株式会社イトーキ 商品開発本部
ソリューション開発部部長
認定人間工学専門家・47歳
八木佳子さん
「女」時間
【目次】
部下に自主性を発揮してもらいたくて〝細かいことはいいから!〟と太っ腹になることもあります
「よくも悪くも〝中身はおっさん〟と言われがちで(苦笑)。細かいことは気にしないタイプなんです。大切なのは部下に自主的に楽しく働いてもらうこと。ある程度ポン!と任せたら、意思を尊重するようにしています!」
「母」時間
息子が大学生ともなると生活サイクルはどうしてもすれ違い。月に一度、退社後に待ち合わせて家族で一緒に外食に出かけるんです
「バイトが忙しいようで、家で食べない日も増えてきて…。そんなわけで、ときどき息子に声をかけて家族で外食します。お店は夫に探してもらって〝行ってみない?〟と誘うんです」
「妻」時間
2年前うつになりかけたときにメンターの方と出会って以来、考え方や行動のクセをコンディショニングしてもらっています
「昔から友達夫婦な感じで、休日もそれぞれ〝各自〟のペースを大切にしています。夫は趣味の音楽を楽しんだり、私はメンターの方と面談して、心の曇りをリフレッシュしてきたり」
私が働いて、夫は家事と育児。最初はほんの数年のつもりでした
オフィス空間や家具をデザインするイトーキで、ビジネスパーソンが健康的にパフォーマンスを発揮できる“新しい働き方文化”を提案する「FROM PLAYERS」の事務局を務める八木さん。会議やミーティング続きの1日を終えて、足早にオフィスを出る。
「いつも夫が料理をしてくれるのですが、今日は家族で待ち合わせて外食なんです」
実は八木家は“夫婦逆転生活”を始めて18年。提案したのは八木さんだ。当時、関西で念願だったオフィス家具の研究開発職に就いて1年、子どもはまだ3歳。慣れない研究職に加えてワンオペ状態だった28歳の彼女は共働き生活に疲れ果て“どちらかが仕事を辞めない?”ともちかけたのだ。夫はフレンチの料理人。“料理はつくれるから、俺が店を辞めようか”と専業主夫を引き受けた。ふたりとも一時的な逆転生活のつもりだった。
心身ともに身軽になった八木さんは仕事に没頭。しかし、いくら研究開発しても事業部に“商品化するほどではない”と判断されれば、試作品もお蔵入りになる。次にダメだったら辞めようと思い始めたとき、4年かけて開発した世界初の女性専用オフィス椅子『カシコチェア』が遂に商品化。男性より骨盤が大きく凹凸のある女性に合わせて、座面の形や丸みを調整。腰痛や足のむくみが軽減される効果が実現したのだ。36歳のときだった。
「女性たちの反応はすごく良かったです。でも、少し早すぎた商品だったかもしれません(笑)」
40歳で所属部門が東京に移転したときには、息子は中学3年の3学期。転校はかわいそうだと単身赴任を決意する。関西に残った夫は息子にしっかり向き合い、週末にはそれぞれが遊びに来てくれた。3年前息子が大学生になり、家族そろって東京暮らしに。そして昨春、八木さんは11の企業・ブランドによる横断型プロジェクト「FROM PLAYERS」を立ち上げる。気づけば今日に至っていた。
もし、人生をやり直せたとしてもきっと同じ選択をすると思います
「今回、取材のお話をいただいたとき、最初はちょっと躊躇したんです。私は母としてはほぼ何もしてきていない、仕事に集中してきた人生だったなと思って。世の中には働きながら朝4時起きして、お子さんのことも全部やっていらっしゃる方もたくさんいますよね。すごいと思いながら、私は選んでしまったんです、仕事のほうを。そしてたまたま夫が受け入れてくれたから、思いっきり仕事に打ち込めた。そのことを後悔はしていません。
でも息子と過ごす時間は夫に預けてしまったので、子どもが育ついろいろな瞬間を共有できなかった思いはあります。だけど、100%完璧な人生なんてないですよね。人の目を気にするのではなく、自分の軸で考えて、そして、子どもとの関係がきちんとできてさえいれば大丈夫だと今は思っています。
夫は、周囲にいろいろ言われたこともあったようです。でもこの間聞いてみたら“思った以上に家事が大変だった。けど、これでよかった”と言ってくれてほっとしました。反省点をあげるとしたら、私が休日しか子どもと遊ばないお父さんみたいに、息子にアマアマになっちゃったことですかね。夫に“そんなん、自分でやらしたらええやん!”と注意されることもよくあります(苦笑)。大切なのは、毎日の充実です。心と体の声をよく聞きながら、いい仕事をしていきたいです」
やぎ・よしこ/1971年、岡山県生まれ。大阪市立大学大学院生活科学研究科入学後、23歳で結婚。休学して24歳で出産、翌年復学、26歳で修了。現在の会社に入社して、オフィス家具の研究開発を担当する。28歳のとき夫が専業主夫に。36歳で女性専用のオフィスチェアを開発。40歳で東京へ単身赴任。42歳で健康経営的な視点のソリューション「ワークサイズ」を発表。3年前に家族も上京。座右の銘は「なんとかなる」。
Domani2019年4/5月号『新連載 女の時間割』より
撮影/ 真板由起(NOSTY) ヘア& メーク/ 今関梨華(P-cott)構成/ 谷畑まゆみ
テキスト
谷畑まゆみ
フリーエディター・ライター。『Domani』連載「女の時間割。」、日本財団パラリンピックサポートセンターWEBマガジン連載「パラアスリートを支える女性たち」等、働く女性のライフストーリー・インタビュー企画を担当しています。