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2020.06.20

働く「小学生の母」、臨時休校中の苛立ちの正体|3500人調査で判明した「小学生の父」の行動

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ほとんどの地域で約3カ月に及んだ臨時休校。突然自宅で過ごすことになった子どものために、在宅勤務にシフトした家庭も多いだろう。その間、普段どおりの仕事に加え、家事に育児、さらに「先生役」までこなさなければならなかった親たちから悲鳴が上がった。 親たちの働き方は、臨時休校中にどのように変わったのだろうか。また、どのような精神状況だったのだろうか。人情に注目して人間行動を分析した著書『義理と人情の経済学』の山村英司氏が、約3500人対象の全国調査で、新型コロナウイルスによる臨時休校中のフルタイム勤務のホワイトカラー夫婦の働き方の変化を分析した。

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山村 英司(西南学院大学経済学部教授)
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3500人を対象に2週間ごとにアンケート調査

臨時休校中、身近な家庭生活では、具体的に何が起きていたのだろうか?海外メディアによれば、新型コロナの急増によって親から子どもへの虐待が急増したという。ロックダウンなどによって家の中にこもって生活をするようになったため、苛立ちなどが募り、そのはけ口が子どもに向かっているのかもしれない。

また、コロナ離婚などの言葉も目にするようになった。これも、普段は疎遠になりつつも、夫婦関係を維持してきたカップルが顔を突き合わせて生活するようになった結果かもしれない。現在、筆者は京都文教大学の筒井義郎教授らと、新型コロナウイルスが家庭生活に及ぼした影響を分析している。

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インターネットを通じ、全国各地の男女約3500人を対象に、3月中旬から2週間おきにアンケート調査を行っている。同一人物を追跡調査しているので、新型コロナウイルスの蔓延や政策によって、人々の行動変容や心理変化を詳細に分析することができる。これまで筆者らの分析結果から明らかになったことを紹介していく。

1回目の調査時点ではすでに、臨時休校が全国の小中学校等で始まってから10日ほど経過していた。学校に行っているはずの時間帯に、小中学生は家の中で過ごすことになった。子どもを1人きりにさせることは望ましくない。とりわけ、小学生を1人にすると、学習面、生活面へのマイナスの影響が出るだろう。

教育・家族経済学などの研究によれば、大人がそばにいて適切に子どもと過ごすことが、その後の成長にとって必要不可欠である。専業主婦などは、生活パターンを大きく変えることなく臨時休校に対応できたであろう。

小学生の父親は在宅勤務を減らした

問題は仕事を持つ母親がどのように対処したかである。この実態を探るために、筆者らはフルタイムで会社などに勤務する人を抽出し、学齢期の子どもの存在が働き方に及ぼす影響を分析した。

調査では「在宅勤務」の程度を質問している。また、回答者の性別、「小学生の子ども」の有無、「中学生の子ども」の有無、さらに「同居する親」の有無についても聞いている。これらの情報を利用して統計分析をしたところ次のことが明らかになった。

(1)フルタイム雇用について、小学生の子を持つ女性の42%は完全に在宅勤務する。小学生の子がいない場合、その比率は26%にとどまる。

この結果から、母親は小学生の子どもの世話をするために、「在宅勤務」を選択するようになったことがわかる。これは、十分予測可能な結果であろう。分析からは、次のことも明らかになった。

(2)フルタイム雇用について、小学生の子を持つ男性で完全に在宅勤務しているのはわずか3%。小学生の子がいない場合その値は21%にまで上昇する。

小学生の子がいなければ、男女の差は5%にすぎない。この事実は「男女共同参画社会」がある程度実現していることを示唆する。一方、同性の中の小学生の有無による差は15%を超える。驚くことに、性差の3倍である。

これは不思議な結果かもしれない。「女性が活躍する社会」を目指し、イクメンも増えた社会では、男性も小学生の子どものために「在宅勤務」を選択しそうなものだ。しかし、データが示すのは、正反対の現実である。謎解きをしてみよう。

共働き夫婦の場合、夫か妻のどちらかが家にいれば。小学生の子どもの世話をすることが可能である。夫婦のうち残りは、外に出ても大きな問題はない。

苛立ち コロナ

データが示すのは、妻が「在宅勤務」しているので、夫は子どものことは妻に任せ会社へと通勤している実態だ。さらには、家にいると気詰まりという心理もあるだろう。

企業側が男性の「在宅勤務」を認めないという可能性は低そうだ。なぜなら、小学生の子がいない場合、男性の「在宅勤務」が顕著に増加するからである。

さらに興味深い発見は、親と同居している場合、小学生の子どもの有無は夫婦の「在宅勤務」にまったく影響しないことだ。働く父母は子どもの世話を親に任せることで、子どものために「在宅勤務」する必要はなくなる(親が子どもの面倒を見ることが可能であると仮定するために、ここでは80歳を超えた親は含まない)。

国内外の先行研究によれば、親が子守をすることで、女性の労働参加が促進されることが明らかになっている。これは、われわれの分析結果と整合的である。

中学生だからといって安心はできない

また、中学生の子どもの存在は、フルタイム勤務者の性別に関係なく、「在宅勤務」に影響しない。中学生ともなれば、ある程度自主性に任せることが可能になるので、「在宅勤務」の必要性が低下すると解釈できる。もっとも、近年の精緻な実証研究からは、親の目が行き届かないティーンエージャーは、非行に走る傾向にあることがわかっている。中学生だからずっと1人でも大丈夫ということにはならない。

いずれにせよ以上の分析結果からわかるのは、令和の時代に入った現在でも、「働き方」に大きな男女差があることである。日本は『世界性差報告書』(2020年版)で、女性の社会的地位は153カ国中121位となっている。これを踏まえると筆者らの分析結果は、なんら意外な結果とは言えない。

海外の新型コロナの経済分析は急速に進展している。例えば、ホワイトカラーの女性労働者ほど、働く場所の制約を受けないリモート・ワークがしやすいという。これを肯定的に考えるならば、ポストコロナの時代は女性活躍の時代と言えるのかもしれない。しかし、それは一面の真理にすぎない可能性がある。

少なくとも、われわれの分析結果から描かれる「共働きのホワイトカラー」夫婦の日常は、妻が仕事も家事も子育ても一手に担い、夫は仕事に没頭する様子である。

新型コロナが終息した後でも、夫婦間での負担格差が拡大していく可能性がある。妻の不満は増幅され、放置しているといつかそれが大爆発するかもしれない。例えば筆者の推計では、50歳以下のフルタイム雇用の女性で小学生の子どもがいない場合、「怒り」を感じるのは33%。この値が、小学生の子どもがいるだけで50%に跳ね上がる。この変化は男性には表れない。

ポストコロナの時代は、否応なく家で過ごす時間が長くなるであろう。冒頭で言及したコロナ離婚のような悲劇を未然に防ぐにはどうしたらよいのだろうか? 日常の備えが重要である。

筆者の分析結果では、非常事態宣言後に「怒り」「不安」「恐れ」が高まっている。その中で、落ち着きを保っていた人たちがいた。それは「雪国」に居住する人たちである。

例えば、1回目調査(3月13日)に比べ、非常事態宣言後の3回目調査(4月10日)に、「雪国以外」では「怒り」を感じる人の比率は7.5%上昇している。一方「雪国」では、4%上昇にとどまる。

「怒り」の増加程度は、「雪国」はそれ以外の地域の約半分である。「雪国」では雪深い日が多く家の中で過ごさざるをえない。その中で東北人特有の粘り強さが培われるのであろう。この特性は派手ではないものの、非常時に耐え忍ぶ局面で強みを発揮する。

日常生活の積み重ねの中に答えはある

家での過ごし方が重要になる時代に、少しでも愉快に楽しく生活を送るカギはどこにあるのか? 共働き夫婦で一緒に「在宅勤務」をすればよいのか? 結局妻が家事をしている間、夫が部屋にこもって仕事に熱中しているようでは、意味がない。

拙著『義理と人情の経済学』で、筆者は日常生活の中での夫婦の会話、家事仕事の共有などの有用性を明らかにした。「共に泣き、共に笑える」関係をつくることが重要なのである。夫婦の距離を少し縮めてみる。有事になる前の日常の積み重ねの中に答えはある。

今の私にできる提言は、次のとおり。

・まずは夫婦で会話を重ね、不満や不安を共有する
・夫の担当する家事や一緒にする家事・育児を増やす

この提言を実行すれば、いつの間にか夫婦の距離が近くなり、家庭内に楽しい空気が流れ始めていることに気づくはずだ。

いや、まずは「隗(かい)より始めよ」である。先日、テレビ電話会議に研究室から参加していたことを思い出す。これからは、家から「会議」に参加しよう。ついこの前は、妻に頼まれてしぶしぶ掃除機をかけていた。言われなくても自分でやろう。一緒に家事仕事をしているうちに、会話も弾むことだろう。これを書きながら、反省している。

これを読んでいる知人は、私に問いかけることであろう。「山村さん、本当に掃除やってるの?」と。このように他者を巻き込んで自分に制約をかける。これは、行動経済学が教える高等戦術なのである。

西南学院大学経済学部教授

山村 英司(やまむら えいじ)

1968年北海道生まれ。1995年早稲田大学社会科学部卒業、1999年早稲田大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2002年東京都立大学大学院社会科学研究科経済学専攻単位取得退学、2003年西南学院大学経済学部専任講師、助教授、准教授などを経て、2011年より西南学院大学経済学部教授。博士(経済学)。専門は行動経済学、経済発展論。

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東洋経済オンライン

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