タカラヅカ人生12年で、いちばん印象深い出来事はなんでしたか?
吉田:退団公演(『元禄バロックロック/The Fascination!』)ですかね。退団を発表したあとの稽古期間は「これをやるのはもう最後なんだ」と涙が込み上げてきたりするのかなと思っていたのに、びっくりするくらいいつもどおりな感じで。本番初日に向けてすごいスピードで進んでいくんですけど、こんなに自覚のない人っているのかなと思うくらい超普通の気持ちでした。意外にもこのままスーッと千秋楽までいくのかなと思ったのですが、舞台に立つとまったく違ったんですよね。お客さまの表情、共演者やスタッフさんの顔。12年間でいろいろなことを見てきたはずなのに、こんなにも見えていなかった世界があったのかというくらいすべてのことがくっきりと見えて、毎日の一瞬一瞬がすごく思い出に残っています。
あとは、明日海りお(あすみ・りお、元花組トップスター)さんが退団されたときに花組全員で行った組旅行。そのときに幹事をしまして、公演中も寝る時間を削って楽しんでもらえるような企画を考えたことですね。幹事のメンバー全員で頑張って、結果、みんなに好評な思い出になったのではないかな。「あのときのあれが楽しかったよね」と言ってくださるかたが多いので、もしまた退団メンバーで旅行に行くような機会があればもう、仕事を休んででも幹事をやるって決めています(笑)
吉田さんのニックネームは「おにー」でしたが、どんな由来があるのですか?
吉田:同期の中で年齢が上だったから、同期が「おにー」って呼び始めたんです。たぶん、花乃まりあ(かの・まりあ、元花組トップ娘役)がきっかけだったと思います。仲のいい1期下の永久輝せあ(とわき・せあ、花組男役)や、綺城ひか理(あやき・ひかり、花組男役)あたりが「おにーさん」と呼ぶようになって、学年の離れた子たちにも広がり…。
「しおりさんて呼んでね」と言っているのに、結局みんな大声で「おにー」と呼ぶから今は諦めています。そのあだ名もあってか、みんなのお兄さんであり、おとうさんであり、おじさんです。こんなに髪はのびたけど(笑)
退団されてから、花組公演はご覧になっていますか?
吉田:全部観ています。タカラジェンヌから、今はただのタカラヅカが大好きなただのオタクに戻り、いつも楽しみにしています。次はどの公演を観に行くとか、今誰が頑張っているとか、追いかけていますよ。CS(タカラヅカ・スカイ・ステージ)も毎日チェック。初日映像やインタビューも欠かさずに見ていて、花組はもちろん、他の組でもお世話になった方はたくさんいるので。タカラヅカを観に行くことが、今生きることの原動力ですね。
写真をもっと見る他の組でお世話になった方…。芹香斗亜(せりか・とあ、宙組トップスター)さんへの愛を叫んでみませんか?
吉田:叫べといわれたら、日本中に届くくらいの大きな声で叫びたいです(笑)。芹香さんが宙組のトップスターに就任されることが決まったときは、仕事場の休憩所で大号泣しました。お店に来てくださるお客さまにも「おめでとう」と言われまして(笑)。いやいや私ではなく…という感じですが、でも本当にうれしかったです。在団時のインタビューでも話しているのですが、芹香さんはいつも叱ってくださった方。そのときそのときに必要なことを言ってくださる方でした。組が離れてからは稽古場で見ていただいているわけではないのに、舞台を観てわかるんでしょうね。迷っているときに的確な答えをパッと言ってくださいました。
新人公演で、芹香さんのお役を6回もやっているんです。だから私のダメなことも悩むことも全部わかっていらっしゃる。花組から宙組に行かれるときは、この世の終わりくらい泣いて、泣きすぎて気持ち悪いと言われたくらい(笑)。今はただのファンに戻れた感覚が幸せです。いちばん大きな羽根を背負われて大階段を降りてこられる姿を見ることが、今の人生の目標。それだけを夢見て、今生きています。
とても人見知りとは思えないほど、ユーモアを交えながら楽しく話してくださった吉田さん。凛々しい男役から、モードでおしゃれな女性に変身しているのも素敵でした。次回は今のお仕事であるファッションのことなどを深くうかがいます。お楽しみに!
撮影/大靏 円 構成・文/淡路裕子
吉田詩織
よしだ・しおり/6月7日生まれ、東京都出身。2010年に96期生として宝塚歌劇団に入団。月組大劇場公演『THE SCARLET PIMPERNEL』で初舞台を踏んだのち、花組に配属。2016年大劇場公演『ME AND MY GIRL』で新人公演初主演(Wキャスト)。2022年『元禄バロックロック/The Fascination!』にて宝塚歌劇団を退団。現在はセレクトショップのLOVELESS AOYAMAに勤務している。
▶︎X(旧Twitter):@moto KY
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