第1回目では歌謡曲に感じる女性のダンディズムや、お母様との思い出についてお話しいただいています。2回目は敬愛するユーミンについて、また、制作秘話を中心に届けします!
――カバーアルバム『ROMANCE』ではユーミンこと松任谷由実さんの曲が2曲(1曲は呉田軽穂名義)収録されています。エレファントカシマシでもユーミンの『翳りゆく部屋』をコピーされています。制作過程で気づいたことはありますか?
宮本浩次さん(以下敬称略):2007年に敬愛してやまないユーミンの名曲『翳りゆく部屋』を、カバーしました。これが予想以上の反響があったんですね。
ユーミンというのは、女心そのものを歌っています……レディというか……そう、ユーミンの曲には、レディ(貴婦人)がいるんですよ。
2020年8月にテレビ番組『ライブ・エール ~今こそ音楽でエールを~』(NHK総合)で、多くの歌手の方々と一緒に、ユーミンの『優しさに包まれたなら』を歌いました。
私は、もともと、あの曲で描かれる、少女がレディになっていく物語が大好きなんです。ユーミンの曲は私だけでなく、男性のファンも、ものすごく多い。それは曲の中のレディに惹かれて、共鳴しているからだと思うんです。
――『ライブ・エール』は、ユーミンご本人が出演したことも話題になりました。
宮本:リハーサルのとき、ヘッドホンからすごい歌が聞こえてきたんです。とりわけて波動が異なる、圧倒的な声でした。「これは本物のレディを体現している。主人公そのものの歌声だ」と感じたら、ユーミンご本人だったんです。私がユーミンと同じことをするのは不可能ですから、素朴に歌おうと。
▲曲の中の女性に「レディを見た」と語る宮本さん。
――一方で、女性の情念のようなものを表現する『化粧』(中島みゆき)も歌っています。
宮本:愛すべき主人公の歌です。ピュアでありながら、残酷さとエゴイズム、業のようなものも感じます。彼女が流した涙は、悔し涙なのか、悲し涙かわからないけれど、「流れるな涙、心で止まれ」というセリフの強さ、孤独、凄味を感じます。私はこの曲を、主人公になり切って、泣きながら歌いました。
――宮本さんはバンドで沢田研二さんの名曲『サムライ』もカバーしています。
宮本:ピストル、花束、火の酒……男のダンディズム……作詞の阿久悠さんのダンディズムの強さに圧倒される曲です。阿久悠さんのダンディズムを、沢田研二さんという大ヒーローが表現している。
あの歌を歌っているときに、私は男のダンディズムの表現について、クールな視点で見ている自分自身に気付いたのです。なんでしょうね……男だからこそわかってしまう、男のエゴイズムのようものが見えたのです。
一方で、女性の歌の中にあるエゴイズムは私にはわかりません。ピュアなものはひたすらピュアに響いてくるので、泣けて、泣けてしょうがない。
このアルバムを制作していて「女の人って、なんてステキなんだろう」といつも思っていました。まあ、女の人から見れば、そんなに思い込まれても迷惑かもしれませんけどね(笑)。
わからないからこそ、女性の歌に純粋にのめり込みました。エレファントカシマシでは表現しきれなかった部分を、女性の歌によって表せたと思っています。
▲号泣しながら収録したこともあったという。
―――一番むずかしかった曲はなんでしょうか。
宮本:宇多田ヒカルさんの『First Love』です。この曲は私自身が歌いたくて、最後の最後までこだわりました。だからこそ、ハードルも高かったですし、弾き語りで成立したのはうれしかった。宇多田さんは女の人の心を歌っています。それをロックシンガーで50代の男性である私が歌うのです。やはり、そのすばらしさを踏襲しながらも、余韻として何かを残したい。最後の最後……9月の下旬に完成しました。