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「目に見えない大きなもので温かく包み込んでくれる。タカラヅカとはそういう場所だったと、今、強く感じます」
独身の女性約400人で構成され、男性の役も女性が演じ、お芝居とショーによる華やかで夢のような世界を届けてくれる宝塚歌劇団。多くの人数がひとつとなり完成度の高い舞台を創るために、上下関係や規律が厳しいことで知られています。宝塚歌劇団に入団するには宝塚音楽学校で2年学ばねばならず、その音楽学校への入学も狭き門。宝塚市の隣の市、川西市出身にもかかわらず「宝塚歌劇団のことをまるで知らなかった」という綺咲愛里さんは、どんなタカラヅカ時代を過ごしたのでしょうか?
タカラヅカのことを何も知らずに飛び込んだ宝塚音楽学校
宝塚音楽学校を受験される前は、ほとんどタカラヅカには触れてこられなかったとか。高校と音楽学校が両立できると思われていたそうですね。
綺咲さん(以下敬称略):あはは、よくご存知で(笑)。出身高校が宝塚駅からちょっと山の方に行ったところにあって、音楽学校から見えるんですよね。(宝塚音楽学校の)合格発表の日にチラッと高校を見て、「通えるかな…?」と(笑)。タカラヅカの公演を観たのは、音楽学校を受験してからかもしれないです。前情報が一切なかったんですよ。例えば、5つの組があるとかトップさんがいるとか。その程度の知識だったから、音楽学校で何をするのかもわかっていませんでした。
合格発表の時から人生が180度変わりましたね。何もわからないから、もう、全吸収型(笑)。覚えることが本当に多かったですし、同期とはスタートラインからして並んでいなかったので焦りはありました。みんなはタカラヅカのことを知っていて「あの舞台に立つ」という気持ちで過ごしていたと思うのですが、私にはそんな余裕がなくて。入学したばかりの頃は「(音楽学校を)卒業して、(宝塚歌劇団に)入団しないってありかな?」と思っていたくらい。本当に無知だったなと思います。
約10年を過ごした宝塚歌劇団、星組。学んだことすべてが財産に
トップ娘役に就任されて、楽しかったこと、大変だったことはそれぞれありますか?
綺咲:さゆみ(紅ゆずる)さんとコンビを組ませていただくとなった時、責任感だったり、とにかくいろんな感情がありました。けれども、(相手役の)さゆみさんがとにかく明るく朗らかな方で、星組全員で頑張っていこうとおっしゃってくださったので、私も気負いすぎず、いい意味でみんなと同じラインに立っていいものを創り上げていこうという気持ちになりました。トップ娘役という立場ではあるものの、芸事に対してのやることは変わることはなくて、ただ出番や役の比重が多くなったということ。就任前より忙しくはなりましたが、とにかく目の前のやるべきことを全うしていくという、ある意味いつもどおりでいる姿勢が私に合っていたと思います。
大変だったことがないわけではないですが…、それより(タカラヅカから)離れて1年近く経とうとしている今は、うれしかったことや感動したことばかりを思い出します。苦労もあったからこそ楽しいことがあったんだなと。がむしゃらな日々ではありましたが、在籍していた期間を精一杯タカラヅカにかけられたことは私の人生の中で大きな財産になっていると思いますね。
紅さんと綺咲さんの反省会では「今日も天才だった!」という言葉で終わるというエピソードを聞いたことがあり、それはおふたりならではの関係性なんだろうなと思っていました。
綺咲:私はもともとネガティブで殻に閉じこもってしまうタイプなのですが、それをこじ開けてくださったのがさゆみさんなんです。公演が終わって「今日も天才だった」とおっしゃられるのは、自信を持って明日を前向きに見られているから。私は反省となると「あれがダメだった、あそこはこうした方がよかった」ということだけになってしまうのですが、それプラス、肯定的な見方をすることで次につなげるというポジティブな精神をさゆみさんから教えていただきました。「死ぬこと以外は失敗じゃない」とおっしゃられて、本当にそうだなって。技術を高めていくのはもちろんですけれども、気持ちの上でも引っ張っていただいて、自分がどんどん変わっていきました。
退団される千秋楽の前日(2019年10月12日)は台風19号の影響で2公演が中止になりましたけれども、あのときは何を思われていましたか?
綺咲:私たちが「明日の公演は中止になる」ということを知ったのは、千秋楽の前々日のソワレの開演前でした。開演の30分くらい前かな。残り4回あったはずの公演が2回に減ってしまい、今からやる公演がそのうちの1回ですとなり、悔しさや残念さで泣いてしまった下級生もいました。安全をとった劇団の判断ではあるのですが、そんな精神状態での前楽(千秋楽のひとつ前の公演)。やることはいつもと同じなのですが、思いは全然違いましたね。お客さまが知ったのは幕間で、舞台袖にいる私たちの耳にも悲鳴が聞こえてきました。「えっ!?」という声と、いつもとは異なるザワザワ。2幕が開いた時の客席の重々しさと緊張感がものすごく、私たちもより丁寧にお届けしようという気持ちだったんです。なによりさゆみさんが、「楽しもう、大丈夫!」とみんなの気持ちを引き上げてくださって。感慨深かったですね。
10年を過ごされてきた宝塚歌劇団への愛はどう感じられていますか?
綺咲:退団後によく聞かれる「タカラヅカとは?」という質問に、「愛があふれた場所」といつもお答えしてしまうんです。それを大きく感じたことのひとつが千秋楽だったりするのですが。愛っていろいろな形がありますよね。タカラヅカの愛は、永遠に消えることのない、言葉にすると浅はかになってしまうのですが、ものすごく大きなもので包まれたような愛だったと思います。目に見えない大きなもの…。それは在団中から感じていたはずなのに、退団してからの方がなんて愛にあふれた場所だったんだろうとより強く感じるんです。そこに在籍できたことは本当に誇らしく思いますし、学んだことは財産です。
星組ではまだ3人の同期の方が活躍されていますね。
綺咲:離れてみて、その偉大さをタカラヅカの舞台に感じています。同期もそのほかのメンバーも、もう、生きているだけでありがとう、存在にありがとうと思いますね。(星組の)作品を観て、感動して伝えたいことがいっぱいあるのに、すべてをひっくるめて「ありがとう」という気持ちでした。ちょうど私が退団するタイミングで同期のひとりの組替えも決まっていて、このメンバーで同じ舞台に立つことはもう一生ないんだと思い、今を大切に生きようという気持ちで退団公演を過ごしていました。そんな仲間に囲まれて幸せだったと思います。
もしタカラジェンヌになっていなかったら、どんな道を進まれていたと思いますか?
綺咲:夢がCAさんだったんです。女の子なら夢見る人も多いと思うんですけど。ドラマがきっかけだったのかな? そんなに喋れないのですが英語もわりと好きで、憧れていましたね。夢が叶ったのが、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』という公演。CAさんの制服のお衣装を着せていただいてとってもうれしかったです!
厳しいと言われるタカラヅカの世界に何も知らないまま入りトップ娘役に上り詰めることは、相当ひたむきに努力された結果なのだと思います。でもそれを決して口に出すことなく、タカラヅカへの愛や感謝を語る綺咲さんはものすごく芯の強い方。そんな心ばえも魅力のひとつなのではないでしょうか。
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宝塚歌劇団入団時からその美しさは多くの注目を集め、「あーちゃん」の愛称で人気を博す。新人公演の主演等、大役に就くなど期待の若手として経験を重ね、2016年11月、紅ゆずる(現:松竹エンタテインメント所属)のトップスター就任と同時にトップ娘役となる。本書では、そんな彼女の在団中には伝えられなかったいくつもの表情を完全撮り下ろしで掲載し、多くのファンにあの美しさを再び、そして初めての綺咲愛里を届ける内容に。また、著者と宝塚歌劇団時代の同期となる花乃まりあ(元花組トップ娘役)、咲妃みゆ(元雪組トップ娘役)を迎えての豪華プレミアム対談も実現。そして、購入者限定で閲覧できる豪華特典映像として、メイキングや著者インタビューなども収録。さらにさらに、映像の最後にはあの〇〇さんがサプライズで登場!
撮影/大靏 円(昭和基地) 文/淡路裕子
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女優
綺咲愛里
きさきあいり/10月30日生まれ、兵庫県出身。2010年に96期生として宝塚歌劇団に入団し、月組大劇場公演『THE SCARLET PIMPERNEL』で初舞台を踏んだ後、娘役として星組に配属。2014年星組大劇場公演『The Lost Glory-美しき幻影-』の新人公演で初のヒロインに。2016年に星組トップ娘役に就任。翌年、自身の初舞台作品の再演となる星組『THE SCARLET PIMPERNEL』で、紅ゆずるとともに大劇場でのトップコンビお披露目公演を果たす。2019年星組大劇場公演『GOD OF STARS/Éclair Brillant(エクレール ブリアン)』にて宝塚歌劇団を退団。退団のちょうど1年後の2020年10月13日に初の写真集『Airi Kisaki 1013』を発売。来年1月より上演が決定しているミュージカル『ポーの一族』にてメリーベル役として出演予定。
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