関わっているすべての人がひとつになって作り上げる舞台の楽しさや素晴らしさを、改めて感じています
今回の宝塚歌劇団リレー連載にご登場いただくのは、話題のミュージカル『二都物語』に出演中の元宙組トップ娘役の潤 花(じゅん・はな)さん。ご紹介してくださったのは、元花組トップスターの柚香 光(ゆずか・れい)さんです。
<柚香 光さんのコメント>
すごく親しいというわけではないのですが、笑顔がかわいい下級生という印象で気になる存在でした。
華やかさとポジティブさで、まわりを明るくする潤さん。今回は、現在出演中の作品やこれからのお仕事についてなど、オンの部分についてお話をうかがいます。(※取材時は『二都物語』稽古期間中)
—ご紹介いただきました柚香 光(ゆずか・れい、元花組トップスター)さんとのエピソードがございましたら教えてください。
潤さん(以下敬称略):私が雪組から宙組へ組替えしたあと、『宝塚グラフ』で同期の太凰 旬(たおう・しゅん、花組男役)のコーナーに呼んでもらって撮影をしたんです。その撮影スタジオって、宝塚歌劇の大劇場公演のお稽古場のすぐ近くにあるんですよ。
撮影時、太凰は豚、私は顔しか出ていない虎の全身着ぐるみを着て、ふたりでふざけて大笑いしていたんです。そのときちょうど花組さんがお稽古をしていて、しかも換気のために扉が開いていたんですね。
笑い声がまる聞こえだったみたいで、柚香さんと水美(舞斗、みなみ・まいと、宙組男役)さん、永久輝(せあ、とわき・せあ、花組トップスター)さん、星風(まどか、ほしかぜ・まどか、元花組トップ娘役)さん、聖乃(あすか、せいの・あすか、花組男役)さんという5名がスタジオに入って来られたんですよ。
「うるさくてお稽古を止めちゃったかな」と慌てていたら、柚香さんが「楽しそうだねー!」と、7人で写真を撮ってくださったんです。着ぐるみの私と太凰を、素敵なみなさんが囲んでくださり(笑)。とっても思い出深い出来事でした。
——当時の花組の錚々たるメンバーが……。太凰さんのお話も出ましたが、潤花さんがいらした102期はスターさんが多い印象です。
潤:とにかく102期はすごく仲良くて騒がしいです(笑)。劇団に行って同期に会ったら、組が違ってもワッとはしゃいじゃう。
劇団に入る前の音楽学校2年間は、きょうだいみたいにケンカして本音でぶつかり合って……。でもそういうことができる仲間は貴重だとお互いに思っているので、これからもその関係性はずっと続いていくのだと思います。
今でも時間さえ合えば「集まろう」となりますし、連絡もこまめに取り合っています。どこに行っても「102期うるさい」って言われます(笑)。
——雪組と宙組を経験されていますが、いちばん印象に残っている役は何でしょうか?
潤:どのお役も本当に思い入れがあるんです。作品や役から受ける学びはそれぞれあり、ご一緒する方が違うと感じるものも得るものもそのときどきで違うので、いくつか挙げさせてください。
ひとつは、『ひかりふる路 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』の新人公演で演じたマリー=アンヌです。望海(風斗、のぞみ・ふうと、元雪組トップスター)さんと真彩(希帆、まあや・きほ、元雪組トップ娘役)さんの大劇場トップコンビお披露目公演で初めて新公のヒロインをいただいたうれしさと、あのときに感じたお芝居の楽しさは今でも忘れることができません。
その後もいろいろなお役をいただいて演じることの奥深さを知っていき、心から「役を生きるってこんなに素晴らしいことなんだ」と思ったのが、『シャーロック・ホームズ -The Game Is Afoot!-』のアイリーン。毎日たくさんの発見があった作品と役でした。
楽しかったけれどいちばん壁にもぶつかり、周りの方にたくさん助けていただいて、学びが多かったのは『NEVER SAY GOODBYE』のキャサリンです。
——どの女性も芯があるというか、しなやかな強さを持っている印象があります。
潤:そうですね。その生きざまに自分自身が惹かれ、ターニングポイントになっているのかなと思います。今回の『二都物語』のルーシーもそんな役かもしれません。
——『二都物語』は潤花さんにとって久々のミュージカルですね。
潤:はい。舞台のお仕事は久しぶりですが、やっぱり楽しいです。お稽古場にスタッフのみなさんもいらっしゃって、全員がひとつになって試行錯誤しながらイチから作っていく現場に関われていることがうれしく、たくさん助けていただきながらお芝居にのめり込める時間って幸せだなと、今全身で感じています。
写真提供:東宝演劇部
——スタッフもキャストも素晴らしいメンバーです。
潤:演出の鵜山(仁)さんが考えらえていることや、なにかをする意味がわかったとき、とてもすごいことをされていると感じます。それをすることで自分自身が動きやすくなったり、また別な感情が生まれたりするということが何度もあり、本当に学びがたくさん。
共演者のみなさんはコミュニケーションを密にとってくださるから役や舞台の相談がしやすくて、私がいろいろ聞いてしまい「気を遣わなくてすみません」という感じです(笑)。そのくらい、カッコつけず自分にできないこともすべてさらけ出せる現場で、「助けてください」と相談したら冷静にアドバイスをくださる真摯な雰囲気です。
共演の井上(芳雄)さんと浦井(健治)さんはお稽古場の席が近いのでたくさんお話でき、安心できるような言葉をかけてくださいます。井上さんに「お稽古と舞台どちらも楽しいと思いますが、どちらがお好きとかありますか?」とうかがったところ、井上さんが
「稽古場でももちろんお客さまがいらっしゃることを想定して稽古に励むけれど、稽古場にいるみなさんに楽しんでもらえるようなパフォーマンスを考えるかな。舞台に行けばもちろん目の前のお客さまのためにパフォーマンスをする」
とおっしゃっていたんです。本番のようにお客さまがいるという想定でお稽古をされていることは存じていたのですが、それに加えてその場に実際にいるみなさんに対する思いを持たれていることに衝撃を受けました。
井上さんは、日頃から、まわりを楽しませてくださる方というのをすごく感じます。緊張感のある場面のお稽古の後も、井上さんのひとことで場が和むというか前向きな方へ進むことが多く、そのさりげない気遣いが素敵なんです。
——仕事で壁にぶつかったときや落ち込んだときは、どうやって乗り越えていますか?
潤:真風涼帆(まかぜ・すずほ、元宙組トップスター)さんに出会って、ガラッと変わった価値観があるんです。それは、未熟な自分がひとりでどうにかしようとするのは無理だということ。だから、どうにもこうにもならなくなったら誰かに助けを求めます。
ゆりか(真風)さんの相手役になり、「迷惑をかけないように自分でどうにかしなきゃ」ともがいたけれど技量も知識もないから空回りばかりしていたんです。そのときにゆりかさんが、「誰かに助けを求めたりアドバイスをもらうことに、申し訳ないとか、迷惑をかけるとかは考えなくていいんだよ。舞台はひとつだし、みんなで作っているものだから」と言ってくださったときに、「まわりに頼っていいんだ」と初めて知ったんです。
それから、行き詰まったときにはとにかくまわりの方に聞きに行っていろいろな意見をいただき、それを自分に落とし込んで進めるようになりました。そこで新たな発見もありますし、納得のいかないものでもやってみたら見えるものがあったりして、演じることの選択肢が広がったように思います。
今回、共演者の福井貴一さんが言われていたのが、「自分の心情に合わないものや理解できない役と出会ったときに『今だ!』と思う」ということ。「自分の心情と合っていなくていい、それが“役”を生きるということだから」と言っていただき、すごく腑に落ちたんですよ。
役を理解しようと走ってきましたけれど、自分自身ではない“役”なのだから理解できなくて当たり前で、それが誰かを生きるということ。今回もいろいろな方の意見をうかがい、自分にはない感情や知識を取り入れることで新たな「ルーシー」が生まれると思っています。
本当に私はまわりの方々に恵まれているんですよ! タカラヅカに入ってからも卒業してからも、家族にも。今回改めて思いました。
——素敵なお話です! これからまた新たな現場や多くの方々と出会っていくことになると思いますが、演じてみたい役ややってみたいお仕事はありますか?
潤:ミュージカルの舞台は挑戦し続けたいと、今回を経て強く思いました。セリフに音楽が乗ることで感情に幅が出るというか、言葉だけでは表せないことが上乗せされてまた違う景色が見えるというか。
もちろんストレートプレイも魅力的です。それこそ自分では到底理解できないような、いろいろな役に出会ってみたいですね。
目を輝かせながら前向きな姿勢でコミュニケーションをとられる潤さんに、まわりの方も「話してみたい」と思うのかもしれません。「まわりの方に恵まれている」と言われていましたが、その引き寄せ力こそが潤さんの魅力なのだと感じました。次回は潤さんのパーソナルなお話をうかがいます。お楽しみに!
撮影/黒石あみ 構成・文/淡路裕子
チャールズ・ディケンズによる不朽の名作、12年の時を経て、再演!!
ミュージカル『二都物語』
【Story】
18世紀後半、イギリスに住むルーシー・マネットは、17年間バスティーユに投獄されていた父ドクター・マネットが酒屋の経営者ドファルジュ夫妻に保護されていると知り、パリへ向かう。無事に再会し父娘でロンドンへの帰途の最中、フランスの亡命貴族チャールズ・ダーニーと出会うが彼はスパイ容疑で裁判に掛けられてしまう。そのピンチを救ったのはダーニーと瓜二つの酒浸りの弁護士シドニー・カートン。
3人は親交を深め、ダーニーとルーシーは結婚を誓い合う仲になる。カートンも密かにルーシーを愛していたが、2人を想い身を引く。穏やかな暮らしが続くかに見えたが、ダーニーは昔の使用人の危機を救おうと祖国フランスに戻り、フランス革命により蜂起した民衆たちに捕えられてしまう。再び裁判に掛けられたダーニーだったが、そこで驚くべき罪が判明し、下された判決は死刑。ダーニーとルーシーの幸せを願うカートンはある決心をし、ダーニーが捕えられている牢獄へと向かう——。
【Staff& Cast】
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作詞・作曲:ジル・サントリエロ
追加音楽:フランク・ワイルドホーン
翻訳・演出:鵜山仁
シドニー・カートン:井上芳雄
チャールズ・ダーニー:浦井健治
ルーシー・マネット:潤花
マダム・ドファルジュ:未来優希
ヴレモンド侯爵:岡幸二郎
バーサッド:福井貴一
ジェリー・クランチャー:宮川浩
ドファルジュ:橋本さとし
ドクター・マネット:福井晶一
ジャービス・ロリー:原康義
ミス・ロス:塩田朋子
弁護士ストライバー:原慎一郎
荒田至法 / 榎本成志 / 奥山寛 / 河野顕斗 / 後藤晋彦 / 砂塚健斗 / 田中秀哉 / 常住富大 / 福永悠二 / 丸山泰右 / 山名孝幸 / 横沢健司 / 彩花まり / 石原絵理 / 岩﨑亜希子 / 音道あいり / 樺島麻美 / 北川理恵 / 島田彩 / 原広実 / 玲実くれあ
大村つばき / 齋藤菜夏 / 高木郁 / 若杉葉奈 / 張浩一 / 松坂岳樹
【公演スケジュール】
2025年5月7日(水)〜31日(土) 東京都 明治座
2025年6月7日(土)〜12日(木) 大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
2025年6月21日(土)〜29日(日) 愛知県 御園座
2025年7月5日(土)〜13日(日) 福岡県 博多座
▶︎公式サイト
俳優
潤 花
じゅん・はな/1997年9月19日生まれ、北海道出身。元宝塚歌劇団宙組トップ娘役。2016年に102期生として宝塚歌劇団へ入団。雪組に配属され、2017年『ひかりふる路 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』で新人公演初ヒロインに。いくつかのヒロインを経て、2020年に宙組へ組替え。翌年宙組トップ娘役に就任し、『シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』で大劇場公演お披露目を果たす。2023年『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』にて宝塚歌劇団を退団。退団後はドラマや舞台に出演し、現在公演中のミュージカル『二都物語』のメインキャストに名を連ねる。
▶︎Instagram:@junhana_official
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