同期みんなが退団したら95期全員公演をしたいと夢見ています
前回登場していただいた朝月希和(あさづき・きわ)さんと実咲凜音(みさき・りおん)さんは、96期と95期の1期違いで、下級生時代を花組で過ごした関係性。その後実咲さんは宙組に組替えし、トップ娘役に就任。2017年に宝塚歌劇団を退団した後は舞台を中心に活躍し、現在上演中の話題作『千と千尋の神隠し』にも出演されています。
<朝月希和さんのコメント>
入団して花組に配属され、一番近くにいて信頼して尊敬していた1期上の方。私が花組に配属されたとき、すでにくみ(実咲)さんは新人公演や小劇場公演のヒロインをされていました。お忙しいなか本当に気にかけてくださって、様々なアドバイスをいただきました。一緒に踊らせていただくことも多く、たくさんのことを学びました。くみさんが組替えするとき、「これから誰を目指していけばいいんだろう」と思ったほど。組が離れても公演を観に来てくださり、「あそこの踊りはこうだったね」など私のクセを把握した上での的確な言葉をかけていただいたことはとても心に響きました。ありがたくうれしかったです!
紹介者の朝月希和さんについて、エピソードを教えてください。
実咲さん(以下敬称略):音楽学校の予科・本科の関係から花組の下級生時代もずっと一緒だったので、私にとってもきわちゃんはとても近い存在でした。
覚えているのが、きわちゃんの受験のとき。本科生だった私はバレエのお姉さん(受験生に踊りの見本を見せたりする)をやっていて、受験生のきわちゃんが踊る姿を見る機会がありました。一瞬で「この子は絶対に受かるわ」と思うほど印象的だったんです。
花組に配属された後も1期違いで仲よくて、私の同期の水美舞斗(みなみ・まいと さん、現専科スター)ときわちゃんの同期の桜舞しおん(おうま・しおん さん、現オッジェンヌの力丸莉帆さん)くんの4人で、『ファントム』の東京公演中に富士急ハイランドに行ったことをよく覚えています。休演日にバスに乗ってね。
きわちゃんが退団して、先日初めて一緒にお茶をしました。私が以前に『ライムライト』で演じた役を、今度はきわちゃんが演じるのも楽しみで。そんなご縁もあり、改めて、特別な存在だなと思います。これからもずっと関わっていきたい大切な人です。
実咲さんの同期の95期生、今も現役で活躍されている方々がいらっしゃいますね。
実咲:先日、タカラヅカ・スカイ・ステージ(CSの宝塚歌劇専門チャンネル)で8人の同期生たちが集まってトークをする番組『集まれ! 95期』を見て、最高に面白かったです(笑)。同期生の活躍は目ざましく、トップスター3人がそろっているのはまさに今。みなさんおっしゃいますが現役時代は本当にハードで、さらにトップさんはたくさんのやらなければならないことや大きな責任があると思います。そんな環境のなかでも、笑いあって励ましあえる同期がいるのは心強いこと。とても誇らしい存在ですね。
今年は柚香さん、月城さんが退団されます。退団された後、もしかしたら同じステージで共演されることがあるかもしれないですね。
[※柚香 光(ゆずか・れい)さんは現花組トップスター、月城かなと(つきしろ・かなと)さんは現月組トップスター]
実咲:「95期全員が退団したら、95期公演をしたい」と勝手に考えています(笑)。全員を集めて文化祭みたいなのをやったらよくない?、っていうのを自分が退団してすぐあたりからずっと言っているんです。実現させたいな。
写真をもっと見るジブリアニメ原作の舞台『千と千尋の神隠し』には今回初参加ですね。原作にはどんな印象を持たれていますか?
実咲:初めてアニメの映画を観たとき、ハクが千尋に「この橋を渡る間は息を止めるんだよ。じゃないと魔法が解けるから」と言うときに一緒に息を止めていました。今回の稽古場でも止めています。青蛙がピョンと出てきて「はっ」として魔法が解けるところも、一緒に「はっ」としちゃう、そんな作品です(笑)。曲も好きです。テーマ曲の『いのちの名前(あの夏へ)』が大好きで、タカラヅカにいたときにファンイベントで歌ったこともあるほど。歌詞も曲調も、すごく魅力的ですよね。
今日は記者会見のあとの取材ということで、華麗な衣装でご登場いただきました。ほかの出演者のみなさんの衣装もどことなく『千と千尋の神隠し』の世界観が感じられて、とても素敵でしたね。
実咲:本当に! みなさん、お稽古場ではジャージ姿なので、今日は本当に華やかでした。「和モダン」がテーマの衣装セレクトだったので、『千と千尋』っぽい雰囲気だったかもしれないですね。今日のように大きな製作発表会見があるのは久しぶりです。今回はロンドン公演もあり、たくさんの方に興味を持っていただいていることを感じで身が引き締まりました。
[※2月29日に『千と千尋の神隠し』の製作発表記者会見が行われた]
写真をもっと見るリンと千尋の母役、ということで同じ宝塚歌劇出身の妃海 風(ひなみ・ふう)さんと華 優希(はな・ゆうき)さんとのトリプルキャスト。どのようにご自身のカラーを出されているのですか?
実咲:たどり着くところは同じになってしまうのかと思いきや、それぞれの演じ方を見るとやっぱりみんな違うんです。もちろんセリフの解釈の違いもあり、ふたりのリンを「あのセリフをそうやって言うのね」と思いながら見ていることもあります。
『千と千尋の神隠し』は映画の印象がすごく強くて、2022年の初演の舞台を観たときに原作が持つ印象や期待を裏切られることがなく、意識して寄せていたわけではないと思うのですが、それぞれのキャストがそれぞれの役に想像以上にグッとはまっていたんです。
私は今回から参加させていただくので、初演をベースに原作に寄せた方がいいのかなと思いながらも、「いや、寄せたらただの物真似になっちゃうから」と自分なりの解釈で自分がやる意味があるように演じた方がいいなと思うこともあり、そこをうまくすり合わせるのが大変でした。でもどうしても映画のセリフの「千尋、◯◯でしょ?」というときの声のトーン、喋り方が耳に残っていて。でもそこ(アニメ)じゃなくて、人が演じるというところをもっと追求しなければいけないなと思って稽古場ではもがいていました。
千尋のお母さんって、とても冷たい印象ですよね。私は母親ではないですが、自分の義妹が子どもに接するときに、ああいう吐き捨てるような話し方や冷ややかな態度をとっているのは見たことがなかったんですよ。ですが、実際にお子さんのいる共演者の方に聞いたら「千尋の母にとっては自分が望んでいない引越しかもしれないよ。そんなときに多感な年齢の娘がわがまままじりに『イヤだ』とか言ったらものすごくイライラするかも。そんなリアルもある」と。それを聞いてなんとなく腑に落ちたんですよね。望まない環境の中で、難しい年頃の子どもを抱えている母親の気持ちがなんとなく理解できるようになりました。
たしかにお母さんの千尋への態度だけを切り取ってみると、「本当に自分の子どもなのかな?」と思うほどですね。
実咲:そうですよね。でも日常にはそんなリアルが流れていると思うんです。自分が発する言葉の中に、声だけじゃない、人としての湿度や温かみが残せたらいいなと思います。
最近の舞台はプロジェクションマッピングを使うことが多いですが、『千と千尋』は人力ですよね。
実咲:本当にすごいんですよ! ハクが龍になる場面、初演で観ていたときは知らないうちに龍が出てきて驚いたのですが、稽古場で見ていたら龍1体に4人くらいの人が関わっていて、「はぅ、はぅ」という声も人が出しているんです。「これはこういう仕組みなんだ」ということがあちこちにあって、それを知れるのが楽しかったです。すべて完成された裏側が見られるのは再演のありがたみですね。
写真をもっと見るトリプルキャストの妃海さん、華さんとのエピソードはありますか? 実咲さんから「これは言いたい!」的な。
実咲:ゆうか(妃海さん)は、稽古場で結構な量のポテトチップスを食べているんですよ。で、お酒も好きなので、「あなた、健康に気をつけなさいよ」と声を大にしてここで言っておきます(笑)。
華ちゃんはぽやんとしてます(笑)。この間たまたま時間が合ったから火鍋に行くことになったんですよ。華ちゃんが「新宿にすごくおいしい火鍋のお店があるんです」と言うので検索してみたら評価が4.6くらいで、「すごくいいじゃん、行こうよ!」ってなったんです。そのお店に着いたら華ちゃんが「あれ? 私の知っているお店じゃない」って言って、お店に入っても「うーん、やっぱり違います」と。でもせっかく来たから食べよう、ということでいただいたらとてもおいしく楽しかったのでよかったんですけど、本当はどこのお店だったのか知りたいじゃないですか。そしたら、「新宿じゃなくて神泉かもしれないです…」って。そもそも地名が違っていて、“シン”という音しか合ってないんですよ。漢字すら違う。そこがね、すごく素敵だと思うのでそのままでいてください(笑)。
こんな役に挑戦してみたいとか、10年後はこんなことをしていたいとか、今後の目標を教えてください。
実咲:その年齢のときに年相応というか、そのときの自分に合う役に出会えたら幸せだなと思います。今回、原作ではリンが14歳、千尋のお母さんは35歳設定なんですよね。お母さんの方は自分とリンクするような年齢ですね。あと、自分とはかけ離れている役にも出会いたいですし、関西弁を活かせる役もやってみたいです。関西弁でしゃべるクセのある悪女(笑)。舞台でも映像でも、そんな役を演じてみたいですね。
写真をもっと見る次回は実咲さんのオフを深掘り! ハマっていることなどを詳しくうかがいます。お楽しみに。
撮影/黒石あみ 構成・文/淡路裕子
舞台『千と千尋の神隠し』
【公演日程】
2024年3月11日(月)~2024年3月30日(土) 東京都 帝国劇場
2024年4月7日(日)~2024年4月20日(土) 愛知県 御園座
2024年4月27日(土)~2024年5月19日(日) 福岡県 博多座
2024年4月30日(火)~2024年8月24日(土) イギリス ロンドン・コロシアム
2024年5月27日(月)~2024年6月6日(木) 大阪府 梅田芸術劇場メインホール
2024年6月15日(土)~2024年6月20日(木) 北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
【スタッフ】
原作:宮﨑 駿
翻案・演出:ジョン・ケアード
共同翻案:今井麻緒子
【キャスト】
千尋:橋本環奈 上白石萌音 川栄李奈 福地桃子
ハク:醍醐虎汰朗 三浦宏規 増子敦貴(GENIC)
カオナシ:森山開次 小㞍健太 山野 光 中川 賢
リン/千尋の母:妃海 風 華 優希 実咲凜音
釜爺:田口トモロヲ 橋本さとし 宮崎吐夢
湯婆婆/銭婆:夏木マリ 朴 璐美 羽野晶紀 春風ひとみ
兄役/千尋の父:大澄賢也 堀部圭亮
父役:吉村 直 伊藤俊彦
青蛙:おばたのお兄さん 元木聖也
頭:五十嵐ゆうや 奥山ばらば
坊:武者真由 坂口杏奈
俳優
実咲凜音
みさき・りおん/1989年7月5日生まれ、兵庫県出身。元宝塚歌劇団宙組トップ娘役。2009年に95期生として宝塚歌劇団に入団。宙組大劇場公演『Amour それは…』で初舞台を踏み、花組に配属。2010年『麗しのサブリナ』で新人公演初ヒロイン。続く『CODE HERO』で東上公演初ヒロイン。以後、2度の新人公演と東上公演のヒロインを務め、宙組に組替え。2012年宙組大劇場公演『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』で娘役トップに就任。2017年『王妃の館 -Château de la Reine-/VIVA! FESTA!』で宝塚歌劇団を退団し、舞台を中心に活躍を続けている。かつての相手役だった元宙組トップスター・朝夏まなとさんのコンサート『MANA-TRIP』への出演が決まっている。
▶️Instagram:@misaki_rion
あわせて読みたい