数々の映画賞を受賞する、鈴木亮平さんの快進撃
日本国内の映画賞レースが繰り広げられる中、TAMA映画賞 最優秀男優賞、ヨコハマ映画祭主演男優賞と受賞が続く鈴木亮平。
地上波『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室』では正義感と知性にあふれる正統派ヒーローを演じる一方、『エゴイスト』で演じたのは、同じく知性あふれる、といってもその繊細さを知識の膜で包み、いつも人間の深淵を洞察しているような主人公だ。
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特に後者は、鈴木のイメージから離れたところにあり、その内側から溢れ出る表現に観るものは心を抉られた。
TAMA 映画賞の受賞理由には「『エゴイスト』において、愛とエゴの狭間で葛藤しながらも献身的に注ぐ愛は繊細で切なく、実在感あるものとして 観る者の心に刻まれた」からだとあるが、まさにその通りだろう。
映画『エゴイスト』は日刊スポーツ映画大賞でも、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞でノミネートされており、その行方が期待されている。
そしてこの作品と俳優陣は、海外での評価が高いことも注目を集めている理由のひとつだ。
アジア全域版アカデミー賞「第 16 回アジア・フィルム・アワード」では最優秀助演男優賞に宮沢氷魚、主演男優賞に鈴木亮平(最優秀主演男優賞はトニー・レオン)、世界的にもっとも活躍が期待されるアジアの俳優に贈られる賞、ニューヨーク・アジアン映画祭 ライジングスター・アジア賞に鈴木亮平が選ばれている。
また、作品はイタリア、ドイツ アメリカ、韓国、オーストラリア、イギリス…と世界中で上映され、それぞれ喝采を浴びた。松永監督がトークショーを行った韓国では、サインを求める観客が行列をつくったほどだ。
イタリアの映画祭で『エゴイスト』はどう評価された?
筆者は映画制作に関わった原作の編集者として南イタリア、プーリア州の都市、レッチェで行われたアジア・ラヴァーズ・フェスティバルに参加したが、ここでも『エゴイスト』の評価は高かった。
レッチェは2000年以上の歴史を持つ地域で、映画の街でもあることで知られている。映画祭は第一回目ということで、開催にあたってはさまざまな嗜好が凝らされた。
日本から招かれていたのはスタイリストの大草直子氏や、国際的に人気のモデル、YAMATOとSHUZO(大平修蔵)。
彼らは桜をイメージした“ピンクカーペット”を歩き、フォトセッション。
ガラディナーは元修道院の中庭で、プーリアの郷土料理がプーリアを代表するワイナリー「サン・マルツァーノ」のワインとともに振る舞われ、地元の有力者たちがアジアのカルチャーについて語り合うという素晴らしい時間がもたれた。
『エゴイスト』を観た人々は口々に、日本映画の繊細な表現について、俳優たちの表現の巧みさはどこからくるのか、また、作品の題材からイタリアと日本のLGBTQ +の生き方についても語っており、いかにこの作品が、映画としても、社会的なメッセージを持つ物語としても力強く彼らの中に残るかということを実感させてくれた。
オーガナイザーであり、Cristina Massaro氏は『エゴイスト』をこのように評価する。
「『エゴイスト』は、中国の超大作『Born To Fly』やタイのアクション映画『Kitty the Killer』と同様、第1回アジア・ラヴァーズ・フェスティバルで最も待ち望まれた作品のひとつでした。
そして、映画祭ではアジア映画界にまつわる固定観念を打ち破る重要な役割を果たしてくれました。
この映画は、実話を実に繊細な方法で伝えていますよね。美しい脚本と精巧な撮影手法には感動を覚えます。東京国際映画祭でこの映画を初めて見たとき、私はすぐにそのタイトルとコンセプトが伝えるものに惚れ込んだんです。
西洋の世界では、愛の概念は自己中心的であってはなりません。愛する人のために犠牲を払うことを厭わず、その人を最優先し、自分のことよりもその人の幸福を優先しないなら、それは愛ではないのです。
でも『エゴイスト』は「相手のためにすることはすべて自分を満たすための手段である」とあります。それが、わたしがこの映画をイタリアで上映したいと思った理由なんです。
率直に言って、わたしにとっては主人公たちがゲイであるということはどうでもよかった。だって、ジェンダーを問わない強烈なラブストーリーだから。この映画での鈴木亮平さんはとても見事です。すべてが自然でとても美しい。
宮沢氷魚さんの演技も信じられないほど説得力があり、エレガントとしか言いようがありません。鈴木さんが確実に観客の心を動かし、宮沢さんがサプライズを与えてくれました。
彼らは海外でも活躍するでしょう。アメリカでも、ひいてはヨーロッパでも有望な将来性があると思います」
Cristina Massaro氏は「アジアの映画産業がヨーロッパでもっと知られるべきだと強く信じている」という。
長年にわたって映画の故郷となり、マドンナ、ベッカム夫妻、ジェームズ・フランコなど、多くの国際的スターに選ばれてきたこの土地で、アジアの文化への理解が深まることを願ってこのイベントを開催することにしたそうだ。
「エゴイスト」は今後、他国でも上映が決定しているが、プーリアの熱気がヨーロッパでの評価に一役買うに違いない。
書き手
下河辺さやこ
(シモコウベサヤコ):小学館ユニバーサルメディア局コンテンツ事業推進センター 編集長。「小学館 ビューティ・プロジェクト Powered by 美的」統括プロデューサー。小学館入社後、『Oggi』、『Domani』、『AneCan』、『Precious』の副編集長を経て、一橋大学大学院でMABを取得後、事業開発を行う現セクションへ。日本テレビ系『それって実際!? どうなの課』ほかテレビ、イベント出演多数。著書に「男尊社会を生きていく昇進不安な女子たちへ」(主婦の友社)。インスタグラムアカウント:
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