現世では叶わないと思っていたパラレルワールド
可憐な笑顔と甘いトーンの声。カメラを向けると、純真さ、強さ、はかなさ、妖艶さ…と、瞬時にスイッチするカメレオンぶり。現場のスタッフ1人1人に目を合わせて挨拶をする礼儀正しさ。そして「私の休憩時間はなしにしてもいいので、インタビュー時間をとりましょう。いい記事を作っていただきたいので」と目の前の仕事に全力投球する姿勢。
目の前の彼女からは、世間が衝撃を受けた、あの“あざとかわいさ”は微塵も感じられない。たおやかで、凛として、聡明で、優しくて、ブレない人だ。
――撮影中、柔らかい表情から強い眼差しに変わった瞬間、ジャンヌ・ダルクのような美しさも感じました。
松本:では、今日はジャンヌ・ダルクのような気分でいますね(笑)。
――ドラマ、映画、バラエティー、ナレーション、声優、舞台、CM…松本さんの経歴を拝見すると、あの作品にも出てたのか!と思うとともに、現在の“唯一無二な存在感”に驚かされます。ご自身では、いまの状況をどう感じているのでしょう。
松本:私はパラレルワールドでの自分が、成功できていることは想像することができていました。ですが、現実の世界で、そうなれるとは思っていなかったです。でも万が一、パラレルワールドに行くことができたなら、そこにいるのに相応しい人間になっていようとは思っていました。
「目指す光へ、まっすぐでも遠回りしてもいい」辛い時期を乗り切った言葉
――“育ての母”と慕う、女優・松田美由紀さんの「自分が目指す光を忘れなかったらいい」という言葉を大事にされているそうですね。
松本:はい。美由紀さんは「自分が目指す一点の光だけ忘れなかったらいいんだよ。そこへ行く道は、まっすぐでも遠回りしてでもいい。目指す気持ちがあれば、絶対にたどり着くから」ということを言ってくださって。その言葉のお陰で、女優として芽が出なかった時期を乗り越えることができたと思います。
――周りの同世代の役者さんがどんどん売れていく中で、18年間という長い間、それを信じて突き進むパワーがすごいなと思いました。
松本:もちろん折れそうになったこともありますよ。ただ、私が、「芝居が好き」という“光”を持っていることだけは、誰からも非難されることじゃない。だって「あなたの芝居は良くない」と批判はできても、「あなたは芝居好きではない」とは誰も言えない。これは誰からも侵害されることのない、自分自身で守るべことなんだって思って、突き進んできました。
「好き」という気持ちを出発点にして、自分は何をすべきかを考えて行動しないといけない。漫然と過ごすのではなく、本を読んだり、演技を勉強したり。そうやって目の前のことを一生懸命やっていたら、想像以上の世界に連れてきてもらったって感じですね。
――ただ、ひたすら努力し続けることは、なかなかできないことです。実際に売れっ子になった、いまもその歩みをまったく止めてない感じがします。
松本:まだまだ売れっ子というわけではないですが、ありがたいことに、たくさんのかたに求めていただき、夢見ていた環境に、いまはあると思います。でも、決してここがゴールじゃなくて、これからなんですよね。これからどうやってステップアップするかが大切だと思うし、いま37才という年齢なので、ものすごい速さで成長しないといけないなって。
でも、それがすごく楽しいんです。大変なことかもしれないけど、やっぱりこんな環境を与えてもらえたんだから、ここからの責任は自分が背負わないといけないとも思っています。
子供は意外と大人。複雑な心の傷も理解できると思う。
――今回の『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』では、雪の国の女王・シャロン役。久しぶりの声だけの出演となるそうですが、いかがでしたか?
松本:オファーをいただいたときは少し驚きましたが、たくさんの子供たちが夢中になっている作品に携われるということに心が躍りました。子供たちの夢とかワクワクを汚したくないですし、この役をやることで、少しでもそのお役に立てるのであれば、もう、ぜひともと、お引き受けしました。
最近、大人っぽい悪女の役とかが多かったので、私のこと知らないお子さんも多いと思うんです。映画を通して、子供たちに知っていただけたら。
――子供向けの作品には思い入れがあるのですか? 過去にも人気アニメ『シュガシュガルーン』でショコラ役を演じられていましたが。
松本:昔は自分が子供だったので、正直言って、そんなに実感していなかったんです。でも母性本能が出てきたのかな…。子供たちに夢とか希望を持ってもらう姿を想像するだけでも、すごく嬉しくなっちゃう。すごく子供たちと関わりたくなったんです。30代になって感覚が変わってきましたね。年齢や経験を重ねて、自然と。
――結婚や出産を意識することが増えたのでしょうか?
松本:自分の好きなことがやれて、ちゃんと自立した先にこそ、結婚とか子供とかがあるものだって思っていて。いつまでも自分のことを子供だと思ってたから、自分が子供を教えるなんてと思っていたんですよね。でも、実際は私が子供たちからもらうものがすごくあるんだって気づいたんです。
――それはたとえば?
松本:なんでもいいんですけど、たとえば純粋で無垢な笑顔とか、発想力とか。塗り絵をしてる姿だけでも得るものがたくさんあるなって。だから大人が子供たちに何かしてあげようというおこがましいことではなくて、私自身が子供と関わって、色々感じてみたいという純粋な気持ちが強いです。
――子供は意外と大人だったりしますよね。実際には大人が感動する作品も多く、この『映画トロピカル~ジュ!』も深い話ですよね。
松本:そうなんです! 子供たちはもちろん楽しめるんですが、大人もグッとくる、ハッとさせられる普遍的な内容です。なぜ雪の女王シャロンがこういうことをしてしまったのか、女王が心に抱えている傷はきっと子供もわかってくれると思うんですよね。なので、Domani読者のかたにはお子さんと一緒でも、大人でだけでも見ていただきたいなと思います。
――*――
こちらの質問を真摯に受け止め、じっくりと、でも迷うことなく言葉を紡いでいく松本さん。そんな真剣なインタビュー内容とは裏腹に、スタジオの隅にあったプリキュアのおもちゃの指輪をはめているおちゃめさが印象的だった。
「とても楽しかったです! またぜひよろしくお願い致します」
登場した時と同じように、礼儀正しくお辞儀をして帰る彼女に、見事に骨抜きにされた本誌スタッフ。これからも女優・松本まりかから目が離せそうにない。
『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』
(c)2021 映画トロピカル~ジュ!プリキュア製作委員会
プリキュアシリーズ18作目『トロピカル〜ジュ!プリキュア』(テレビ朝日系)の劇場版。今作では、トロピカル〜ジュたちが初めて雪の国シャンティアへ。物語の鍵を握る、映画オリジナルキャラクター、シャンティアのプリンセス・シャロン役に松本まりかさん。10月23日(土)ロードショー。
女優
松本まりか
まつもとまりか/1984年9月12日生まれ、東京都出身。’00年に『六番目の小夜子』(NHK)で連続ドラマデビュー。’18年『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)の井筒里奈役を怪演し、一躍“あざとかわいい”と話題に。’21年はドラマだけでも『教場II』、『最高のオバハン 中島ハルコ』(ともにフジテレビ系)、『向こうの果て』(WOWOW)、『東京、愛だの、恋だの』(Paravi)、『それでも愛を誓いますか?』(ABC)に出演(うち3作品は主演)。テレビドラマだけでなく、舞台や映画、ナレーション、声優、CMと多方面で活躍。オリコンニュースの『2021年 上半期ブレイク女優ランキング』で1位に輝くなど、いま最も熱い注目が集まる女優のひとり。
衣裳/ドレス¥130,900(3.1 フィリップ リム ジャパン〈3.1 フィリップ リム〉) イヤリング¥78,000・リング[右手中指・薬指・左手中指/3本セット]¥90,000(エドストローム オフィス〈シャルロット シェネ〉)
撮影/中野修也(TRON) ヘアメイク/秋山 瞳 (PEACE MONKEY) スタイリスト/コギソマナ (io) 取材・文/辻本幸路
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