お母様、お話があります
【登場人物】
あん(私)…メーカー勤務のシングルマザー。8年前に離婚し、実家に出戻り。39歳。
蓮…生意気盛りの小学生。11歳。
臣斗くん…あんの会社の後輩・海斗くんの大学の同級生。34歳
【前回までの話】
シングルマザー歴8年目にして、子連れ再婚を果たしたあん。しかし、事実婚で結婚指輪も婚姻届も、新居もない「ないない尽くし」からのスタート。挨拶の席で義母に蓮の中学受験をゴリ押しされるも、金銭的にも蓮の性格的にも無理だと判断したあん。
Season1『シングルマザーの恋愛』はコチラから。
結衣ちゃんと同じS塾希望! 果たして入塾テストの結果は?
こんにちは。バツイチ子持ちで再婚をしたあおいあんです。
前回は、臣斗くんのご両親にご挨拶に行ったお話をしました。その際、お母様から蓮の中学受験をゴリ押しされましたが、本人の性格や私の経済状況も考えやっぱり受験はないだろう…と思いながら帰宅したのですが。
玄関を開けると、蓮が正座をして待ち構えていました。私はビックリし過ぎて「なになになになに」と何を連呼。
蓮
はい出た! 男子が「お母様」と呼ぶときは大抵くだらないお願いがある時だ。私は話を聞く前に「嫌です」とお断りした。靴を脱ぎ、リビングへ行こうとする私の脚にすがり
蓮
一生のお願いだから
はいまた来た! 「一生のお願い」ってあなたの人生は何回あるんですか?と言いたくなる。それも振り切りキッチンで手を洗いうがいをしていると
蓮
僕、中学受験したいです。S塾へ行きたいです。お願いします!
私は口にふくんだ水をまるでコントのように吹き出した。
私
ちょ、ちょ、ちょっと待って
顔とキッチンに飛び散った水を拭き、鼓動が速くなった自分を鎮めた。
私
突然なんで中学受験の話になるの? S塾行くって、勉強好きじゃないじゃん
蓮
結衣ちゃん受験するでしょ? 行きたい学校が共学なんだって。それなら俺だって行けるじゃん!
はい!? 結衣ちゃんの志望校を聞いて、共学だから自分も行きたいって? 結衣ちゃんは蓮の同い年の小学生で、ありがたいことに蓮の”彼女”。結衣ちゃんの家族とは家族ぐるみで仲良くしてもらっている。いるのだが。
私
蓮がその学校に行きたいってことじゃなくて、結衣ちゃんが行くから一緒について行きたいってこと?
蓮
そうだよ。このままだと中学離れ離れになるでしょ。でも男子も通える学校なら俺も行けるじゃん。中学もずっと一緒にいられるんだよ
舐めてる。完全に中学受験を舐めてる!
私
結衣ちゃんは4年生の時から塾に通ってるでしょ。万が一、蓮が今から塾へ行ったとしても1年間しか行けないんだよ。残りの2年分はどうするの?今から勉強しても、結衣ちゃんには追いつけっこないよ
蓮
ヤダ! 絶対同じ中学へ行く。だから同じS塾へ通わせて
この押し問答を隣で見ていた母をチラッと見ると、小さく首を振っていた。
私
突然そんなこと言われてもママも困るし、ちゃんと落ち着いて考えてみよう
蓮は拗ねた顔でソファーにドカッと座った。さっき中学受験はナシの方向と私の中で解決したのに、まさかの本人から受験の申し出があるとは思わず。。。
次の日、さっそく結衣ちゃんママへ連絡を取りお茶をすることに。昨日の経緯を一通り話し…
私
今から受験なんて無理だよね?
結衣ちゃんママ「う~ん、正直厳しいよね。5年生までに中学受験に必要な基礎を学んで、これからはそれをベースに入試問題のレベルまで難度を上げていくから、今まで何もしなくて挑戦は本人も授業についていかれずに、辛い思いをするんじゃないかな?」
私
やっぱりそうだよね
結衣ちゃんママ「でも結衣が第一志望だって言ってる学校は、そこまで偏差値が高くないんだよね。親的にはもう少し高い偏差値の学校を第一志望にって思ってるんだけど…。蓮くんがそれこそ死に物狂いでやったら受かる可能性は0ではないと思う。ただ本当に遊べないし、毎日遅い時間まで勉強しなきゃならないけど」
私は受験をする前から胃が痛くなり、胸が苦しくなった。反抗的な態度を取り始めたとはいえまだ11歳。友達と遊びたいし、ゲームもしたい。それを全部我慢してまでやりきれるのだろうか? 絶対イライラするし、それを私は支えられるのだろうか?
結衣ちゃんママと別れ、臣斗くんに連絡してみた。会社にいるからおいでと言われ、行ってみると。
臣斗
蓮、本人が中受したいって言うならさせてみても良いんじゃない?
私
今からじゃ間に合わないよね? それに塾代だって…
臣斗
その塾代の件なんだけど、俺が払うって言ったら解決する?
私
そんなの払わせられないよ
蓮は連れ子。再婚したとはいえ臣斗くんにそこまでしてもらうのは気が引ける。
臣斗
う~ん、あんは遠慮しているのかもしれないけど、母から電話があって蓮の受験話が止まらないんだ。だから母を黙らせるためにも、蓮が中受したいって言うなら塾に通わせられたらいいなって。母と蓮の希望は叶うわけだし
私
塾代は解決したとしても、学力はどうにもならないよ。授業についていかれず癇癪起こして終わりそう
臣斗
まぁそこは正直やってみないと分からない。蓮がどこまで本気になれるか、蓮に合った塾かどうかにもよるしね。一度見に行ってみたら?
臣斗くんは塾代を払うことで、お母様からのプレッシャーが止まるならと考えたみたい。本当に塾代を払ってもらっていいものだろうか。結衣ちゃんと離れたくないから受験をしたいだなんて、そもそもが間違っている気がする。入塾テストを受けさせて、蓮に中受の厳しさを感じ取ってもらうしかないかな。
私は戸惑いながらも、結衣ちゃんと同じS塾に入塾テスを申し込んだ。蓮を連れて行ったところ、結衣ちゃんもテストの日だったようで、エントランスで偶然会い、いそいそと中へ入っていった。その後ろ姿はまるで映画館にも入っていくかのように浮かれていた。どうせ弱音を吐いて出てくるだろうと、迎えに行ってみると、蓮の顔は意外にもイキイキした表情だった。テストの結果はまさかの+1点で入塾合格点をクリアしていた。私は頭をかしげたが、蓮は有頂天になり、小躍りしていた。
蓮
結衣ちゃんとは別のクラスからだし、テストも分からないとこいっぱいあったけど、成績が上がれば結衣ちゃんと同じクラスになれるってことでしょ
なんじゃそりゃ。超バッドなポイントをなぜそんなポジティブに変換できるんだ。入塾する気満々の蓮。そのことを臣斗くんに連絡すると、とりあえず通わせてみることになった。再婚して早々、癌治療中の母を抱えて、さらに中受に挑戦することになるとは…不安しかない。
あおいあん
契約社員でメーカー勤務、現在38歳のシングルマザー。高学年になりちょっと生意気になった10歳の息子と実家に出戻り。40歳を前に「もう一度、女としての人生を!」と一念発起。離婚をしてから7年という恋愛ブランクを埋めるべく奮闘し、5歳年下の彼氏と再婚を決めた。
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