【目次】
スマホなしで五感で味わう
今年の春、Domani編集長から「デジタルがらみなら、なんでも」と言われて始めたこのコラムですが、今回だけは「完全アナログ」なネタです。
ドラマでも映画でも、小説でも、携帯やパソコンが登場しないものを見つけるのが難しいくらい、デジタル機器は時代劇でもないかぎりは必需品。ところが、現代劇でありながら、デジタル機器がほとんど登場せず、それでも私たちの生活にしっくりなじみ、ある部分では目を覚ましてくれる、秀逸な映画に出合いました。
『日日是好日』(にちにちこれこうじつ)という茶道の映画(10月13日公開)です。
エッセイスト森下典子さんが約25年にわたり通った、茶道教室での日々をつづった同名のエッセイは、私が2年前に茶道を習い始めたときに読んだ本でした。茶道の知識もさることながら、四季の移り変わりや内面の気づきを、「そういう言葉で表現するのか」と気付かされ、目からウロコでした。以来なんども読み返しています。
その気づきを映画にしたこの作品は、多くのシーンが茶室ということもあり、その中ではスマホは登場しません。多くの場合、茶室はスマホ持ち込みNGで、いや明確にそういう作法があるわけではないのでしょうが、まったく不似合いです。
ところが私が通ったお茶の先生は、「ひんぱんに通えないなら、写真や動画を撮ってもいいですよ」と許してくれた珍しいタイプでした。その言葉に甘えて、友達どうしでお稽古を動画撮影して、何度も見返しました。記憶があいまいなところを復習したり、自分のお点前を客観的に見るにはいいのですが、やはり茶室にスマホは不似合い。
茶室の空気の流れを感じたり、お湯やお水の音に耳を澄ませたり、お菓子や抹茶を味わったり、ゆったりムードに反して自分の五感は大忙しなのが茶道。スマホを手にする余裕がないというのも、正直なところです。
さて、この映画では、茶室以外の場所で電話とパソコンが少しだけ登場し、それが物語の転換点にもなっています。それは観て探していただくとして。残念なことに、樹木希林さんが残された作品のひとつとなりましたが、なんでもないところで、どういうわけか涙が出てくるんです。人によってそのポイントは異なるのでしょうが、きっとそこが自分の生活に足りてない五感の部分なのかなと。そんなふうに感じてます。
頑張ってデジタルデトックスなんてしなくても、こういう空間が自分の日常にあることは、すごく大事なこと。たった1年習っただけで、忙しさを理由にお稽古をずっと休んでいるもので、あのピリっと引き締まった空間にまた身を置きたくなりました。ほとんど忘れてしまって、きっとまた最初からやり直しなのでしょうが、スマホに頼らずに、体でしっかり感じて覚えようと思います。
(C)2018「日日是好日」製作委員会
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。10/3発売・後藤真希エッセイ『今の私は』も担当したので、よろしければそちらも読んでくださいね。Cancam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。