「ご指示のもと」「上司の指示のもと」など敬語表現の注意点
敬意を示すための表現が、かえって不自然になることもあります。スマートな敬語のポイントは「簡潔さ」です。
正しい敬語: 「(役職名)のご指示のもと」
注意したい表現: 「〇〇部長様のご指示のもと」
→役職名自体が敬称なので、「様」をつけると二重敬語になり、くどい印象を与えます。
よりスマートな言い換え:
(変更前)〇〇部長様からのご指示のもと、資料を作成いたしました。
(変更後)〇〇部長からご指示いただいた通り、資料を作成いたしました。
このように「ご指示いただく」という動詞の形にすると、よりすっきりと自然な敬語表現になります。文脈に応じて使い分けましょう。
避けたい不自然な言い回しとは?
意味は通じても、稚拙な印象や違和感を与える表現は避けたいものです。例えば「~のもとで指示を受けて」という表現は意味が重複して冗長ですし、「ご指示を賜りました」は二重敬語になってしまいます。「ご指示のもと」「指示に従い」でスッキリさせましょう。
【目次】
「指示のもと」の言い換え表現とその使い分け|場面別の使い方を整理
いつも「指示のもと」ばかりでは、表現が単調になりがちです。状況に応じて的確な言葉を選びましょう。
「ご指導のもと」「監督のもと」などの類語との違い
「指示のもと」は指示や命令の範囲を示しますが、「ご指導のもと」は指導・助言を受けているニュアンス、「監督のもと」は管理・統括されている意味合いです。上下関係や関わる内容の専門性によって使い分けましょう。
「~の指導の下で」「~の監督の下で」など丁寧さを重視した表現
公式文書やフォーマルな場面では「指導の下で」「監督の下で」と漢字を使い、丁寧に表現することが多いです。改まった書き言葉として信頼性が高まります。
シチュエーション別の言い換え使用例
・専門家から教わった場合
(言い換え前)〇〇先生の指示のもと、分析を行いました。
(言い換え後)〇〇先生のご指導のもと、分析を行いました。
・プロジェクトチームへの感謝を示す場合
(言い換え前)チームの指示のもと、成功できました。
(言い換え後)チームメンバー皆様のお力添えのもと、無事プロジェクトを完遂できました。
・公式な決定事項を伝える場合
(言い換え前)会社の指示のもと、経費削減を実施します。
(言い換え後)全社方針に基づき、経費削減を実施します。

「指示のもと」の英語表現は? 海外とのやりとりに役立つフレーズも紹介
グローバルなビジネスシーンでは、英語での表現も知っておくと役立ちます。
代表的な英訳「under the instruction of」の使い方
「指示のもと」は英語で主に under the instruction of ~ と訳されます。これは、指示を受けて行動している状態を示し、英文メールやレポートでよく使います。ただし直訳的でやや硬い表現なので、状況により自然な言い回しを選びましょう。
例 The survey was conducted under the instruction of the project manager.
(調査はプロジェクトマネージャーの指示のもと実施されました。)
「at the direction of」「based on the directive of」など応用例
「at the direction of ~」は上司や権限者からの指示・命令を強調し、「based on the directive of ~」は指示の根拠や政策的な背景を表す場合に用いられます。文脈に応じて適切な表現を選択しましょう。
as directed by ~ : よりシンプルで一般的な表現。
I contacted the client as directed by my manager.
(上司に指示された通り、クライアントに連絡しました。)
at the direction of ~ : より公式で、法的な文脈でも使われる表現。
The investigation was conducted at the direction of the board.
(その調査は、取締役会の指示のもと行われました。)
翻訳で注意したい文脈のズレ
日本語の「指示のもと」が持つ「責任の所在を示す」というニュアンスは、英語では少し弱まることがあります。英語では「誰が・何に基づいて行動したか」という事実を客観的に伝える意味合いが強くなります。そのため、背景にある意図まで伝えたい場合は、補足説明が必要になることも覚えておきましょう。
現場で使われる「指示のもと」|医療・看護・教育など業界別の表現
「指示のもと」は、特定の業界において法的な意味を持つ重要な言葉として使われています。
「医師の指示のもとに~する」看護・介護の使用例
医療・福祉の現場では、「医師の指示」がなければ看護師や他の医療従事者が行えない医療行為(診療の補助)が法律で定められています。この場合の「指示のもと」は、単なる業務命令ではなく、医療行為の合法性や安全性を担保する法的な根拠となります。
例:「医師の具体的な指示のもと、薬剤の投与を行う」
これは、行為の責任が最終的に指示を出した医師にあることを明確にする、極めて重要な表現です。
「歯科医師の指示のもと」など法的な意味を持つケース
歯科医療の現場でも同様です。歯科衛生士が行う業務範囲は、歯科衛生士法において「歯科医師の直接の指導のもとに行う」と定められています。ここでの「指導のもと」も、業務の正当性と法的根拠を示す重要な役割を担っています。

教育現場での「指示のもと」の使用実態
教育現場では、主に組織運営上の上下関係を示す際に使われます。
例:「校長の指示のもと、避難訓練を実施する」「教育委員会の指導のもと、カリキュラムを改訂する」
ビジネスシーンと似ていますが、生徒の安全確保や教育活動の質を保証するという、より公的な責任を背景に持つ点が特徴です。
「指示のもと」と「指示の下」どちらを使う? 意味の違いを比較解説
最後に、多くの人が混同するこの二つの表現の使い分けについて、改めて整理します。
「指示のもと」と「指示の下」の文法的な違い
文法的には、どちらも「指示という影響範囲の中で」という意味を示す連語(複数の単語が結びついて特定の意味を表すもの)として機能します。
指示の下: 「下」は場所や位置、影響範囲を示す名詞です。「指示の(が及ぶ)下(という範囲)で」と解釈でき、客観的な状態を示します。
指示のもと: 「もと」は根源や原因を示す名詞です。「指示を拠り所として」と解釈でき、行動の起点や理由を強調するニュアンスが含まれます
ビジネス文書での自然な使い分け例
前述の通り、ビジネス文書では「指示の下」がより一般的でフォーマルとされています。公用文でも「~の下に」という表記が推奨されているため、迷ったら「下」を選ぶのが確実です。
一方で、ひらがなの「指示のもと」は、漢字の硬い印象を和らげ、少し柔らかいニュアンスを出したいメールやスピーチなどで効果的です。
フォーマルな報告書: 「関係各所の指示の下、事業を開始した。」
丁寧さを出したいメール: 「〇〇様のご指示のもと、大変多くのことを学ばせていただきました。」
上司やチームでの使用時の印象の違い
大きな意味の違いはありませんが、受け手が感じる微妙な印象の違いを意識できると、より高度なコミュニケーションが可能になります。
指示の下: 客観的・公式的・やや硬質。事実を淡々と報告する印象。
指示のもと: 拠り所にしている感覚・やや主観的・少し柔軟。指示への納得感やポジティブなニュアンスを含む場合がある。
どちらがいいというわけではなく、伝えたい意図や相手との関係性によって使い分けるのが理想です。
最後に
POINT
- 「指示のもと」は責任の所在を明確にするための重要表現。
- 基本表記は「指示の下」だが、柔らかさを出すなら「もと」表記も可。
- 専門職では「法的根拠」としての意味も強いため誤用注意。
「指示のもと」という表現は、シンプルながらも使い方によって印象や意味が大きく変わります。正しい知識を持って適切に使い分けることで、文章や発言に説得力が増し、信頼感のあるコミュニケーションが生まれます。日常業務にぜひ生かしてください。
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執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。


