【目次】
日本に帰国すると彼の酒癖が悪化…
普段の夫婦仲はいいのに、お酒を飲むと悪酔いして口論になるアメリカ人の夫のAさんと、共依存のような関係になってしまった望さん。日本に帰国したものの、お金がないので望さんの実家で暮らすことに。
結婚とは経済的自立だと考えていたのに親の世話になってしまっている自分が許せない望さんと、クレジットカードの仕組みさえわかっていないくらいお金に無頓着なAさんの間には、さらに摩擦が増えて行きました。
前回の話はこちらから→結婚願望がない私が2度も結婚!「壮絶な初婚」になった理由〜望さんの場合vol.2【バツイチわらしべ長者】
望さん:自立できていない自分が歯痒いけれど、生活していくためには親を頼らずを得ない。それを良しとしている彼にも腹が立ってしまって。
そんなある日、夫を虐待していて絶縁状態だった、夫の母親から連絡が来たのです。「知り合いの息子さんが日本にいて会いに行くんだけど、そのときに会えないか」と。
望さん:「どうしよう」と悩む彼に、「会ってみればいいじゃない。会ってみて、やっぱり嫌だと思えば、もう会わなければいい。私がいるんだから、もしお母さんとまた絶縁したとしてもひとりぼっちにならないから大丈夫」と背中を押してあげました。お母さんに会いに行ったあと、彼はめちゃくちゃうれしそうに「一緒に観覧車に乗ったんだ」って話してくれたんです。
その後、望さんも彼のお母さんに会うことになり、「私は息子に対して何をすればいいのかしら」と言う彼女に、「あなたがしてきたことに対して謝ってあげてください」とアドバイス。幼い頃、夫のAさんは暴力こそ受けないものの、裸で外に追い出されたり、目の前で大切にしているものをこわされたりという虐待を受けて来たそう。
望さん:「夫が母親のことを『あいつなんてどうなっててもいい』と言う度に、私にはそれが『ママ、ママ!』と叫ぶ心の声のように聞こえていたんです。次に彼がお母さんに会った後、「お母さんが謝ってくれた」って報告してくれました。
そこから親子の仲が復活。望さんとコンビニに行ったときに「このグミ、お母さんがこの前僕に買ってくれたやつだから買う」と、今まで見たこともない笑顔で言うAさんはまるで子どものようだったといいます。
望さん:あの笑顔は今も忘れられません。「これで上手く行く」って、そのときは思いました。
夫婦喧嘩が増えて行った理由
けれど子どもの時に受けた心の傷というのは、そう簡単には治らないもの。元々自己肯定感が低く、子どももなかなかできなくて仕事も上手く行かない。さらには自国ではない日本に住んでいるというストレスもある。
そんな状況の中で、Aさんが悪酔いする周期はどんどん短くなり、その度に望さんに「お前のせいで僕の人生はおかしくなったんだ!」と罵声を浴びせるようになりました。
望さん:その頃私は不妊治療に通いだしたんですけど、彼はナチュラリスト。子どもは欲しいけれど科学的な治療には否定的で。だから「もし子どもができなかったら養子を迎えよう」と約束してました。
検査の結果、望さんには問題がなく、Aさんは人よりも精子が少ないために子どもができにくい体質だということが判明。病院で抗生物質を処方されたのですが飲みたがらない彼に、望さんは「これはあなたのチョイス。飲まなくても自然妊娠の可能性がゼロじゃないって病院で言われたんだから、あなたが決めていいよ」と伝えました。
結局Aさんはその薬を飲むようになったのですが、これがきっかけでAさんは、自分の気分の落ち込みはその薬の副作用だと思い込むように。
望さん:薬のせいで脳にダメージを受けたと思い込んだみたいで、よく塞ぎ込むようになりました。それで、「これはお前が薬を飲ませたせいだ!」って…。アメリカのスラングで罵倒されたのですが、その最中に彼がはっとして、「これは望に言ってるんじゃなくて、僕の母親に言ってるんだ。あの女が僕の人生をめちゃくちゃにした」と我に返ったことがあったんです。
―機能不全の家庭で育ち心の傷を受けた人のことを「アダルトチルドレン」と言いますが、Aさんの傷は相当に深かったようで、お話を伺っているだけで私も辛くなりました。
アダルトチルドレンは大人になっても子どもの頃に与えられなかった愛情を必死に求めるため、それが自分の家庭や夫婦関係、親しい人とのコミュニケーションにも影響を及ぼしてしまうことがあります。幼い時に甘えられなかった分、身近の心許してくれる人に甘えたがる傾向があるため、それを受け止めてくれるような愛情深い相手とはどうしても共依存になりやすいという側面があるのです。親のように無条件な愛情をパートナーに求めても、恋人や配偶者の愛には限界がある。だけど底なしの愛を求めてしまうんですね。
好きだけど一緒にたらダメになる
こうやって書くと、ドロドロな夫婦関係のように見えますが、Aさんと望さんはとっても愛し合っていたそう。大好きだけど、酔うとケンカになる。それが毎回エスカレートしていく。
そんな状態が辛すぎて、望さんは「どうにか彼が私を嫌いになってくれないかな。不倫でもして、決定的なできごとが起きれば別れられるのに」と思っていたのです。
望さん:だけど一途な人だから、そんなこと起きるわけもなくて。一緒にいるのがどんどん辛くなって来て、たぶん、彼も逃げたいと思ってたんじゃないかな。シラフのときは全部アルコールのせいだってわかっているのに、飲むのが止められない。「アルコールは僕にとっての松葉杖だ」って言ってましたね。お酒を飲むことでようやく自分は立てている状態なんだ、って。
あまりに酷い状況に、ようやくアルコールの問題と向き合い始め、アルコール依存を治療するための「AAA(アルコホーリクス・アノニマス)※アルコール依存を相互に解決するためのグループ」に参加しはじめたAさん。数ヶ月はお酒を止めることに成功していたのですが、ある日「一本だけ」と飲み始めたらそのまま止まらなくなって自己嫌悪に陥り、望さんとまた怒鳴り合いのケンカの日々に逆戻り。辛い…(涙)。アルコール依存って、断ち切るのが本当に難しいって言いますものね。
望さん:私たちのケンカが激しすぎて、私の母親が金属バットを持って2階に上がって来たこともありました。がんばって止めようとするけど、やっぱり止められなくて、キッチンでこっそり料理酒を飲んでいたことも。
素人が自分で断酒しようとするのは危険なこともあるらしく、お酒を我慢していたAさんが脂汗を流して苦しみ、精神救急に駆け込んだことも2度ありました。
聞いているだけで辛いんだから、望さんはどんなにか苦しかったでしょう。
そのうち望さんも、「日本に帰って来たのがよくなったんじゃないか」と自分を責めるようになりました。
望さん:私は私で弟の事故死を引きずっていたし、精神的に余裕がなかった。毎日怒鳴りあいのケンカをして、朝になると「愛してるよ」と仲直りする。そんな生活が4年間、毎日続いたある日、「このまま行ったら、頭がおかしくなる」って思ったんです。そうしたら、ある朝、彼が目覚めて何も言わずに出かける準備をしていて。そのまま出て行ったんですが、私はベッドの中から薄目でそれを見ていて、「この人、もう帰ってこないな」ってなぜかわかったんです。
望さんが「もうダメだ」と思ったのと、夫がそう思ったのが同じタイミングだった。けれど共依存はお酒と一緒で、そう簡単に断ち切れるものではありません。
共依存から抜け出すには
望さん:そのあとも夫は、何か困ったことがあると電話をかけて来ました。カウンセラーに相談したら、「電話に出るのをやめなさい」って。だから携帯に「電話を取らない」って付箋を貼って、出るのを我慢しました。
さかい:そこまでしないと、ダメなんですね…。
離婚するために「サインして送り返して」と離婚届を送りつけたけれど、Aさんは「別れたくない」と言う。
望さん:私は愛しているけど別れたい。彼は私のこと、「次の男と結婚したいから離婚したいんだろう」って疑うんです。「僕といても子どもができないから別れたいんだ」と思い込んでいて。不妊を、自分のせいだと思って苦しんでいたんですね。だから私は、「私に原因があれば良かった。そうしたら彼が苦しむことはなかったのに」って思いました。
望さんの言葉の端々から、Aさんのことをすごく愛していたんだということが伝わって来ます。正直、こんな風に元配偶者の方のことを話す方って、今までの取材で初めてかも。だけどそれにはもうひとつ、悲しい理由があったのです。
長くなったので、離婚してもうひとりの〝ソウルメイト〟である今の夫とアラフォーで出会って1年かかって落とすまでのお話は次回に続きます。
インタビュー・文
さかい もゆる
出版社勤務を経て独立。と思った矢先、離婚してアラフォーでバツイチに。女性誌を中心に、海外セレブ情報からファッションまで幅広いジャンルを手掛けるフリーランスエディター。Web Domaniで離婚予備軍の法律相談に答える「教えて! 離婚駆け込み寺」連載も担当。著書に「やせたければお尻を鍛えなさい」(講談社刊)。講談社mi-mollet「セレブ胸キュン通信」で連載中。withオンラインの恋愛コラム「教えて!バツイチ先生」ではアラサーの婚活女子たちからの共感を得ている。