【目次】
子育てってできないことが多くなるイメージだけど、じつはできることもすごく増える
世間に浸透している「子育ては大変」「出産前に比べるとできなくなることが多い」というイメージに対して、共にシングルマザーで、仕事をしながら子育てをしているお二人は、どのように考えているのでしょうか。
インタビュー前編
▶︎「子育ての『正解』は子どもと見つける」書籍『ママはキミと一緒にオトナになる』発売記念対談(前編)
────子どもを生むと、「できなくなることが増える」というイメージがあるのですが、お二人の実感はいかがですか?
さとゆみ:たしかに、できなくなったこともあるけれど、でも、それ以上にできることがすごく増えますよね。
杉山:そう思います。私の場合は、マルチタスクで同時進行できるようになったり、時間の使い方がうまくなったりとか。子育てを経験したことで、患者さんへの言葉のかけ方も変わった気がします。今思うと、昔の自分って、子どもっぽくて嫌なやつだったなと(笑)。
さとゆみ:私も嫌なやつだったと思う(笑)。なんか性格が丸くなりますよね。
杉山:なりますね。
さとゆみ:きっと、自分が完璧じゃいられなくなるからですよね。自分一人でやっていたときは、何とか頑張ったり、パーフェクトを目指したりすることもできたけど、それができない。人の助けが必要になるから、「みなさま、ありがとう」という気持ちで、すごく謙虚になるんですよね。私、子どもを生むまで「ごめんなさい」が言えなかったんですよ。
杉山:ふふ、私もです。謝ったら負けみたいな(笑)
さとゆみ:そうそう。スポーツをやっていたからかもしれないんですけど、ちょっとでも弱みを見せたら敵に狙われるって思ってて(笑)。でも、最近は、仕事でも人に頼むことができるようになりました。前は、自分で原稿の最後の1文字までチェックしないと気が済まなかったのが、「ここはお願いしていい?」と任せられるようになったんです。しかも、そうやって頼んでみたら、すごく喜ばれる。よく考えたら、自分も先輩から頼まれたら嬉しかったんですよね。なぜか自分のときはそう思えなくて。人に迷惑をかけてしまうって。
杉山:人に迷惑をかけてはいけない。迷惑をかけたら負けだ、と思っちゃうんですよね。私の場合は、周りから「これだから子どもがいる女医は」と言われるのが絶対に嫌だったんです。だから、最初はとにかく隙を見せてはいけないと頑張ってしまって。なんでも積極的に「私やります!」と立候補していたら、いつの間にか自分で自分の首を絞めることに……。
さとゆみ:「人に何か言われないように」っていう気持ち、分かります。
杉山:でも、結局、子どもが体調を崩したら周りに頼らないといけないですし、自分が頑張るだけではどうしようもなくて。こんなふうに強がっていてもダメなんだなと気付いたことで、だんだんと鎧が取れていきました。
さとゆみ:人に頼れるようになったんですね。
杉山:はい。それが社会の仕組みとして正しいんだなと。自分ができなかったら誰かにお願いすると、その人も喜んでやってくれて、それぞれ能力を発揮することができる。あぁ、これが社会なんだなって。
さとゆみ:うんうん、なるほど。
杉山:社会とはそういうものだと思えたら、 罪悪感でいっぱいになる必要もなくて。
さとゆみ:たしかに。迷惑ではなくて、お互い支え合うことが「私にも、あなたにとってもいい」って思えるようになりますよね。
私は子どもを生んで自分が変わったと思うけれど、その一方で、お子さんがいらっしゃらない人たちの中にも、子どものことや社会全体のことを考えてくれている人たちがたくさんいる。子どもがいる、いないにかかわらず、みんなが仲良く手をつなげるような社会になっていったらいいな。この本はそんな思いも込めて書きました。
親と子は、どんどんチームっぽくなっていく
────お子さんとのコミュニケーションの取り方についても、お聞きしたいです。
さとゆみ:杉山さんの娘さんは中学生ですよね。反抗期ってもうありました?
杉山:一人っ子でのんびりしている性格だからか、あんまりないんですよね。私自身、反抗期がすごかったので、そろそろ娘が立ち向かってくるはずだ、「よし来い!」と思って待ってたんですけど(笑)。さとゆみさんのところは、息子さんが「今日から反抗します」って宣言されていたと、本に書かれていましたよね。
さとゆみ:そうなんです。宣言されました(笑)。時々は反抗されつつも、でも、何か一緒にやるときは少し会話が増えるといいなと思っていて。旅行先とかだと、普段よりもコミュニケーションが取りやすくなる気がします。
杉山:それはありますね。うちもこの間、旅行に行ったときに二人でカヌーを体験したのですが、いつもより会話が増えていたかも。「ママそっちに漕がないで!」とか(笑)。
さとゆみ:うちもです! カヌーって協力してできるからいいですよね。特に初めてで不安なこととかだと、二人で力を合わせられる。うちはシングルで育てているからか、最近はだんだんと息子との間に、「二人で何とかやっていこう」というチーム感が生まれてきた感じがします。
杉山:うちもそうですね。LINEで「夕飯作っておいたよ」とか「宅急便受け取っておいたよ」と、やり取りすることも多くて。チームっぽくなってきました。それに、娘は料理を作ってくれるので、それがめちゃくちゃ助かっています。
さとゆみ:なんと!料理をしてくれるの? すごくいいですね(笑)
杉山:そうなんです。唯一、料理だけは英才教育をしていて(笑)。私は「勉強しなさい」とはほとんど言わなかったんですが、料理だけは小さい頃から「できるようになってほしい」と思って、手伝ってもらっていたんです。今では私が家に帰ると、食事ができている!
私の母もシングルマザーで、私がご飯を作るとすごく喜んでくれたんですよね。それが嬉しかった記憶があったので、娘にもやってもらえたらなと。私が「助かる!ありがとう!」とお礼を言うと、にやーっと笑って嬉しそうにしています(笑)。
さとゆみ:いいな、そんな未来! 私もいつか、息子が私の原稿を校正してくれたらなと思っているんです(笑)。料理に関して言うと、うちは私も料理をしますが、けっこうUber Eatsも使っています。温かい料理が届くから、コンビニで買ったものを置いてくるより罪悪感がない。それに、受け取ったという通知が来るので、息子の生存確認にもなるんです。
杉山:うちも使いますよ、Uber。好きな料理を選べるからいいですよね。
さとゆみ:そうそう。もうUberさまさまです(笑)。今は便利なものが多いから、困ったときにはどんどん活用していったらいいんじゃないかな。
「待つこと」の大切さを、改めて考えるようになった
────杉山さんは、すでに2回、さとゆみさんの本を読まれたとのこと。印象に残っているところはありますか?
杉山:私がこの本の中で特に印象に残っているのが、さとゆみさんがお父さんから言われた「待てる親になりなさい」という言葉なんです。自分の日常に当てはめて、待つことって大事だなと改めて考えるようになりました。
さとゆみ:たしかに、子育てだけじゃなくて、仕事でもそうですよね。私は今、メディアを運営していて、ライターさんたちに原稿を書いてもらっているのですが、そこでも待つことの大切さを感じています。
今までだったら、「もっと読みやすくなるように」と、自分でどんどん原稿に赤字で修正を入れてしまっていたんです。でも最近、「どうしてこういうふうに書いたの?」と聞くようにしたら、思いもよらない理由があることが分かって。
杉山:なるほど。
さとゆみ:「それだったら、こういうふうに書き直してみよう」と提案するほうが、原稿は断然良くなる。私が赤字を入れるよりもずっといいんです。しかも、一度自分でできるようになれば、その先、その人は一人でもできるようになる。
杉山:相手の成長にもつながりますね。何でも自分でやるよりも、話してくれる人の言葉を待つとか、人の成長を待つとか、待つことができると自分もどんどん楽になる。私は子どもがしゃべっているときに、ついついかぶせるようにして話しかけてしまうときがあるんですが、これからはもっと「待つこと」を意識してみようと思っています!
さとゆみ:そうやって日常に取り入れてもらえると、すごく嬉しいです。
子育ての喜びはたくさんある。だから、楽しい
────出産する前と後では、どんな変化がありましたか?
杉山:私は子どもを生む前、先輩ママたちから「子育て大変だよ~」と言われて、正直ビビっていました。でも、母になった今、大変なこともあるけれど、子育ての喜びもたくさんあると感じています。だから、これからママになる人たちには「おめでとう、これから楽しみだね!」って伝えたい。この本にも、「子育ては大変なことばかりじゃないよ」と書かれていて、とても共感しました。
さとゆみ:そう言っていただけるととても嬉しい! 「子育て大変だよ~」って、これから生む人たちにとっては呪いの言葉のようになってしまっていますよね。
杉山:特に私は、医師になったばかりのタイミングで妊娠したので、社会人としてのスタートとママのスタートが一緒になってしまって。だから、けっこう言われました。子育て経験のある看護師さんたちから、「それはもう大変だよ」って(笑)。もともとものすごく子どもが好き、というタイプでもなかったので、出産するまではとにかく不安でしたね。
さとゆみ:あぁ、それは怖くなっちゃいますよね。
杉山:そうなんです。それに医師だと、ある程度キャリアを積んでから出産する人も多くて、周りに自分と同じような状況の人が誰もいなかったんですよね。生んだら生んだで、今度は「子どもは急に熱を出すよ~」という呪いの言葉が……。
さとゆみ:言われた、言われた。「毎日、熱出すから大変だよ~」って(笑)。
杉山:でも、うちの場合、子どもがけっこう丈夫だったんですよね(笑)。それに、よく「小さい頃はかわいいけど、大きくなると寂しいよ」なんて聞くこともあったんですが、娘が中学生になってもやっぱりかわいい。
さとゆみ:それもよく聞きますよね。3歳くらいまでのかわいさで、親への恩返しは全部終わる、みたいな。その後のほうがずっとかわいいのに。周りから「大変、大変」と言われすぎて、生む前からブルーになってしまう人が多いですよね。だからこそ私は「子育て楽しいよ!」って言いたいんです。
今日、ちょうどここに来るときに、知り合いから「妊娠しました」と連絡があって。その人も今、バリバリ仕事をしている最中だったから妊娠して不安があったみたいなんだけど、この本を読んで「子どもが生まれるのが楽しみになりました」と言ってくれたんです。
杉山:特に言う場所がないから言ってないだけで、「子育て楽しいよ」って伝えたいママも、じつはたくさんいますよね。
子育ての経験を通して、仕事にも良い影響があったと話すお二人。子どもの成長を見守りながら、日々の何気ないやり取りを心から楽しんでいる様子が伝わってきました。現在、発売中のさとゆみさんの著書『ママはキミと一緒にオトナになる』には、さとゆみさんが息子さんとの対話を通して見つけた新しい景色が、優しいまなざしで描かれています。ぜひ読んでみてください!
『ママはキミと一緒にオトナになる』佐藤友美・著(1,650円税込み・小学館)
kufuraでの人気連載が書籍になりました!
息子(連載スタート時には9歳)と二人暮らしのシングルマザーが、彼との会話や子育てを通して見えてきた世の中のこと、家族のことを綴った3年間の記録。
実際に子どもが生まれてわかったのは、「たしかにできなくなったこともあるけど、それ以上にできるようになったことの方がずいぶん多い」ということだった。これは、私にとって、驚きの誤算だった。(本文より)
Profile
佐藤友美さん
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンママ。小学6年生の息子と暮らすシングルマザー。
Profile
杉山迪子さん
医師。1981年生まれ。中学生の女児を育てるシングルマザー。現在は、乳腺専門クリニック マンマリアツキジで診療を行っている。乳がん・乳腺の知識を分かりやすく発信すること、乳がんの患者さんに役立つ楽しい情報を発信することをライフワークにしている。ファッション、美容、料理、娘との旅行が大好き。Instagram▶︎@michiko_612
撮影/深山のりゆき 取材・文/安藤 梢
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