奈良に行ったら訪れるべき名店和菓子店
奈良にある和菓子屋・樫舎さんは、私が以前から奈良に行ったら訪れたいと願っていたお店のひとつ。その憧れの樫舎さんの玄関口に到着。うーん…はじめて訪れるお店って、どうしてこんなにドキドキするんでしょう。しかも外観の雰囲気から、店主はきっと昔ながらの頑固おやじに違いない!という勝手な妄想も膨らませながら、いざ中へ。
▲このカウンター空間を贅沢に独り占め!
扉を開けて中へ入ると、スタッフの方が優しく出迎えてくださり、カウンター席のある1階の奥に通していただきました。ここで今回お世話になるご主人の喜多さんと初対面。ご挨拶をしながら、1対1の空間に緊張はMAX…私のあたふたしている状態を察した喜多さんが、早速1つめのお菓子を出してくださいました。
1品目、落雁とお番茶
コロンと愛らしい鹿の形をかたどった落雁。冷茶は奈良の水出しお番茶です。訪れた日はとても暑く、汗と緊張で体温が高くなっていた私はクールダウンすべく、まずはお番茶をいただきました。のど越しのよいすっきりとしたお番茶のおかげで気分も落ち着き、落雁をパクリ。落雁特有のホロリと溶ける触感を味わっていると、ご主人の喜多さんが、「私、和菓子好きじゃないんですよ。砂糖しか使ってないでしょ?だから和菓子職人はどうする事もできない。」
…えっ?今なんて?
まさか作ってるご主人から好きじゃないなんて言葉がでてくるとは思わず、ここ和菓子屋さんですよね?と笑っているうちに、私の緊張も落雁のように跡形もなく溶けていました。
2品目、きんとんとお抹茶
本日作って頂いたきんとんは、6月の季節にぴったりな紫陽花きんとんです。
材料は、備中の白小豆と青森のつくね芋。綺麗な3色の層になったきんとんを馬毛の荒目網の上にのせ、木のしゃもじを使って漉していきます。使ってる食材や道具についても、ひとつひとつ解説してくれるので待っている間も楽しい時間を過ごせます。
このつくね芋は、1つの芋から1つしかとれない貴重な芋だそう。そして材料の仕入れには、喜多さんが自ら全国各地を車を使ってまわってるとのことで、素材へのこだわりはひとしお!材料の調達はてっきり配送されているのかと思っていました。
「和菓子職人は、食感を表現するだけなんです。厳選した素材にこだわり、最高の素材を畑で育ててもらっているので、味は畑に依存。美味しいのは、畑を作っている農家さんのおかげなんですよ」
この言葉は、決して謙遜からではなく、喜多さんの和菓子職人としてのマインドセットを感じられました。
そんなことを頭の中で、考えているのもつかの間。見る見るうちに、紫陽花が完成していきます。この出来上がるまでの工程が見られるのもカウンターならではの楽しさ!
▲遠赤外線で炊き上げた備中白小豆の餡に、漉した練りきりを重ね成形していきます。
▲まるでダイヤモンドのような輝き…♡
形が出来ただけでも美しく釘付けになっていると、なんとさらにひと手間。小さくカットされた寒天を飾るのですが、これがまるで紫陽花の上に滴る雨のよう。キラキラと輝き、食べるのがもったいないと思ってしまうほどの美しさ…。
3品目、わらび餅と珈琲
こちらの使用する材料は、鹿児島の本わらび粉と丹波大納言、砂糖。今回食べた中で一番衝撃を受けたのが実はこのわらび餅。私が今まで食べてきたわらび餅って、いったい何だったのか?と思うほど、食感が違いました…。今までは、ぷるっと弾力のある冷えたわらび餅に蜜ときな粉をかけて食べるのが当たり前だと思っていたのですが、本わらび粉で作られたわらび餅は口の中で溶けてしまいそうなほどの柔らかさ!中の餡が食感のアクセントになって、よりわらび餅の柔らかを際立たせます。先ほど喜多さんの言っていた「和菓子職人は、食感を表現するだけ」という言葉が蘇ってきます。
▲本わらび粉を鍋で溶かすところから始まります!
このきな粉の上に並べられるわらび餅を見ながら、今まで私が食べてきたわらび餅とは色まで違うんだ!と透明ではないことにも食べる前から衝撃的でした。
ここで赤餡(丹波大納言のこし餡)が登場。わらび餅で、赤餡を手際よく包んでいきます。
「材料は極力触らない。すべて手で作っているけど手をかけすぎると味を損なう、穢れていくという考えです。」淡々とこなされるので、素人目には簡単そうに見えてしまいますが、この手際の良さが、熟練した職人ならではの技。しかも喜多さんは、作業しながら会話もノンストップ!和菓子以外の知識も豊富に披露してくださるので、五感がフル稼働しっぱなしです。
てっきり、わらび餅は冷やして食べるのが美味しい!とばかり思っていたので、この概念を覆してくれた今回のわらび餅。選び抜かれた本物の素材を使って、できたてをその場ですぐにいただけるからこそ美味しさも格別。まさに、贅沢の極みでした。
そして、組み合わせの珈琲はケニヤ産。このわらび餅と珈琲の組み合わせは意外でしたが、珈琲を飲むと口の中がすっきりし、相性も◎。
4品目、ラストはもなかとほうじ茶
「メイン(ラスト)はもなかです。どうしてもなかをメインにしているかというとですね。一流の農家さんが作ったものを、ほとんど汚さずそのまま召し上がっていただけるからなんですよ。汚すというのは、素材に触れること。触れば触るほど汚れると考えています。直接触らないでお客様にお出しできるから、もなかをメインにしています」
メインと聞いて、撮影もより気合を入れようと構えていたら、餡を包んでいた喜多さんに「早く!熱いうちに食べてください、一番美味しいうちに食べてほしいから」と手渡されたもなか。手渡しと意表をつく出し方をされたことで、一刻も早く食べるのがこのもなかのマナーだと悟り、鯛の形を眺めることなどもなく、パクリ。サクッという音がカウンターに響きわたるほどの食感に、こぼれ落ちてしまった「んまいっ!」の言葉。温かいもなかってこんなにも美味しいんだ!私の幸せボルテージも最高潮。
二煎めのほうじ茶を飲みながら、最後に御菓子と飲み物の組み合わせに関する質問をしていたところ、喜多さんの熱い想いや志を教えていただくことができました。
「なぜ3品目に珈琲を出したのかというと、洋菓子店もまだなかった昔、家庭で箱を広げてわいわいと和菓子を食べる時に飲んでいたのは番茶やほうじ茶、玄米茶、ティーパックの紅茶などでした。器は雑器。それでよかったんです。でも、和菓子屋が『伝統を守り製法を守りながら、和菓子作りに邁進しています。』と言えば言うほど、自分たちで自分たちの間口を狭くし、敷居が高くなっていった。本当に美味しいものを作っているのは農家さんなのに、自分たちに置き換えてしまっている。それをそろそろ辞めないといけない。農家さんは志が高くても、社会的地位と収入が低いから、息子や娘に継いでくれと言いづらい。そうなってくると、和菓子屋で出すものはすべてメイドイン●●(海外)でできています。と言わざるを得ない日が来てしまうんです。後ろで支えてくれている日本の農家の人たち半分は60、70歳台で、半分くらいは後継者がいないんです。私は本当にちゃんと仕事をしている人たちは誰なのか、伝統を守っている人たちは誰なのかを伝えていきたいから、カウンターで1時間ほどかけてお菓子を出しているんです。」
私の今日の妄想は的外れ!ここには、頑固おやじなど居ませんでした。居るのは、和菓子の世界を変えていきたいと熱い志をもち、こんなふうに美味しいものが味わえるのは、素材を作ってくださる方々がいるということを気付かせてくれる素敵な職人さん。
一期一会のような喜多さんとの出会い。
皆さんも奈良に行った際は、お腹も心も満たされる樫舎さんのコースをぜひ味わってみてください。
取材協力
萬御菓子誂処 樫舎
住所:奈良県奈良市中院町22‐3
電話番号:0742‐22‐8899
営業時間:9時~18時
カウンター席はご予約のみ
コース:2,160円