監督の想いに何か感じるものがあったので二つ返事でお受けした
10月27日から全国ロードショー中の最新作『唄う六人の女』で主演を務めた竹野内豊さん。幼い頃に別れ、40年以上会っていなかった父親の遺した山を開発業者へと売買しようとする人気写真家役を通して、日本の落葉樹林の豊かさに改めて気づいたといいます。森に“囚われる”男を通して気づいたことを伺いました。
ストーリー
ある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻った萱島(竹野内豊)と、その土地を買いに来た開発業者の下請けの宇和島 (山田孝之) 。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っている途中に、二人は事故に遭い気を失ってしまう……。目を覚ますと、男たちは体を縄で縛られ身動きができない。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切答えない彼女たちは、彼らの前で奇妙な振る舞いを続ける。異様な地に迷い込んでしまった男たちは、この場所からの脱走を図るが……。
――『唄う六人の女』は、亡き父親から相続した山を売買しようとする主人公が、その山で暮らす六人の女たちに監禁されて、囚われの身となることから話が始まります。出演を決めた経緯は?
『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014)という映画に出たとき、プロデューサーの方から、山田孝之さん主演の『ミロクローゼ』(2011)という映画を薦められて DVDを拝見したんですが、独創的で面白かったです。実際の撮影現場ではどんなふうに撮っていたんだろうと思って、ところどころ早戻しをして観てしまいました。実は、以前に原田美枝子さんと共演した時に、「面白い監督に出会った」と石橋監督のことは伺っていたんです。その後、2018年に石橋監督から『唄う六人の女』の出演オファーをいただくことになって、その時点では、脚本はまだ執筆前でしたが具体的な構想を教えてくださり、大自然をテーマにした監督の秘めた想いに、何か感じるものがあったので二つ返事でお受けしました。
写真をすべて見る――撮影地は日本でも有数の落葉樹林の原生林で行われましたが、刺激を受けたことは?
京都の南丹市に京都大学が保全している芦生の森という原生林で、特別に許可をとり、撮影させていただいたんですが、僕が演じた萱島という男は、父から引き継いだ山を売却するため、40年ぶりにこの地を訪ね、ある出来事をきっかけに見知らぬ六人の女たちに監禁されるのですが、森だけではなく、森の中で生きる女たちの姿から、石橋監督が本作品を手掛けるにあたってコンセプトに置いた、「もののあはれ」という日本古来の考え方。私たちの原点ともいえるそのような日本人の精神性を、本作を通して、改めて知ることが出来ましたし多くの方々にもご覧いただき、考えていただくきっかけになればと思います。
――萱島は、物言わぬ女たちの監禁から必死に逃げようとしますが、竹野内さん自身が同じシチュエーションに見舞われたらどうしますか?
現実的に同じシチュエーションは想像できないんですけど、そうだなあ…虫汁だけは飲みたくないですね(笑)。
――共演の「六人の女」である俳優陣からインパクトを受けたことは?
水川あさみさんをはじめ、アオイヤマダさん、服部樹咲さん、萩原みのりさん、桃果さん、武田玲奈さんたちはセリフが一切ない役なので、現場に行くと、森の中でそれぞれ、すごく不思議な動きや、 突拍子もない行動をしたりするんです。それも、どうしてこういう動きなのか、理屈ではなく直感で演じるみたいな。ご本人たちから聞いたんですが、初号試写のあと、みなさん『ああ、こうやって繋がっていたのか、やっとわかった』と、完成作を観て初めて石橋監督の頭の中がわかったそうです。
――山田孝之さんは、萱島から山を購入しようとする開発会社の下請けの男を演じるのと同時に、プロデューサーも務められていますが、思い出に残っているエピソードはありますか?
この『唄う六人の女』の撮影の前に、ある会食の帰り、運動がてら歩いて帰っていたら、山田さんと道端でばったり会ったんです。そのときに山田さんが 、『竹野内さん、石橋義正監督の映画に出られるんですよね、僕も出ますから、頑張りましょう』と声をかけてもらったのですが、そんな偶然も何かの運命だったんですかね(笑)。
山田さんとは『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』という第二次世界大戦直後のサイパンを舞台とした作品以来の共演でしたけど、その当時から、同世代の俳優さんたちの中でも独特の感性を持っている俳優さんだなと思っています。