【目次】
子育ての悩みは、身近な人にも言いにくい
共にシングルマザーで、仕事をしながら子育てをしているお二人。Domanistの杉山さんは、「子育ての悩みは意外と人に相談しにくい」と話します。時には、母親だからこその孤独を感じることもあるのだそう。その理由を語るところから対談はスタートしました。
────お二人は、普段、子育てをしながら悩んだり、不安を感じたりすることはありますか?
杉山迪子さん(以下、杉山):いつも娘とはハッピーな毎日を過ごしているのですが、ふとしたときに、自分が正しいのか分からなくなることがあって。例えば、子どもが自分の思ってもみなかったようなリアクションを取ったときとか、自分の経験からは判断できないことがあったときなど、どうしてあげたらいいんだろうなと。でも、子育ての悩みって、身近な人にも言いにくいんですよね。
さとゆみ:うんうん。
杉山:自分の中では表現できても、他人に話そうとすると、言葉にした瞬間にちょっと変わってしまう気がするんです。それで、うまく伝わらない。
さとゆみ:たしかに微妙にニュアンスが変わる。それって、恋愛相談に似ていますよね。パートナーのことを、わりとしっかり話さないと相談にならないんだけど、そこを話しているうちに「なんかちょっと違うな」と。
杉山:そうなんです。そう考えると、意外と相談できる相手がいなくて。友達や他人には話しづらいし、かといって母親だと世代が違うし……。同じ立場で子育てをする父親がいたらよかったのかな、とか。でも、シングルマザーに限らず、孤独を感じている母親って多いんじゃないでしょうか。
さとゆみ:母親が孤独というのは、すごく分かる気がします。それって何でだろうと考えてみると、ひとつには「この子の将来を自分が左右してしまうのではないか」という不安があるからなんですよね。
杉山:あぁ、そうかもしれないです。
さとゆみ:今、自分がどう対処するかによって、この子の人生が変わってしまうんじゃないかという怖さがある。
杉山:それはありますね。だから、自分がどう動くべきなのか、すごく悩んでしまって。
さとゆみ:もちろん私も息子の将来について悩むことが全然ないわけじゃないんですが、でも、あるときから「もう私のおかげでも、私のせいでもないな」と思うようになって。というのも、子どもの個性って、親の思惑を軽々と越えていきますよね。私が「こうなるといいな」と思って選んだことも、彼にとってはどちらでも同じだったり、全然違っていたり。
杉山:自分とは別の人格だなと。思い当たります。
さとゆみ:良かれと思ってやったことでも、彼は良くないと思っているかもしれない。逆に「これをしてあげられなくてごめんね」と思っていたことが、彼の強みになることもある。そう思うようになってから、息子に対しては、ご飯を食べさせてあげて、元気に明日が迎えられたら、もう十分だなと。それができたら「頑張った、私!」って思うようになりました。
杉山:子育ては、どうしても肩に力が入りすぎてしまうけれど、ちょっと力を抜くことも大事なんですね。
親が「子どもの人生を決めてしまう」と、張り詰めなくてもいい
────子どもたちが、親の言葉や行動をどんなふうに受けとめるのかは、それぞれ違うという。
さとゆみ:それに子どもって、思ったよりもいろんな人の影響を受けているんですよね。それは友達とか学校の先生とか、もしかしたらYouTuberの言葉かもしれない。だから、私一人が息子の人生を決めるって思いすぎなくていいんだなって。そう考えたら、すごく楽になりました。
杉山:たしかに。自分自身を振り返ってみても、母親の一言に左右されて人生が全部決まったわけじゃないですもんね。でも、なぜか子どものこととなると、「私が何とかしないと」みたいな気持ちになってしまう。
さとゆみ:私の考えが変わったのは、ライターという仕事をしているからなんです。いろいろな人に取材するので、いわゆる成功者といわれるような人たちの話を聞く機会もたくさんあります。そうすると、必ずしも親御さんが「理想の家庭」みたいなものを築いているケースばかりではないなと。むしろ、そうじゃないことのほうが多い。それで、親が「子どもの人生を決めてしまう」と、張り詰めなくてもいいのかもしれないなって思うようになったんです。
杉山:なるほど。
さとゆみ:あと、本人に聞くのもいいですよね。これは新刊の『ママはキミと一緒にオトナになる』にも書いたんですが、私はよく息子に「あなたの好きにしていいよ」って言っていたんですが、じつはそれが負担だったと言われて。私が自由にさせていることを、彼は楽しんでいると思っていたんですよね。
杉山:「ママはとんちんかんだ」って言われたというエピソードですね(笑)。
さとゆみ:そうそう(笑)。しかも、後日談があって。その原稿を読んだときに、息子から「とんちんかんって何?」って聞かれたんですよ。「え?あのとき言ったじゃん」「言ってない。僕、その言葉知らない」って。
杉山:さとゆみさんの頭の中で変換されていた?
さとゆみ:そうなんです。エッセイに書くから、なるべく息子の言葉を正確にと思って、メモを取ったりしていたのに。もうビックリしました。思わず「嘘でしょ?」って言っちゃった(笑)。
彼の言葉を慎重に書き残したつもりでも、やっぱり自分のフィルターを通して受け取っている。それなら私が「彼のため」と思っていることだって、だいぶずれているんだろうなと。
杉山:私も同じように感じたことがあります。うちの娘は絵を描くことが好きなので、得意なことを伸ばせたらいいなと思って、絵の教室に通わせていたんです。つい最近、娘に「将来、絵の道に進めばいいんじゃない?」と言ったら、「ママは絵の世界を知らないから」って。どうやら、絵の教室には自分よりももっとうまい子たちがいて、その中に入るといろいろ思うところがあるみたいで。
私としては「子どもの好きなことを伸ばしてあげたい」という気持ちだったのですが、彼女には彼女の考えがあるんだなと。
さとゆみ:でも、それをちゃんとママに伝えられるっていうのは、コミュニケーションが取れているからですよね。素敵です。
杉山:うちの娘は口下手なんですが、時々ポロっと本音を言うので、それを聞き逃さないようにしたいなと思っています。
過去が『正解だったか』『間違いだったか』を決めるのは、現在の自分
────杉山さんは、さとゆみさんの本をどんなふうに読まれましたか?
杉山:私、本の中ですごく好きなところがあって……。
さとゆみ:どこどこ?
杉山:「人は『過去を簡単に塗り替える』」という。
さとゆみ:人は、今がうまくいっていなかったら「親の育て方が悪かったからだ」と言うし、今がうまく言っていたら「そんな親に育てられたから頑張れた」と言うものだと。
杉山:そこがすごく響きました。昔の自分に聞かせてあげたら、もっと肩の力が抜けたんじゃないかなと。
さとゆみ:過去が「正解だったか」「間違いだったか」を決めるのは、現在の自分なんですよね。だから、子育てに「正解」はないけれど、最終的に子どもが「今、幸せだ」って思ってくれたら、幼少期のことも幸せな記憶として残るんじゃないかなと。
杉山:さっき話していた、母親の孤独を救う言葉でもあると思うんです。子育てを頑張っているママたちにぜひ読んでもらいたい。
さとゆみ:そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。
そんなに立派な子育てなんてできない
────育児書や子育てエッセイなどは、よく読まれますか?
杉山:じつは私、子育て系の本って、これまでほとんど手に取ってこなかったんです。というのも、子育てって何が正解か分からないですよね。でも、本には「○○をすれば子どもはこうなる」みたいなことが書かれている。なんだか意見を押し付けられるような気がしてしまって。ちょっと苦手意識があったんです。そんなに立派に子育てできないなと。
さとゆみ:その気持ちは分かります。子育て本を読んで、「私ってダメな親なのかな」とか思うと、疲れてしまったり。
杉山:そうなんです。でも、この本を読んだら、全然押し付けがましいところがなくて。一気に読めました! 最後まで読んでからまたはじめに戻って、今、2回目です(笑)。
さとゆみ:う、嬉しい……。これまでいただいた感想でも、「子育て本が苦手だったけれど読めました」という方がすごく多かったんです。おっしゃる通り、子育てに「正解」ってないんですよね。
このエッセイを書くときに「じゃあ、自分には何が書けるんだろう」と考えました。いろいろ悩みながら、子どもと一緒に今のところの暫定解みたいなものを見つけていくことだったらできるかなと。「今日はこうやって運用してみよう」、でも違ったら「別のルールに変えてみよう」というのを、そのまま書こうと思ったんです。
杉山:それがすごくリアルでしたね。子育てって日常なので、劇的なことが起こるわけでもない。本を読んでいて、そのリアルさを感じました。
子育てには「正解」はない。だからこそ、将来子どもが大きくなったときに、過去の自分が「幸せだった」と振り返ってもらえるように、今のこの瞬間を大切にしていきたい。お二人のお話からは、そんな思いが伝わってきました。さとゆみさんの著書『ママはキミと一緒にオトナになる』には、息子さんとの何気ない、でも発見だらけの日常の瞬間が描かれています。
対談の【後編】では、お二人が日々感じている子育ての楽しさや、子どもとのコミュニケーションについてたっぷり語っていただきました!
▶︎「子育てを経験したからこそ、できるようになったことがある」書籍『ママはキミと一緒にオトナになる』発売記念対談(後編)
『ママはキミと一緒にオトナになる』佐藤友美・著(1,650円税込み・小学館)
kufuraでの人気連載が書籍になりました!
息子(連載スタート時には9歳)と二人暮らしのシングルマザーが、彼との会話や子育てを通して見えてきた世の中のこと、家族のことを綴った3年間の記録。
実際に子どもが生まれてわかったのは、「たしかにできなくなったこともあるけど、それ以上にできるようになったことの方がずいぶん多い」ということだった。これは、私にとって、驚きの誤算だった。(本文より)
Profile
佐藤友美さん
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンママ。小学6年生の息子と暮らすシングルマザー。
Profile
杉山迪子さん
医師。1981年生まれ。中学生の女児を育てるシングルマザー。現在は、乳腺専門クリニック マンマリアツキジで診療を行っている。乳がん・乳腺の知識を分かりやすく発信すること、乳がんの患者さんに役立つ楽しい情報を発信することをライフワークにしている。ファッション、美容、料理、娘との旅行が大好き。Instagram▶︎@michiko_612
撮影/深山のりゆき 取材・文/安藤 梢