ビジネス文書の挨拶や、結びの文などで使われる「貴殿」という言葉。やや古風な表現で、近年使われる機会は減っているだけに、いざ職場で目にすると「どんな意味だっけ?」と戸惑ってしまうこともあるのではないでしょうか?
手紙では、相手の活躍や健康などをよろこぶ際に用いられる言葉なので、マナーとして覚えておきたいですね。本記事では、「貴殿」の意味やビジネスシーンでの使い方、「貴殿」を使う際の注意点などを解説します。
「貴殿」の意味
「貴殿」の読み方は「きでん」です。「きどの」や「きとの」とは読まないため、注意しましょう。続いて、辞書で意味を確認していきます。
1.[代]二人称の人代名詞。男性が目上または同等の男性に対して用いる。あなた。「―の御尽力の賜物と感謝しています」
[補説]もと、目上の相手への敬称として用いたが、のちに、同輩に対する親愛の気持ちを表す語としても用いるようになった。現代では多く手紙や文書で用いる。
2.[名]相手を敬って、その住宅をいう語。貴宅。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「貴殿」は、二人称の人代名詞で、わかりやすくいえば「あなた」という意味ですね。辞書によると、「貴殿」という言葉はもともと、男性が男性に対して使う言葉だったようです。主に目上の人に対して用いられる言葉だったものが、やがて親愛の気持ちを込めて、同輩にも使われるようになったとか。
ちなみに、女性の二人称の人代名詞が「貴女(きじょ)」。こちらも本来は身分の高い女性を指す言葉でしたが、時代が下るにしたがって、女性への敬意を示す言葉として手紙などで用いられるようになりました。
辞書の意味に則ると、男性は「貴殿」、女性は「貴女」ということになりますが、近年では男女問わず「貴殿」を使用する例も。どちらを使用すべきか迷った際には、シンプルに「〇〇様」と置き換えてもいいかもしれませんね。
「貴殿」を使った例文
実際にビジネスシーンでは、どのように使用するのがふさわしいのでしょうか? 主に「貴殿」が使われる、手紙やメール、表彰などのシーンに分けて説明します。
貴殿におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
手紙やビジネス文書で用いる一般的なフレーズです。「あなたが以前にも増して、健康で幸せに暮らしていることをよろこび、お祝いいたします」という意味ですね。
フォーマルな文書では、まず相手の活躍や健康を祝う言葉を伝えることがマナーとされています。ちなみに、結びの文として使うのであれば「末筆ながら、貴殿のご活躍をお祈りしております」などと表現するといいでしょう。
今回のプロジェクトに関しまして、貴殿のお力添えを賜りたく存じます。
個人へ向けたメールにも、「貴殿」が使われることもあります。プロジェクトやセミナーなどへの参加を呼びかける際や、事業に協力して欲しい旨を伝える際にも有効です。「貴殿のお力添え」と表現することで、相手の能力を評価し、頼りにしているといった気持ちが伝えられるでしょう。
貴殿のこれまでの功績をたたえ、感謝状を贈ります。
社内表彰する際にも、「貴殿」が使われます。会社に多く貢献してきた社員へ、労いの気持ちを込めて、このように伝えると喜ばれるでしょう。相手への敬意が感じられる言葉ですね。
「貴殿」を使う際の注意点
続いて、「貴殿」を使う際の注意点を見ていきましょう。
近年は女性に使うこともあるが、様付けが無難
「貴殿」という言葉を女性に対して使うこともあります。本来であれば、「貴殿」は男性から目上の男性に対して使うため、女性に対して使えるのかという疑問もあるでしょう。
近年、女性に対しても「〇〇殿」などの呼び方がされるようになりました。その影響で「貴殿」も、性別に関わりなく使用されるようになってきたようです。ただし、由来を考えて女性に対して使うべきではない、との考えを持つ人も一定数います。「〇〇様」や「貴女」など、他の言い方を選ぶと無難でしょう。
目上への使用は正しいが、好まない人も
本来「貴殿」は、目上の人に対する敬意を表す言葉でしたが、時代が変わるにしたがって、同等の立場の相手にも親愛の情を込めて使われるようになりました。しかし、人によっては見下されたと感じる可能性があるため、取引先や顧客などに使う際は配慮が必要です。
また、「貴殿」にはすでに敬意が含まれているため、さらに「様」を付けることは誤りです。迷ったときは、「〇〇(名前)様」という形で敬意を示すのが無難と言えるかもしれませんね。