手
・新規取引先への初回連絡
・謝罪や、重要なお願いをするメール
・契約書など、改まった書類の送付状
メール文例で比べる表現のニュアンスの差
同じ内容でも、表現によって印象はこう変わります。
・「お送りします」
ご依頼のありました資料をお送りします。
(丁寧で、標準的なビジネス表現)
・「お送りいたします」
ご依頼のありました資料をお送りいたします。
(より丁寧で、改まった印象)
たった一言の違いですが、相手への敬意の度合いをコントロールできるのです。

「送らせていただきます」「お送りさせていただきます」は間違い?
「お送りさせていただきます」は丁寧に聞こえますが、使い方に注意が必要な表現です。誤用を避け、スマートに使いこなしましょう。
「させていただく表現」が避けられる理由とは
文化庁の「敬語の指針」では、「させていただく」表現は以下の条件を満たす場合に適切とされています。
1相手または第三者の許可を受けて行う
2そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちがある
この条件に合わないと、「回りくどい」「許可を求めていないのに、恩着せがましい」といった印象を与えかねません。例えば、こちらから自発的に資料を送る際に「送らせていただきます」と言うのは、この条件から外れるため、不自然に聞こえるのです。
「送らせていただきます」は敬語として成り立つか?
例えば相手から「資料を送ってください」と明確な依頼があり、その依頼(=許可)に応える形で送る場合は、「(送る許可をいただきありがとうございます、という気持ちを込めて)送らせていただきます」は成り立ちます。
ただし、多くの場合「お送りします」で十分に丁寧かつ簡潔に伝わります。迷ったときは「お送りします」を選ぶのが無難でしょう。
不自然な重ね敬語にならないためのポイント
「お送りさせていただきます」は、「お~する(謙譲語)」と「させていただく(謙譲語)」が重なった、典型的な過剰敬語です。相手に違和感を与える可能性が非常に高いため、使用は避けましょう。
本当の丁寧さとは、言葉を重ねることではなく、簡潔で分かりやすい言葉を選ぶことです。自信を持って「お送りします」と言い切りましょう。

「お送りします」の言い換え表現|表現力を高める選択肢
いつも「お送りします」ばかりでは、表現が単調になりがちです。シーンに応じて適切な言葉を選び、表現の幅を広げていきましょう。
「送付いたします」「お届けします」などの使い分け
送り手・受け手の関係性に応じて適切に使い分ける表現を紹介します。
・送付いたします/送付します:書類や物品など、主に「物」を送る際に使います。漢語なので、やや硬く改まった印象を与えます。「送付状」などでよく使われます。
・お送りします:物だけでなく、メールやデータなど、幅広い対象に使える最も汎用性の高い表現です。
・お届けします:物理的に相手の手元に届けるニュアンスが強い表現です。製品や見本などを送る際に適しています。
・ご案内します:情報やウェブサイトのURLなど、場所を指し示すニュアンスで送る場合に使うと、よりスマートです。
印象が変わる言葉選び|硬い表現/やわらかい表現
内容が同じでも、使う表現によって受け取られ方が変わります。相手との関係性や、内容の重要度に合わせて使い分けましょう。
・硬い表現:「送付いたします」「提出いたします」
・やわらかい表現:「お送りしますね」「共有しますね」
フォーマル/カジュアルに応じた表現の切り替え方
公的な文書と社内メールでは、求められる丁寧さの度合いが異なります。
フォーマル(契約書など):ご依頼いただきました契約書を送付いたします。
カジュアル(社内チャットなど):先ほどのMTGの議事録、お送りしますね。
間違えやすいポイントと判断に迷ったときの考え方
表現は正しくても、違和感が残ることもあります。判断の軸を整理しておきましょう。
「お送りしました」と「お送りします」の混同
メール作成時点ではまだ送っていないので、未来・意志を表す「お送りします」が基本です。メールの送信と同時に送付が完了するため、「送りました」という意味で「お送りしました」を使う人もいますが、一般的には「添付にてお送りします」のように、メール本文の内容として未来形で書く方が自然です。
相手や状況による表現の選び方の軸
迷ったときは、この2つの軸で考えてみてください。
1相手との関係性:社内か、社外か? 役職は上か、同僚か?
2状況のフォーマル度:公的な依頼か、日常のやり取りか?謝罪か、お礼か?
この2軸で考えることで、形式的な正しさではなく、相手への敬意と配慮に基づいた、血の通った言葉選びができるようになります。
文書校正や第三者チェックで確認する工夫
一人で書いていると、自分の表現のクセにはなかなか気づけないものです。特に重要なメールや文書は、送信前に声に出して読んでみたり、同僚や上司に表現に違和感がないか、確認してもらったりする習慣をつけましょう。それは、あなたの評価を守るだけでなく、チームワークを高めることにもつながります。
最後に
POINT
- 「お送りします」は自分の送る行為をへりくだった謙譲語です。
- 丁寧さを強調したいときは「お送りいたします」を選びましょう。
- 「送らせていただきます」は許可や依頼を受けた場合に限定して使います。
「お送りします」は、ビジネスシーンでよく使用される便利な表現ですが、相手や状況に応じて「お送りいたします」「送付いたします」等と柔軟に使い分けることが、よりスマートなコミュニケーションにつながります。迷ったときは、シンプルな表現に立ち返り、無理のない自然な敬語を心がけましょう。
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執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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