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2019.02.10

MBAは家庭でも役立つ!?夫のためにキャリアを中断しても惜しくないそのワケは…【MBAと婚活/早苗の場合3】

仕事も家庭も完璧を目指してMBAに入ったけれど、今はキャリアを中断して夫の海外赴任に同行しているという早苗さん。その理由は?

Text:
南 ゆかり(フリーエディター)
Tags:

story3 仕事の代わりはいても、家族の代わりはいない

Profile
早苗さん(37歳・仮名) 既婚・子どもひとり
職業/医療機器メーカー・広報
趣味/海外旅行、ワイナリー巡り
住まい/シンガポール(賃貸戸建)

story1 私には結婚という形が合わないのかもしれない
story2 ワインバーでMBAのことを考える

ルノアールで勉強しながらのデート7時間

「そういえば私、かつての婚約者タカシに、いつも×ばっかりつけていた気がします。いいところに星をつけるんじゃなくて、気になるところを減点してばっかりの。タカシのお母さんが悪い、タカシの理想の奥さん像が悪い、寂しがりやのタカシが悪い、あれも、これも…。あげく、タカシの話し方まで気になり出してくる。実は、そんな自分がイヤだった。タカシじゃなくて、自分のことが嫌いだった」

やがてそう気付くようになったのは、早苗が慎一郎のいいところを見つけるごとに、自分も前向きになれたから。MBAで学んだ『リーダーシップ』の講座では、会社を変えるために、またプロジェクトを運営するために、前向きに実践することを、何度も繰り返し勉強してきた。それが、いつしか早苗の頭に染み込んでいたのだ。その議論は、教室内だけでなく、食事や飲みの席でも続く。

でも、前向きな議論はまったく苦にならなかった。
「肉会グループ5人でいつものように食事に行った後、二次会にイタリアン、三次会にカラオケ、四次会ラーメン…と、これまたいつものように流れて、明け方まで飲んで食べて、議論して。みんな、それぞれの仕事の状況を話したり、励まし合っていると、あっという間に時間が過ぎるんです。このころはもう、私は慎一郎のことが好きでした。四次会のラーメンをたいらげて、みんな解散したあと、私と慎一郎は、ふたりでごく自然にバーに流れました。もう一杯飲もうかって。そう、不思議なくらい自然でしたね。

ずっと一緒にいたいなと思ったのも、ふたり同時で、付き合いたいと思ったのも同時。どちらが告白したとかじゃないんです。それからは、ふたりで一緒に勉強デートをするようになりました」

早苗と慎一郎がよく勉強デートに使っていたのが、上野のルノアール。週末は午前から集合してそれぞれブースで仕切られてる席を確保して、無言でひたすら本を読んだりレポートを書いたりしていた。長いときはコーヒーをお代わりしながら7~8時間。最長だと10時間。途中でケーキを頼んでブレイクを挟むこともあるけれど、たいていは夜の焼肉まではひたすら集中して勉強する。

忙しいながらも穏やかな生活が、ずっと続くのだと思っていた。結婚はしてもしなくてもいいような、そんな気になっていた。が、慎一郎の海外転勤辞令で事態が一変した。

家庭でもPDCAサイクルで考える

「慎一郎の勤める化粧品会社が、アジアに輸出を広めることが決まり、彼はその拠点となるシンガポールに行くことになりました。慎一郎いわく、転勤はそろそろ、と思っていたけれど、まさか海外になるとは予想していなかったみたいで。私は初め動揺しました。でも、彼の『一緒に行ってくれる?』という言葉で少し気持ちが落ち着いて」

後になってから、「あれが、プロポーズだったのか」と思うと、早苗は少しくすぐったい気持ちになる。でも、あまりに自然な流れだったので、「一緒に行きます」という返事も、ごく自然に出てきた。

辞令から1か月後、慎一郎がまず単身でシンガポールへ。その3か月後、早苗の仕事の引き継ぎと休暇の手続きが整い、シンガポールへ向かった。

「初めは、私の会社のシンガポール支社に異動ができないか、上司に相談しました。けれど、それができないとわかって、新しくできた長期休職制度を使うことにしました。休職は最長3年、ちょうど夫の海外赴任期間も3年の予定だし、ちょうどいいかなって。仕事の第一線から離れる心配は、もちろんありました。もう少し仕事を続けてから、休職を取ったほうがいいのかしら、と。でも、彼と一緒にいるうちに考えが変わってきたんです。

私の仕事を変わってくれる人はいくらでも見つかるけど、家族には代わりはきかない。だから、慎一郎と一緒にいようと。それから半年後、妊娠がわかって、あのときの決断は間違っていなかったと確信しました。仕事はまた復帰して挽回すればいい。今は、今の私にしかできないことを、やり遂げよう。妻として母として」

かつての早苗だったら、「せっかく広報に異動できたのに」「同期に遅れをとってしまいそう」と自分のことばかり考えていただろう。それも、減点方式で。でも、相手(家族)のことを考えながら加点式でする判断は、次につながる。海外生活の体験で得られること、子供が海外で育つこと、夫が新しい仕事に挑戦できること。もちろん心配になることは山ほどあるけれど、「いいところを見つける」思考ができているので、そう悪いほうにはいかない自信もついた。

「今日も検診で婦人科に行ってきました。慣れない海外での出産は不安もありますけど、病院のサポート体制がしっかりしているので、少しずつ安心に変わってきました。地下鉄の中では、若い人もお年寄りも妊婦に席を譲ってくれますし、『いい赤ちゃんを』と声をかけてくれます。こういう小さい幸せをちゃんと感じられると、仕事を休んでいる焦りや不安に襲われることはありません」仕事が忙しいながらも、慎一郎も家事をすすんでやるようになった。それは早苗がMBAで学んだ人材マネジメントのコツが、功を奏しているようだ。

「仕事に役立てようと学んだけれど、家庭でも実は役立つんです。なにか相手にやって欲しかったら、どうしてそれをやる必要があるのか、理解度に応じたやり方の説明、そして終わってからの労いやフィードバック。これができればお互い気持ちいいですから」

あれだけ、「仕事もバリバリ、結婚も子どもも」と思っていた早苗が、今は夫ともうすぐ生まれる赤ちゃんのために、仕事を中断する道を選んだ。人生は長いんだから、そのときどきで優先順位が変わってもいい。いや、どれが1番で何が2番とかじゃなくて、「どうバランスを取るか」だというのが最近の早苗の考えだ。

「仕事でいつもやっていたPDCAサイクル【※1】を回しながら、家庭内でもやっていきます」

仕事は休んでいても、考えることをやめなければいい。試行錯誤を続けながらも、そのときどきの最適なバランスを見つけることは、きっと一生続くだろう。それが楽しくて幸せだということは、早苗も慎一郎も一致している。(終わり)

【※1】PDCAサイクルとは、企業が行う一連の精算活動を、それぞれPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)という観点から管理するフレームワーク。一連のサイクルが終わったら、反省点をふまえて再計画のプロセスへ入り、次期も新たなPDCAサイクルを進める。

 

南 ゆかり

フリーエディター・ライター。『Domani』2/3月号ではワーママ10人にインタビュー。十人十色の生き方、ぜひ読んでください! ほかに、 Cancam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。

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