主観的・感情的・詩的な表現に適しているといえるでしょう。
「寂しい」と「淋しい」…同じ「さびしい」でもなぜ漢字が違う?

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「寂しい」と「淋しい」は、どちらも「さびしい(さみしい)」と読み、意味も似ている言葉です。しかし実は、文章や本の中で使われほうが異なり、表すニュアンスが違います。
それぞれの意味を知った上で、漢字自体が持つ意味合いから紐解いていきましょう。
「寂しい」と「淋しい」の意味と違い
「寂しい」と「淋しい」は、漢字は違えど両方「孤独感」「人恋しさ」「空虚感」などの感情を表す言葉です。辞書でも以下のようにまとめられており、基本的な意味は同じと考えて問題ありません。
さびし・い【寂しい/×淋しい】
[形][文]さび・し[シク]《「さぶし」の音変化で、動詞「寂 (さ) びる」に対応する形容詞》
1.心が満たされず、物足りない気持ちである。さみしい。「—・い顔つき」「懐が—・い(=所持金が少ない)」「口が—・い」
2.仲間や相手になる人がいなくて心細い。「一人—・く暮らす」
3.人の気配がなくて、ひっそりとしている。さみしい。「—・い夜道」
小学館『デジタル大辞泉』より一部引用
「寂」は常用漢字であるため、「寂しい」のほうが一般によく使われる表記です。「淋」は常用漢字表に含まれない表外漢字なので、一般文書では避けられる傾向にあるでしょう。
また、使い分ける際は常用漢字かどうかのほかに、以下のようなニュアンスの違いも含まれている場合があります。
「寂しい」:心が満たされない・心細いといった心情のほか、物理的に何かが足りない・閑散としているなどの状態も表す
「淋しい」:感情がにじむような叙情的な印象
このニュアンスの違いには、それぞれの漢字自体が持つ意味が関係しています。
それぞれの漢字が持つ意味
「寂(じゃく)」とは、「寂然」「静寂」といった言葉にも使われるとおり、静けさや孤独の意味合いを含む漢字です。音のない状態・物静か・孤独の受容などのイメージがあります。
辞書によると「寂」には複数の意味があり、「寂しい」に関係するものは以下のとおりです。
じゃく【寂】
[常用漢字] [音]ジャク(呉) セキ(漢) [訓]さび さびしい さびれる
1.ひっそりと静かなさま。さびしい。「寂寂・寂然 (じゃくねん) ・寂寞 (じゃくまく) /閑寂・静寂・幽寂」
小学館『デジタル大辞泉』より一部引用
また、「さび」と読む場合は、主に次のような意味を持つとされています。
さび【寂】
《動詞「さ(寂)ぶ」の連用形から》
1. 古びて味わいのあること。枯れた渋い趣。「—のある茶碗」
小学館『デジタル大辞泉』より一部引用
「寂しい」は物理的に閑散とした様子や情緒なども包括した言葉で、必ずしもマイナスの感情だけを表すとは限りません。
一方「淋(りん)」は、辞書で以下のような意味があるとされています。
りん【×淋】
[人名用漢字] [音]リン(呉)(漢) [訓]さびしい
1. 水が絶え間なくしたたる。「淋雨・淋漓 (りんり) 」
小学館『デジタル大辞泉』より一部引用
この漢字の意味から「淋しい」は、涙がしたたるような孤独感をイメージさせる表記です。

どちらが正解?「寂しい」「淋しい」の使い分け
「さびしい(さみしい)」の漢字表記として、「寂しい」「淋しい」のどちらも間違いではありません。ただし、一般的な使い分けのルールはあります。
「寂しい」は常用漢字のため、教科書や新聞・役所・公的な出版物などで使われる表記です。一方「淋しい」は表外漢字である上に、感情を語るニュアンスが強いため、小説や詩・個人のSNS投稿・手紙などで多く見られます。
使い分けの基準は、読みやすさや文書の目的、そしてどのような情緒を表現したいのかです。「どちらが正しいか」ではなく、「どちらがふさわしいか」を考えて判断しましょう。
たとえば、企業の広報文や自治体のお知らせなど、公的な文章では「寂しい」のほうがふさわしいでしょう。しかし詩や小説では、あえて「淋しい」と表記することで、感情の揺れや余韻を強調する効果が生まれます。

文体のトーンや読み手との距離感に応じて選ぶことは、伝わりやすさにもつながる書き手の工夫です。
「寂しい」と「淋しい」の違いがわかる例文と使い分け方

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意味の違いだけでなく、実際の使い方を見るとそれぞれのニュアンスがより伝わりやすくなるはずです。具体的な例文とともに、子どもにも説明しやすいよう使い分け方を整理しました。
意味の違いが伝わる例文
同じ「さびしい(さみしい)」と読む言葉でも、表記によって受け取る印象が少し変わります。場面ごとに「寂しい」と「淋しい」の使い分けをイメージしやすいよう、日常の中で感じる寂しさ・淋しさを例文にしてみました。
【「寂しい」の例文】
・ひとりで過ごす休日は、少し寂しい。
・子どもが寝た後のリビングは、にぎやかだった時間がウソのように寂しい。
・周りが急に静かになって、なんだか寂しい気持ちになった。【「淋しい」の例文】
・夕暮れの道をひとりぼっちで歩いていたら、ふと淋しさがこみ上げてきた。
・手紙の最後に書かれた一言が、淋しく感じられた。
・久しぶりに会った友人がどこか他人行儀で、とても淋しい。
もちろん、「淋しい」の例文を「寂しい」に置き換えても意味は通じます。ただ、内面の感情をより強く表したいときには、「淋しい」を使ったほうがよいでしょう。
子どもにも説明しやすい使い分けのポイント
言葉をどんどん覚える年ごろの子どもを育てていると、表記の違いについて聞かれることも多いかもしれません。「寂しい」と「淋しい」の違いを子どもにわかりやすく説明するには、次のように伝えてみることをおすすめします。
・「寂しい」は「しん…としたさびしさ」(静かな印象)
・「淋しい」は「じわ…っとくるさびしさ」(感情がにじむような印象)
子どもには、「『どんなさびしさなのか』を漢字で選ぶんだよ」と教えると、より理解が深まるでしょう。本を読むときにも、表記の違いによるニュアンスがわかれば、情景や登場人物の心情をイメージしやすくなるはずです。
「さびしい」と「さみしい」…読み方で意味が変わる?

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「さびしい」と「さみしい」はどちらも正しい読み方ですが、どちらで読めばいいか迷ったことのある人も多いのではないでしょうか。ふたつの読みの違いや使い分け方について解説します。
意味に違いはない
「さびしい」と読んでも「さみしい」と読んでも、基本的に意味の違いはありません。実際、どちらも辞書に記載されている読み方です。
ただ、鎌倉時代までの文献には「さみしい」に該当する言葉はなく、「さみしい」という読み方が登場したのは江戸時代以降とされています。
現代でも公文書や新聞などでは「さびしい」のほうが一般的なので、公式な場やビジネスシーンでは「さびしい」と読むのが基本です。プライベートの会話であれば、「さみしい」と読んでも問題はありません。
使い分けに迷ったときの考え方
「さびしい」と「さみしい」の読み方に迷ったときは、以下の2点を基準にすると判断しやすくなります。
・表したいのが感情的な「寂しさ/淋しさ」か、ひっそりとした様子か
・文章で平仮名を使うのか口頭で言うのか
感情的な「寂しさ/淋しさ」を表すときには「さみしい」でも問題ありませんが、ひっそりとした様子を表すときは「さびしい」とするのが一般的です。
また、常用漢字表では「寂しい」の読みは「さびしい」なので、文語的には「さびしい」が主流となっています。ただ、口語でやわらかい響きが欲しいときは「さみしい」としてもよいでしょう。
「さみしい」はやわらかく親しみのある響きですから、日常会話ではよく使われます。子どもとの会話やSNSなど、気軽なコミュニケーションの場では「さみしい」のほうが自然に感じられるかもしれません。読み方の選択も、表現する場面に合わせて柔軟に考えるのがおすすめです。
まとめ

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「寂しい」は一般的な表記で静かな印象、「淋しい」は感情的かつ文学的な表現として使われやすい
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意味に大きな違いはないが、漢字の持つイメージに差がある
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子どもに説明するなら「表す気持ちの違い」に着目して教えてあげるのがポイント
表記の違いは「意味の違い」というよりも「気持ちの伝え方の違い」です。これらを理解することが、自分の気持ちをより正確に、豊かに表現するためのヒントとなるでしょう。「寂しい」と「淋しい」のニュアンスを知って、もっと深く文章を楽しんでみませんか。
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Domani編集部
Domaniは1997年に小学館から創刊された30代・40代キャリア女性に向けたファッション雑誌。タイトルはイタリア語で「明日」を意味し、同じくイタリア語で「今日」を表す姉妹誌『Oggi』とともに働く女性を応援するコンテンツを発信している。現在 Domaniはデジタルメディアに特化し、「働くママ」に向けた「明日」も楽しむライフスタイルをWEBサイトとSNSで展開。働く自分、家族と過ごす自分、その境目がないほどに忙しい毎日を送るワーキングマザーたちが、効率良くおしゃれも美容も仕事も楽しみ、子供との時間をハッピーに過ごすための多様な情報を、発信力のある個性豊かな人気ママモデルや読者モデル、ファッションのみならずライフスタイルやビジネス・デジタルスキルにも関心が高いエディターたちを通して発信中。
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