そうジョーダンは言ったのだ。2人はそのあと、しばらくともに練習をし、それが終わるとジョーダンは心から感謝しているという態度で礼を言ったという。
「お願いします」と「ありがとう」。誰かに丁寧に何かを頼み、そして、してもらったことに心からお礼を言う──ごく単純なことだ。
しかし、まさにその単純で小さな行動が、シャシェフスキーにとても強い印象を与えることになったのである。シャシェフスキー自身はこんなふうに言っている。
そのときの遠征には、いろいろなことを学ぶ機会がたくさんあったが、中でも最も大事だったのが、そのジョーダンとの間の出来事だ。私は今でもそのときのことを思い出すと、感動で体が震える。ああいうことがあると、どんなチームでも力が倍加されるだろう。
ジョーダンは、自分はスーパースターなのだから、特別扱いされるべきだ、と思っても不思議はなかったし、そうしても誰も責める人はいなかっただろう。だが、実際のジョーダンはそうではなかった。そのチームでは、誰ひとり、特別でいるべきではない、全員が重要なのだということを、彼はよくわかっていた。
ジョーダンは私に向かって「やあ、マイク、こっちに来てくれよ」という具合に話しかけることもできた。そう言われれば、私は言われるままにジョーダンのそばに駆け寄っただろう。何だかばかばかしいと思いながらも、言われたとおりにはする。
ただ、私はジョーダンに対する尊敬の気持ちを失うことになったはずだ。それは彼の望みではなかった。だから、ジョーダンは私を「コーチ」と呼び、命令口調ではなく、何かを「お願いする」という丁寧な話し方をした。そして、私が彼の頼みに応えたらきちんと礼を言った。なんとすばらしいことだろうか。
これはマイケル・ジョーダンが非常に優れた人物であることの証拠だと思う。ジョーダンのような位置にいる人がこういう態度を取ることには大きな意味がある。チームを成功へと導く雰囲気作りに役立つ態度だ。彼がそれを知っていてあらかじめそういう態度を取ったのかどうかはわからない。
ただ彼がそうしたのは事実だし、それで私は彼を永遠に尊敬することになった──デューク大学でのコーチ業にも、そのときのジョーダンの態度が大きな影響を与えた。
「礼儀正しく」ふるまうと周囲の態度が変わる
ジョーダンのような、ほんのささいなふるまいがなぜそれほど大事なのか。それを理解するには、人間がどういう人に好感を持つかを考えてみるといいだろう。それについては世界中の研究者が調査をしている。
これまでに、人間の200種類を超える行動特性が調査の対象となっている。その中でもとくに重要だとわかったのが、「温かさ」と「有能さ」の2つだ。この2つが、他人に与える印象を大きく左右する。この2つがほぼすべてと言ってもいい。