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LIFESTYLE インタビュー

2023.09.27

【俳優・井浦新さんインタビュー】40代になって、仕事への感覚がより研ぎ澄まされてきました

映画『アンダーカレント』に出演した俳優・井浦 新さんにインタビュー。作品の見どころから、仕事論、40代としての生き方まで、ディープに語っていただきました。

Text:
湯口かおり

10月6日(金)に、映画『アンダーカレント』が公開されます。原作は、伝説のベストセラー漫画。夫が失踪した銭湯の女主人を中心に、どこか不器用な人々が、もがきながら生きていく姿を、静かに描く大人の良作となっています。

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本作で、銭湯で働きたいとやってくる謎の男・堀を演じたのが、井浦新さん。作品の魅力をはじめ、俳優としてのこれからの生き方についても、お話をうかがいました。

「少人数だから際立つ、俳優の芝居を観てほしい」

────まずは『アンダーカレント』の見どころを教えてください。

井浦さん(以下敬称略):物語はもちろんですが、俳優ひとりひとりの芝居にも注目してほしいですね。今回、キャストが10人にも満たないんです。その分芝居も際立っていますし、芝居で観客を惹きつけていくような、作品のあり方も見どころです。

────主演の真木よう子さんをはじめ、出演されているのは、演技に定評のある方々ばかりですね。

井浦:今泉力哉監督は、俳優に考えを押しつけない方で、撮影時も、俳優が役を積んできて生理的に出てくる芝居だったり、生まれてきた感情を受け止めてくれるんです。さらに撮り直す場合も、俳優を信じてくれているから、「もっと違う景色が、感情が生まれてくるかもしれないから、ちょっとトライしてみよう」くらいな感じで。

────でもそれが、作品にリアリティを生むかと。

井浦:この作品は漫画原作ですが、漫画の世界にいるようなキャラクターじゃなくて、本当に自分たちの隣りに住んでいるような人たちの物語だったりしますから。作品自体は静かですが、芝居ではメンタル面でぶつかり合ってる。目に見えないぶつかり合いの方が、刺激的だったりします。

────確かに、ただ座って話しているだけのシーンにも、ものすごく緊張感がありました。

井浦:目で見て伝わるような芝居を削ぎ落とし、体では表現できない、心の内側の感情表現を、しっかり芝居することのほうに、どちらかというと激しさを感じていて。フィジカルな芝居を削ぐ分、メンタルの部分はけっこう燃焼するんです。得意かどうかはわからないですが、僕はそういう芝居のあり方は、すごく好きです。セリフで伝えないぶん、余白や行間の部分で俳優同士、心を使っています。そういうところに、芝居の醍醐味みたいなものも感じています。だから、物語とはまた別の楽しみ方として、楽しんでもらえたら。

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「自分をさらけ出しながら、その恥ずかしさも忘れたくない」

────本作のテーマのひとつに「本当の自分をさらけ出す怖さ」があると思うのですが、井浦さんも思い当たることはありますか? 俳優という職業自体が、恥ずかしい部分やカッコ悪い部分をさらけ出すお仕事なのかな、という印象があります。

井浦:「カッコ悪い自分を見せなきゃ、見せないと」と、思って芝居をすると、うまくいかないような気がします。でもきっと、むき出しでさらけ出してる姿のほうが、観る人の心を打つ。不器用でカッコ悪く見えるのがいいと思います。でも同時に、むき出しでさらけ出すことの人間としての恥ずかしさも、感じていたいなと。禅問答みたいですけど。

────キャリアを積まれた今でもですか?

井浦:人前で芝居をすること自体が、まず普通じゃない環境の中での仕事ですし、それに慣れたら自分はきっと、人間じゃなくなってしまう気もします。常に恥ずかしさってものは感じながら、芝居していきたいと思っています。でもときとして、その恥ずかしさを忘れてしまうくらい夢中になって、役にのめり込んでいった結果、自分をさらけ出すことができたら。周囲からは滑稽に見えてしまうような一生懸命さとか、だらしなさっていうのが、にじみ出るような芝居をしたいですが、なかなかその手応えは感じられないから、続けているんだろうなとも思います。

「40代は、新しいチャレンジの入り口に立った気持ち」

────ところで本作は、井浦さんだけでなく、真木よう子さん、江口のり子さん、永山瑛太さんと、40代の俳優さんが中心に出演されています。同世代のDomaniの読者にとっては、こういったことにも励まされるというか。

井浦:そうですか? どうして?

────若いときとは体力も違いますし、ライフスタイルも、さまざまな面で大きく変化があって、悩みも増えてきます。井浦さんは40代である今、社会との触れ合いや仕事への向き合い方で、大事にしていることはありますか?

井浦:俳優みたいな、偏った職業の話は、Domani読者の方には、何の参考にもならないです(笑)。僕からしてみれば、きちんとキャリアを積んでいるみなさんのほうが、すごいと思います。「どうやったら、そんなふうに生きていけるんですか」って、逆にいろいろ聞きたいくらい(笑)。

────(笑)

井浦:映画界なんか、人や社会とのコミュニケーションが、うまくいかないような人たちが、いつの間にか集まってくるみたいなところですから。でもそういう中で、先輩方を見ていると、いつも気難しそうな芝居をしていて、話しかけにくいイメージのある方こそ、現場での立ち振る舞いに、細やかな気づかいがあったりするんです。自分なんかには目の行き届かないところを見ていらして、さりげない会話のときに、そういう話題が出てきたりすると、すごく広い視野をもっていらっしゃるんだ、と思います。

撮影現場で、すべてに気持ちを張り巡らしている姿とか、素敵な部分は背中を見て学びました。40代でも50代でも、常に最前線で立っていられるのは、こういうところなんだと感じます。

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────それは、どの職業にも通じることに思えます。

井浦:常に、よき先輩や師匠がいてくれて、その方たちからも大きな学びがあって。でも僕らが専門職だからこそ問われるのは、オリジナリティーだと思うんです。その人だからこその個性というものが問われますし、どう生きているかが、僕らはそのまま芝居に出るので。だから協調性の優先順位が、だんだん下になっちゃうんですが(笑)。でも40代どころか、60代70代の大先輩になればなるほど、オリジナルでありながら、さらにわけ隔てなく縁を大事にしていく、協調性やコミュニケーション能力が素晴らしいんです。きっと最初は得意じゃなかったんだろうけど、大先輩の方々が撮影の現場で経験を積み重ねて学んできたことを、僕らも学ぶべきだと思います。

────井浦さんにとって、40代はどんな世代ですか?

井浦:俳優の仕事は、30代までは振りきった役が多いんです。実際の自分とは全く真逆の人物だったり、それこそ漫画のようなキャラクターとか。でも40代になったら、お父さんの役が増えてきたり、若い世代だからできた役を、手放していくことになっていきます。でもそれが失速とは、僕は思っていなくて。逆にいうと30代まではできなかったフィールドに突入したという新しいチャレンジですし、また全然ゴールでもないですし。仕事を続けていく限り、50代60代だからできる役とか、とんでもない挑戦になる役が、絶対まだまだあるので、そこの入り口に立つのが、きっと40代からなんだろうと思います。環境は変わりますけど、気持ちはなんにも失速しないというか、なんならより研ぎ澄まされないといけなくなってくる。

────なるほど。役が限られていくようだけど、意外とそうではないと。

井浦:30代のころは、40代になると、お父さん役しかないんだろうなって、ざっくり想像していたんですけど、実際になってみると全然そんなことはなくて。ひと言で「お父さん」といっても、お父さんの数だけいろんな人がいるので、「お父さん」も深いなと。やりようがありすぎて面白いです。

30代も瞬く間に過ぎましたけど、40代は、もっとちゃんと構えて、いろんなことがじっくりできるのかな、なんて思っていたら大間違いで、40代こそ秒で過ぎていってしまいそう。あと2年で50歳になるのですが、50代の先輩から「50代はもっと早いよ」と言われると、もう止まっている暇はないんだと思います。以前は、積み重ねてきたものが、自由にできるようになるスタートラインが60歳、人生が面白くなるのって60歳からなんじゃないかなっていう憧れが、すごくあったんですが、でもこのままだと、50代が秒で過ぎてあっという間に60歳になってしまう。今のところ、落ち着いた60歳になっているイメージが、まったく浮かばないんです。

────(笑)

井浦:でも確かにすごいなって思う60代以上の方たちって、ものすごく面白いですし、素敵なんです。みなさん、落ち着いてどすんと構えていられることがよし、じゃなくて、どんどん面白いことをしていって生きてる人ばかり。それはやっぱり、時間が過ぎるのも早くなるでしょうし、経験を積むって、結局そういうことなのかなって思います。

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────じゃあこの先の井浦さんが、どんどん楽しみですね!

井浦:わかんないですけどね。意外とまったりした50代になるかもしれないですしね(笑)。

映画『アンダーカレント』10月6日全国ロードショー

【ストーリー】
家業の銭湯を継ぎ、夫の悟とともに順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪する。途方に暮れていたかなえだったが、なんとか一時休業していた銭湯を再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が、銭湯組合の紹介を通じて「働きたい」とやって来る。その日から、住み込みで働くことになった堀とかなえの不思議な共同生活が始まる。友人・菅野から紹介されたうさんくさい探偵・山崎とともに悟を捜し始めたかなえは、悟の知られざる事実をつぎつぎと知ることに。それでも、堀と過ごす心地よい時間の中で、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。だが、あることをきっかけに、悟、堀、そして、かなえ自身も閉ざしていた、心の奥底に沈めていた想いが、徐々に浮かび上がってくる。それぞれの心の底流(アンダーカレント)が交じりあったその先に訪れるものとは──。

出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央、永山瑛太、リリー・フランキー
監督:今泉力哉 
音楽:細野晴臣
脚本:澤井香織、今泉力哉 
原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーン KC」刊) 
企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
配給:KADOKAWA 

▶︎公式HP

撮影/田中麻以 スタイリスト/上野健太郎 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) 取材・文/湯口かおり

ジャケット¥97,900、シャツ¥39,600、パンツ¥71,500/ATON(ATON AOYAMA TEL:03-6427-6335)
シューズ¥27,500/Clarks Originals(PR01 TEL:03-6805-0904)
アイウェア¥51,700/ミズ ダイアログ(blinc外苑前 TEL:03-5775-7525)

俳優

井浦 新

1974年9月15日生まれ。東京都出身。モデルとしての活動のかたわら、1998年に是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」で映画初主演。その後も、「ピンポン」など、多数の話題作・注目作に出演し、2013年には2つの映画賞を受賞。ドラマでも活躍し、2010年と2012年には主要な作品に出演。また、2022年9月には妻と共にサステナブルコスメブランド「Kruhi」を立ち上げ、活躍の場を広げている。
▶︎Kruhi

 

 

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