奥深いかき氷の世界。その魅力は「中」にありました
のどが冷たいものを欲しがる季節になりました。最近はフラペチーノ系やタピオカドリンク人気に押されて、みなさんお忘れではありませんか? かき氷という日本ならではの素晴らしいスイーツを。
あれ? なんだかツルっとしてる
どんな流行りものにも心奪われることなく、一途にかき氷を愛する人々が集まる「聖地」が、熊谷にあります。店の名前は「慈げん」。夏ばかりでなく1年中かき氷好きを提供しているこの店は、常に15種40通りのメニューをそろえていますが、そのラインナップは毎日変わります。
写真の<抹茶>は、1年通して食べられる定番のひとつ。インスタ界隈で見かけるいわゆる抹茶のかき氷は、抹茶をかけたかき氷の上に、あんこやアイス、白玉がのったものが多いですが、慈げんのは、ずいぶんツルンとしていて、デコられていない…。
その理由は、氷がおいしいのでデコらなくても十分においしさを楽しめるということ。それから、かかっているシロップがとにかく味わい深い。静岡産の抹茶(年間とおして味のブレが少ない)に、徳島産の和三盆を合わせたもので、濃厚だけどやさしい味わいです。別添えの和三盆みつで、甘さを足すこともできます。
そしてもうひとつの大きな理由。店主の宇田川さんの「どんなに映えても、食べにくかったらダメ」というこだわり。かき氷より固いアイスやこしあん、果物を上に乗せたら、柔らかい氷はだんだん崩れてきてしまいます。豪華なトッピング類を食べているうち、下の氷が溶けて、残念なビジュアルになることも、よくある。
こうしたことを避けるために、かき氷の表面だけでなく、中に2層3層と抹茶みつをはさみこむ。<抹茶あずき>というメニューもありますが、あずきはかき氷のトップではなく、中にあずきが入っています。それも、やっぱり「食べやすさ」のため。
本当に「映える」のは「内側」にあった!
もう一品、定番メニューの中から人気の<あんプレッソ>をご紹介します。
ふわっと盛られた氷の上には、エスプレッソマシンでいれた濃厚エスプレッソ。それをスプーンで掘り下げていくと、中にはふっくらツヤツヤのあずきが。メニューにこそ<あん>とついてますが、粒あんよりもさらに粒が“まんま”の<あずき>。かたまりになってしまう<あんこ>より、一粒ずつほぐれて氷と混ざる<あずき>こそが、かき氷にはベストな選択なのだとわかります。もちろん甘さは控えめ。そしてさらに食べ進めると、底には上品な和三盆みつが敷かれていて、最後の最後までおいしい。最後まで美しい。
食べる前に写真を撮った人も、中身ぎっしりのこのビジュアルに、再度シャッターを切らずにはいられない、というわけです。外見だけが「映え」の対象ではないことは、慈げんの多くのファンが口にしていること。毎週この店を訪れているペンギンさん(仮名)は、「食べ始めてからもう一度、かき氷の内側の写真を撮るのが好き」というひとり。またこれを「心に映えるかき氷」と表現しているファンもいました。
<いちご>のかき氷も、シャッターを切らずにはいられない美しさですが、さらに中の構成はこんなかんじ。上のいちごを食べたらお楽しみが終わり、じゃなくて、真ん中にも、最後にも、いちごのお楽しみが待っているのです。
ただし、いちごのかき氷は冬から春までの限定メニュー。夏には夏のメニューがあるので、それはまた次回以降にご紹介します。
「映え」は確かに心躍るし、いいねも多くもらえる。でも、そこばかりに気を取られていたら、表面的な薄っぺらい大人というか、もっと大事なことに気づけない人に、なってしまいや、しないか。ボーッと生きてんじゃないと、だれかに怒られたりはしないか。じわじわと、多くの人が抱き始めているこの不安。慈げんのかき氷は、それを払拭してくれます。
※営業時間や整理券情報は ツイッター「慈げんの業務連絡」@JigenKumagaya で必ずご確認ください。電話での問い合わせは受け付けていません。
著/宇田川和孝
取材・文/南 ゆかり
かき氷に24時間をささげる店主と、そこに集まる熱狂的ファン120人の声からできた本、6月28日に発売! 見たことも聞いたこともないメニューの数々、それを生み出す店主の発想、かき氷をめぐる家族やファンのドラマ…。かき氷好きはもちろん、そうじゃない人も、必読! そしてこの夏は大人のかき氷で癒されよう!