【目次】
強さと弱さが同居する、アンバランスさに魅力を感じた
「こんなかっこいいキャラクター、やらせていただけるんですか?」
役が決まったとき、そう思ったと振り返る。自らの気持ちを表現する穏やかで低い声には、どこか子供のような無邪気さも滲んでいた。
津田さんが「かっこいいキャラクター」と評するのは、今冬の話題映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』で吹替をつとめたウルフ。騎士の国の勇敢な王女ヘラの幼なじみでありながら、王国の脅威となる悪役を「強さと弱さが同居するアンバランスさがあり、そこが最大の魅力」と分析する。
「父親との確執、そして王女ヘラに対するねじれた愛情―監督からも『内包している鬱屈感のようなものを出してほしい』とリクエストをいただきまして。彼が抱えている弱さをどこまでセリフにのせるか…特にヘラとの会話において、そのバランスにいちばん時間と神経とエネルギーを使いました。ウルフのような突き抜けきらない悪役は、非常に人間くさくて、ドラマティック。突き抜けた悪役とはまた違う、やりがいがあります」
そんなウルフへの気持ちについて、こうも教えてくれた。
「思った以上に、こいつヤバいぞと(笑)。定石だとこうなるよね、というシーンで『あれ? 噓でしょ?』とびっくりするような行動をとる。ちょっと今までにないタイプの男だなと感じました。予想外のものを持っている、それも彼のひとつの魅力だと思います」
大ヒット作『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの帰還。世界中の映画ファンがこの日を待ちわびていたことは述べるまでもないが、津田さんも自他ともに認める映画好き。そんな津田さんが考える、今作の見どころとは。
「ベースとなっているのは、人間同士の凄惨なる戦争の物語。ですが、そこに異形のものたちが登場することで、一気にファンタジー作品になってくる。『これはやっぱりファンタジーなんだ』と思わせる、そのバランスが他の作品とはまた違う面白さですよね」
同シリーズの原作である長編小説『指輪物語』は、〝ファンタジーの元祖〟とも呼ばれるが「今回の映画も、すごく古典のにおいがするんですよ」と語る。
「ヘルム王を演じられている市村正親さんが、特にその雰囲気を醸し出してくださっているんです。シェイクスピア作品も演じてこられているからでしょうか。市村さんのヘルム王には、古典の王ならではの威厳みたいなものが漂っていて。『そうだ、これは古典のよさがある作品なんだよな』と改めて感じさせられました。ブラッシュアップされた現代的なアニメーションとしても話題になっていますが、最新の技術と古きよきものがミックスされた作品になっていると思います」
もっと振り切りたい、もっと突き抜けたい
吹替を担当したウルフを「かっこいい」と評するが、津田さん自身も「かっこいい」と評される人だ。穏やかで柔和な人柄、芝居を突き詰めるストイックな姿に、現場をともにしたスタッフたちが「また一緒に仕事がしたい」「こんなにも素敵に歳を重ねている人に久しぶりに出会った」と次々に口にする。
年齢も性別も問わず、多くの人を魅了する津田さん自身が目標とする人物像とはどんなものなのだろうか。問いかけてみると「昔は、偉人になりたかったんです」と想像もしていない答えが返ってきた。
「小学生のころ、いわゆる偉人伝を読むのがすごく好きで。今もね、偉人の名言とか好きなんですよ。でも、遠いんだよなぁ…とても偉人にはなれないです」と照れくさそうに笑う。
役者として偉人を演じた経験について質問すると「実際の人物を演じたことって、実はあまりないんです。それに、偉人を演じるなんてプレッシャーです。中身がとても追いついていかないですから」そう謙遜する姿もまた津田さんらしい。
「新しいジャンルを切り拓く、世の中に革命を起こす―偉人と呼ばれる方々は、いい意味で変人だったり、どこか狂っている部分がありますよね。そこが好きなんです。僕ももっと振り切りたい、突き抜けたいと思っているんですけど…」とこれから歩んでいく道を見据える。
「どこか哲学的な話になってしまうんですが、自分という存在が溶けて消えていく瞬間みたいなものが、演技の理想形なのかなと感じるんです。今の僕はまだ自我を持て余していて、理想から遥か遠いところにいる。いつかその理想にたどり着けるといいなと思っているんですけど、やっぱりすごく難しいですね」
己が決めた道を極めようとするプロフェッショナルの言葉。その端々に、長く第一線で活躍を続ける理由が詰まっているように感じた。そう伝えると、「そんなふうに評価していただけるのはありがたいんですけど、『とんでもない! 申し訳ない!』という気持ちになるばかりで」と恐縮する。
「自分の芝居を見ると『まだまだくっそ下手だなぁ』と思います。はやく突き抜けたいんですけど、遠いですねぇ…」
高みを目指し続ける〝求道者〟は次の一年をどう過ごすのか。2025年の抱負を聞いてみた。
「毎年同じですね、『いい仕事ができるように頑張ります』です。ひとつひとつの仕事を、スピード感を持って、なおかつ丁寧に。こなすのではなく、対峙していく。今、いろいろな仕事・役・作品に携わらせていただいていて、出合わせていただいていて、本当にありがたいことです。フィールドを広げるって、面白い。いろいろなことがやれるよう頑張りながら、深掘りもする。そんな同時進行の一年にできたらと思います」
津田さんにとって〝働く〟とは?
「〝働く〟かぁ…なんでしょうね。僕の場合は、好きなことを仕事にしたので働いているという感覚があまりないのかもしれません。もちろん仕事なんですけれども、どこか〝遊び〟といいますか、〝研究〟といいますか。個人的な趣味の延長線上でずっと研究をしている、そんな感覚があるんです。
でも、しんどいことのほうが圧倒的に多い。8〜9割はしんどいですよ。だけど、何かがうまくいった瞬間―たとえば芝居がうまくいったりとか、理想のものに近い表現ができたりすると、ちょっと楽しかったりする。
人生における仕事の分量って、とても大きいものです。しんどいこともいっぱいありますけど、だからこそ、ほんの少しでも楽しめる部分があるといいですよね。
それは仕事の内容でも、人間関係でもいい。僕は好きなことを仕事にできて、生活もできている。実にありがたいことです。その一方で、どこか趣味を仕事にとられてしまったようなもったいなさもたくさん感じているんですけどね(笑)」
【Information】映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』大ヒット上演中!

LOTR TM MEE lic NLC. © 2024 WBEI
J・R・R・トールキンの名作小説『指輪物語』を実写映画化したファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の前日譚を描く、オリジナルストーリーの長編アニメーション。滅亡の危機に瀕した騎士の国を舞台に、若き王女が敵となった幼なじみと対峙する。
吹替/字幕版同時公開 ※一部劇場除く〈Dolby CinemaR/Dolby AtmosR/4DX/MX4D/IMAXR〉
Profile
津田健次郎
つだ・けんじろう/6月11日生まれ、大阪府出身。声優としての主な出演作に『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』海馬瀬人役、『ゴールデンカムイ』尾形百之助役、『呪術廻戦』七海建人役など。2024年は第53回ベストドレッサー賞 芸能部門も受賞し、さらなる注目を集めている。
[衣装・津田さん分]メガネ¥39,600(Eye’s Press〈H-fusion〉) その他/スタイリスト私物
撮影/谷口 巧(Pygmy Company) スタイリスト/小野知晃(YKP)ヘア&メイク/浅津陽介 構成/旧井菜月
あわせて読みたい