美しい酸と甘み、ミネラルが好バランス
それは例えるなら、凛とした存在感を放つ、澄んだ瞳の美しい女性、といったところでしょうか。
カール・ローウェンの「リースリング アルテ・レーベン」を飲んだときに抱く印象です。柑橘系果物や桃、フローラルな香り。口に含むと、熟した果実由来のほのかな甘みとエレガントな酸、ミネラルが交じりあって、とても好バランス。なによりピン、と張り詰めた緊張感と味わいの構成力が、ワインづくりの北限に近いドイツならではの品格溢れるリースリングの魅力を、高らかに謳い上げています。
▲ 現代ドイツのリースリングの魅力を感じられるカール・ローウェン
ドイツワインの歴史は古く、イタリアやフランスなどと並ぶワインの伝統的生産国です。でも、むしろそれゆえなのか、ドイツワインは「クラシック」という一種のレッテルをこれまで貼られてきたところがありました。でも、現代の息吹をまとったモダンリースリングは、飲めば必ずや多くの人が心奪われるほどハイレベル。事実、北欧やニューヨークでは、ドイツワインはいま最旬トレンドとして、多くの人に飲まれているのです。
銘醸地モーゼルで躍進する生産者
なかでもカール・ローウェンのあるモーゼル地方はワインの銘醸地であり、ドイツ屈指のリースリングが育まれる地。カール・ローウェンは2011年、ドイツの新聞社FAZにより新進ワインメーカーに選ばれました。でものちに、「これはほんの始まりに過ぎなかった」と同紙は書きます。なぜなら2017年には、その年の最もすばらしいワイナリーに贈られる「ワイン・メーカー・オブ・ザ・イヤー」に見事、輝いたからです。
その躍進を支えたのが、2015年に家業を継いだ新世代のクリストファー・ローウェン。「この家に生まれたので、幼い頃からワインをつくるのが夢でした。もの心ついたときには父の手伝いをして、夏のあいだにぐんぐん伸びるぶどうの木の力強い生命力、自然の命を身近に感じて育ちました。この仕事を受け継ぐことに、なんの疑問もありませんでした」と、生き生きと語ります。
▲ 新世代のクリストファー(右)とその父・カールヨゼフ(左)
ドイツのガイゼンハイム大学でぶどう栽培とワイン醸造の学位を取得したあとはアメリカやニュージーランドなどで修業を積み、そして故郷へと帰ってきました。「他国で働いたことによって、モーゼルという地のすばらしさを逆に再認識できた」と、そうも話します。
樹齢70年のぶどうも使うハイコスパな味わい
モーゼル川やその支流沿いに広がる畑は急斜面で、太陽光を効果的に取り入れることができます。そのため冷涼な地でありながら、ぶどうは糖度と酸のバランスにすぐれたものに仕上がります。屋根の瓦や書道の硯などに使われるのと同じスレート粘板岩で構成された土壌は、上品なアロマをぶどうに付加してくれます。
とはいえ、自然に寄り添ったオーガニックのぶどう栽培は、決して簡単なものではありません。ときに斜度30%を超えるモーゼルの急斜面での仕事は、つねに困難が伴います。この地域は雨も多いためぶどうが病害にあいやすく、雑草も勢いよく生い茂ります。
▲ 急斜面のモーゼルの畑は、慣れない人には立つだけで精一杯
そのすべてを知り尽くしたうえで、クリストファーはこう語ります。「日々、畑のぶどうの木すべてに向きあうことが、ぶどうのポテンシャルを100%引き出す唯一の方法だと信じています」。
そしてもうひとつ、このワイナリーならではの特筆すべき点は、ぶどうの古木が多いことでしょう。ワインの銘柄名にも使われる「アルテ・レーベン」とは、まさに「古樹」を意味する言葉。もっとも高い樹齢のぶどうは70年。古木のぶどうは実をつける量が少なく、粒も小さく、それゆえ凝縮感のある味わいになります。
▲ 樹齢の高いぶどうの木の幹は太く、凝縮した実をつける
冷涼なモーゼルの地では醸造の際、人工的に温度管理をしたり、添加物を入れる必要もありません。自然酵母により、ナチュラルに発酵してでき上がったワイン。それが「リースリング アルテ・レーベン」なのです。この味わいが3000円前後で購入できるというのはコスパ抜群としか、もういいようがありません。ぜひぜひ、お試しを。
Carl Loewen カール・ローウェン「リースリング・アルテ・レーベン2019」¥3,080 (税込・参考小売価格)
問 フィラディス 045・222・8871
輸入元直販サイトから購入可能
ライター
鳥海 美奈子
共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。