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「伺わせていただきます」は誤った敬語表現
「伺わせていただきます」は、敬語を重ねた誤った表現です。まずは、「伺わせていただきます」が誤用とされる理由について、くわしくご紹介します。

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「伺わせていただきます」は二重敬語
二重敬語とは、敬語を重ねた表現のことです。「伺わせていただきます」には、「伺う」と「させていただく」2つの敬語が重なっています。
そもそも「伺う」は、「聞く」や「尋ねる」「訪れる」などの謙譲語です。謙譲語は敬語のひとつで、相手への敬意を表し、「させていただく」の使い方は、文化庁の「敬語の指針」で以下のように定義されています。
「( お・ご)……(さ)せていただく」といった敬語の形式は、基本的には、自分
側が行うことを、ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い、イ)そのことで恩恵を
受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。
「させていただく」は相手の許可により、恩恵が受けられる場面で使う言葉です。
たとえば、「コピーを取らせていただけますか」を使う場面では、相手の許可により「コピーを取る」という恩恵が受けられます。
「午後は早退させていただきます」の場合は、早退するという許可を得ることで、午後からの時間を有効活用できるでしょう。
「伺わせていただきます」は、敬語が過剰に重なった使い方です。一見丁寧なようですが、意味が通じにくくなる可能性もあるため、多用しないように気を付けてください。
慣用的に使われる「お伺いいたします」
「お伺いいたします」も、「伺わせていただきます」と同様の二重敬語です。「お伺い」と「いたします」の、2つの敬語が重なっています。
「お~する」という丁寧な言い回しに、謙譲語である「伺う」を挟んだ「お伺いします」も同様です。前述した基準に照らし合わせると、いずれも誤用といえます。
ただし、「お伺いいたします」や「お伺いします」は、慣習的に広く用いられており「伺わせていただきます」ほど回りくどくないため、ビジネスシーンでも見聞きすることも多いでしょう。
文化庁の「敬語の指針」でも、「お伺いいたす」や「お伺いする」は、習慣として定着している二重敬語として紹介されています。
確認しておきたい敬語の基本ルール
「伺う」は、謙譲語のひとつだと前述しました。敬語表現には、謙譲語以外に「尊敬語」や「丁寧語」などが存在します。

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いずれも、日常的に使われることが多い表現です。ここでは、それぞれの違いや使い方などについてみていきましょう。
尊敬語
尊敬語は、相手の言動や状態への尊敬を表す言葉です。主に敬語動詞や接辞、助動詞、補助動詞などに分類されます。
敬語動詞とは、相手の言動に対する尊敬表現のことです。「来る」は「いらっしゃる」、「食べる」は「めしあがる」に言い換えが可能です。
接辞とは、他の語句の頭に付ける「お」や「ご」などのことで、たとえば「お医者さん」や「御主人」などの「お」や「ご」が接辞にあたります。
助動詞や言葉の後に加える「れる」や「られる」、補助動詞は「お~になる」を使った言葉です。「来られる」、「お読みになる」などが一例として挙げられます。
【敬語動詞】先生が来る→先生がいらっしゃる
【接辞】医者に相談する→お医者さんに相談する
【助動詞】取引先が来る→取引先が来られる
【補助動詞】資料を読む→資料をお読みになる
注意したいのは、尊敬語は自分に対しては使用しない点です。以下のような使い方は誤用になるため、気を付けてください。
- 誤)では、私のお考えを述べたいと思います。
- 正)では、私の考えを述べたいと思います。
謙譲語
謙譲語は、自分の行動をへりくだった表現へと変えることで、相手への敬意を表します。
- 聞く、尋ねる、訪れる→伺う
- する→いたす
- 見る→拝見する
- 言う→申す
- 知る→存じる
また、「お(ご)~する」も謙譲語のひとつです。
- 説明する→ご説明する
- 案内する→ご案内する
さらに、謙譲語にも接辞があります。「自分」を意味する「私ども」「手前ども」などがその一例です。
- 私どもは、古くから菓子製造を生業としています。
丁寧語
丁寧語は、日常生活での使用頻度が高い敬語表現です。「です」や「ます」などを使い、相手への敬意を表します。
尊敬語や謙譲語に比べると、敬意の度合いは低めです。相手への敬意をより表したいときは、「ございます」を使用してみてください。
- 会議に出席する→会議に出席します
- 〇〇さんが発言した→〇〇さんが発言しました
- 資料があります→資料がございます
「伺わせていただきます」の正しい表現と例文
「伺わせていただきます」の正しい表現は、「伺います」です。「行く」、「聞く」などの意味をもつ「伺います」は、ビジネスシーンでも頻繁に登場します。ここでは、状況に応じた使用例を確認していきましょう。

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「行く」意味で使うときの例文
目上の人に「行く」ことについて伝えるときは、「伺う」を使った言い回しをしましょう。
「行ってもいいですか?」「行きたいです」と伝えるより、相手を敬う気持ちが伝えられます。
「伺ってもよろしいでしょうか」
- それでは、火曜日の13時、弊社に伺ってもよろしいでしょうか?
相手に対し、許可を求める際の使い方です。「お伺いしてよろしいでしょうか?」にすると、より丁寧な表現になります。
こちらから約束を取り付ける場合は、「差し支えなければ」「お忙しいところ恐縮ですが」など付け加えるとよいでしょう。
「伺いたいです」
- ぜひ、お話に伺いたいのですが、来週のご予定はいかがでしょうか。
「行きたい」という欲求を、失礼のないように伝えられる表現です。より丁寧な言い回しにしたいときは、以下のように「存じます」を語尾に付け加えます。
- こちらの都合で恐縮ですが、火曜日の13時ごろ伺いたく存じます。当日のご予定はいかがでしょうか。
「伺いました」
- 〇〇企業には、先日伺いました。商談もすでに成立しております。
上司や目上の人に対して、行ったことを伝えたいときは「伺いました」と言いましょう。「行った」という自分の行動をへりくだった表現にすることで、相手の立場が高まります。
「伺うことができません」
- お声がけいただき、ありがとうございます。大変申し訳ないのですが、当日は出張で伺うことができません。またの機会にご一緒できますと幸いです。
「行けません」と目上の人に伝えるときは、失礼のない言い回しが大切です。「伺うことができません」としたうえで、感謝や謝罪の気持ちを伝えましょう。
例文のように最後に一言付け加えると、よりやわらかな印象になります。