story4 育児に疲れたら仕事が癒しになる
Profile
ユリさん(38歳・仮名)既婚・子どもひとり
職業/人材紹介会社のエグゼクティブヘッドハンティング
趣味/地ビールめぐり
住まい/東京都北区(2LDK、家賃19万円)
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家庭的な彼に胃袋をつかまれる
「つきあい始めてさらにわかったのは、彼はすごく家庭的だということでした。私は仕事が好きだから、時間を忘れてどんどん仕事にのめり込んでしまいます。それに対して彼は、『ユリ、そんなに働かなくてもいいんじゃない』『睡眠時間も栄養もちゃんと取らないと続かないよ』とマイペース。私が残業で遅いときは、料理をつくって待っていてくれることもありました。寒い夜に、炊きたてのごはんとお味噌汁、焼き魚に湯豆腐。そしてスパイスの効いたホットワイン。お、おいしい…。ずっとコンビニ弁当だった私が、彼に胃袋をつかまれた、という感じです(笑)」
ただし、ユリの言う「家庭的」は、相手に頼って生きることを指すのではない。将来の家庭プランをきちんと立てることができて、そのためのお互いの役割を実践できること。その点は、翔太も一致していた。
「翔太のほうから、家庭を『経営する』ことを考えて、話し合っておきたい20項目をつくってきました。たとえば、将来のお金はどちらが管理するか。いくら貯めていき、いつ家を買うか。子どもはどうするか。そのためにどうお金を使っていくか…。中・長期の計画を話し合いながら、私が数字をエクセルに入力していく。そんな作業を続けながら、いつしかふたりでひとつの結婚のイメージをつくりあげていました。ということは、親にもお互いを紹介しないと…ということになり、そこから結婚に向けて話が急速に進みました」
この日のミーティングは、翔太からの遠回しなプロポーズだったのと同時に、ユリのかつての婚約が破談になった理由に気づくことにもなった。将来プランもなく「好き」だけの結婚は失敗する。人生の共同経営者として、しっかりと話し合っておくことが本当に大切なのだ。
夫を支える覚悟はできてます
ユリと翔太が家庭の経営計画を話し合ったとき、ふたりとも子どもが早く欲しいという点は一致していた。このときユリは36歳。ならば少しでも早いほうがいいだろうということも、結婚のスピードを加速させた。収入が多いユリのほうが多く家賃を負担することで合意して一緒に住み始め、家事は翔太が多めにやる。ユリが産休・育休を取ることになったら、バランスを変更して翔太が頑張って家計を支える側になる。一方で、翔太が会社を辞めてボランティア活動や起業でお金がかかるときには、ユリが家計を支える。そう決めていた。
そうしたいくつかの仮定のうち、いちばん最初にやってきたのは、ユリの妊娠だった。ふたりでつくった家庭の経営計画がひとつずつ現実のものになっていくことが、うれしかった。あとは、準備していたとおりに、それぞれの役目を果たしながら、計画を遂行していく。それは案外おだやかで、そして幸せなことだった。
「私は産後4か月で仕事に復帰しました。これまでと同様にがむしゃらに働くし、仕事量をセーブすることもありません。翔太のほうは、大手企業からベンチャー企業に転職し、将来の起業に向けて準備を始めました。友人からは転職を反対されたそうですが、私だけはいつでも味方だし、応援してるよと伝えています。もし起業で彼にお金がなくなったら、私は働いて夫を支えるでしょう。その覚悟は、できています。人生、いいときがあれば、悪いときもありますから。そう思えるのは、とことん将来についてふたりで話し合ったからだと思います」
100歳まで生きる時代の自分マネージメント
今日もユリはクライアントとのミーティングのために、早朝から会社に向かう。その後、翔太が娘を保育園に送り、リモートワークで自宅から仕事をする。夕方のお迎えも、基本的には翔太の担当だが、ユリが早く帰って在宅リモートワークに切り替えている日は、交代することもある。
「100歳まで生きる私たちの世代は、将来のお金のことを考えると、70歳くらいまで働かなくては、やっていけません。そのためにも、今自分の仕事の基盤をつくっておきたいと思います。頑張って仕事をしていると、『育児との両立、大変でしょう』とよく言われます。でも、MBA取得のための勉強をしていたときは、2~3時間睡眠の連続でしたから、このくらい、たいしたことありません。
ただ、想像できないことは毎日のように起こります。これまでは自分だけでタイムマネジメントをやっていたけれど、それはすべて子どもに崩される。育児を頑張ったからといって成果が出るわけでもない。だからといって、育児が大変だなんてグチを言おうものなら、ビジネススクールの仲間から『いつまでも過去の既存事業のことばかり言っていても仕方ないでしょ? ユリは新規事業(育児)の責任者でもあるのよ。どうしたらふたつの事業を回していくことができるのか、考えてみないと!』と叱咤されます。同情したり、感情的になぐさめる友達ではなくて、今の状況をどうチャンスに変えるか考えられるのが、MBAの仲間たちなのです。
仕事のほうは、限られた時間の中で実績を出さないといけないので、常にプレッシャーはありますが、それも含めて楽しいと改めて実感しています。やっただけ成果は出るし、頑張れば評価してもらえるし。育児に疲れているときは、仕事が癒しになる、なんて言ったら、おかしいかしら。自分だけの世界をもっておくことは、自分の助けになる。本当にそうなんです」
かつて、恋愛にも仕事にもゆきづまっていたユリに、先輩はこうアドバイスしてくれた。
「ユリちゃん、もっと自由に考えてみてもいいんじゃない。あなたの人生なんだから」
ユリがインタビュー用につくってきた自分年表の最後(現在)、満足度の欄は「100%」と書いてあった。そう、これが自分の人生。ドタバタしたこともあったけど、けっこう気に入っているというわけだ。(4回連載終わり)
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。『Domani』2/3月号ではワーママ10人にインタビュー。十人十色の生き方、ぜひ読んでください! ほかに、 Cancam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。