「情けは人の為ならず」は、親切な行いがいつかは自分に戻ってくるという意味です。
Summary
- 「情けは人の為ならず」の正しい意味は〝親切な行いがいつかは自分に戻ってくる〟ことである
- 「情けをかけて助けてあげることは相手のためにならない」という認識は間違い
- 類義語には「善因善果(ぜんいんぜんか)」「人を思うは身を思う」などがある
Contents
【目次】
「情けは人の為ならず」の正しい意味とは
「情けは人の為ならず」は有名なことわざですので、会話の中で使ったことがある人もいるでしょう。まずは、このことわざの正しい意味とその続きについて解説していきます。
正しい意味は「人にした親切が自分に戻ってくる」こと
「情けは人の為ならず」は、親切な行いがいつかは自分に戻ってくるというポジティブな意味の言葉です。辞書でも確認して、正しく把握しましょう。
【情けは人の為ならず】なさけはひとのためならず
人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくる、ということ。誤って、親切にするのはその人のためにならないの意に用いることがある。
小学館『デジタル大辞泉』より引用

「情けは人の為ならず」には続きがある
「情けは人の為ならず」はことわざとして単独で使われるのが通例です。ただし、正しい意味である「人にかけた親切はやがては自分に戻ってくる」という本質をわかりやすく表現するために、さまざまな人や団体が独自に言葉を付け加えているケースはあります。
「情けは人の為ならず」に続くフレーズ
・情けは人の為ならず、巡り巡って己(おの)が為(ため)(巡り巡って、結局は自分のためになる)
・情けは人の為ならず、いずれ我が身に返る(いずれ自分の身に返ってくる)
「情けは人の為ならず」は誤用に注意
「情けは人の為ならず」は、辞書の意味ににも書かれていたように、誤用が広まってしまっている表現でもあります。たとえば文化庁発表の「国語に関する世論調査(平成22年度)」で、「情けは人の為ならず」の意味をどう捉えているか調査した結果、半数近い人が誤った認識をしていました。

「人に情けを掛けて助けてやることは、結局はその人のためにならない」という意味で認識している人が、なんと45.7%を占めていたとのこと。
しかし、なぜ誤用が広まってしまったのでしょうか? その理由を確認しておきましょう。もしこれまで間違って覚えていた方は、しっかりと認識を正しておくことが大事です。
誤用が広まった原因は「ならず」の解釈の間違い
「ならず」は打消しの意味を持っているのは多くの方が認識しています。しかし、「情けは人の為ならず」の場合は、どこに打ち消しが掛かっているかの解釈によって誤解が生まれてしまいました。
【本来の解釈】
ならずが「人の為」に掛かる:「情けをかけるのは人の為ではない(自分の為にもなる)」
【誤った解釈】
ならずが「為」に掛かる:「情けをかけると人の為にならない」
上記のように整理してみれば、より理解が深まるはずです。
「情け」は愛情や思いやりを表す
勘違いが起きやすい理由の1つに、意味の認識に変化が起きたことが挙げられます。現代における「情け」は同情の意味合いが強まっていますが、実は下記のとおり、思いやり・情愛・風情・風流心という4つの意味を持っている言葉です。
【情け】なさけ
1. 人間味のある心。他人をいたわる心。人情。情愛。思いやり。
2. 男女の情愛。恋情。また、情事。いろごと。
3.風情。おもむき。あじわい。
4. もののあわれを知る心。風雅を解する心。風流心。
小学館『デジタル大辞泉』より引用
「情け」の意味をすべて把握していれば、誤解してしまう可能性は避けられるでしょう。

「情けは人の為ならず」では「人情」や「思いやり」といった意味で用いられているのがポイントです。
「情けは人の為ならず」の由来
「情けは人の為ならず」は仏教の考え方に由来しているという説や、曾我物語に由来しているとする説が存在します。
「情けは人の為ならず」は仏教の考え方に由来しているという説
仏教の「因果応報(いんがおうほう)」の考え方が、「情けは人の為ならず」の由来となっているとする説も存在します。
因果応報とは、善い行い(善因)をすれば必ず良い報い(善果)が返ってきて、悪い行い(悪因)をすれば必ず悪い報い(悪果)が返ってくるという仏教の教えです。「人に情けをかけることは、その人のため“だけ”になるのではなく、善行を積むことで、やがては自分自身の良い結果につながる」という因果応報の考え方が反映されているのです。
また、仏教における「布施(ふせ)」の考え方も関連しています。布施とは、他者に施しを与えることで、その見返りを求めない行為です。一見、自分の利益にならないように見えますが、布施の行いをすることで自らの心を清め、精神的な喜びを得ることができます。これは「人に情けをかけることで、最終的に自分自身の心の豊かさにつながる」という、「情けは人の為ならず」の本来の意味と共通しています。
「情けは人の為ならず」は誰の言葉? 曾我物語に由来しているとする説
「情けは人の為ならず」という言葉の成り立ちは、鎌倉時代に編纂された軍記物語『曽我物語』に由来しているとされる説もあります。由来には不透明な部分も残されていますが、実際に『曽我物語』で「情けは人の為ならず」のフレーズが登場した後、頻繁に用いられるようになりました。

一方で、「情けは人の為ならず。めぐりめぐって己(おの)がため。」という言葉から生まれたことわざであるともいわれています。
どちらにせよ「情けは人の為ならず」は、日本に古くから定着している言葉であるといえるでしょう。
【実際の体験談】ビジネスシーンでの「情けは人の為ならず」
ここでは、実際にビジネスシーンで「情けは人の為ならず」を使った際の成功談や失敗談を紹介していきます。
【episode1】責任や信頼関係を軽んじる言い訳にしてはいけない
Hさん/管理職(43)
部下が顧客対応で失敗した時のことです。クレーム対応を終えた彼は、悪びれる様子もなく「相手のためにならないので、『情けは人の為ならず』ということで深入りしなかった」と報告してきました。顧客が無理難題を言ってきたと主張して、それ以上の対応を怠ったことを正当化しようとしていたのです。u003cbru003eu003cbru003e私はすぐに彼の言葉を訂正し、u003cstrongu003e「そのことわざは、人に親切にすることが最終的に自分に返ってくるという意味だ。情けをかけないことを正当化する言葉ではない」u003c/strongu003eと強く指摘しました。この言葉は、ビジネスにおける責任や信頼関係を軽んじる言い訳にはならないと伝えたのです。u003cbru003eu003cbru003eこの出来事を通じて、言葉の正しい意味を理解しないまま使うことの危険性と、部下への言葉使いを指導する重要性を痛感しました。
【episode2】短期的な損得勘定ではなく、長期的な視点で行動することが重要と学んだ
Nさん(37)
まだ若手のころ、新規プロジェクトの最終段階で、他部署の先輩の作業に大きな遅れが出ていることが判明。自分の仕事も忙しく、正直「関係ない」と思って見過ごそうとしたのですが…その日の終業間際、当時の上司に呼び出されました。u003cbru003eu003cbru003e事の次第を把握していた上司は、「Nさんの仕事は完璧だが、あのプロジェクトではチーム全体の成功が大事だよ。u003cstrongu003e情けは人の為ならずというだろう? 自分が大変なときにこそ、他者を助ける。それが巡り巡って、自分の成長や評価につながるものだu003c/strongu003e」と諭してくれたのです。思わずハッとさせられ、その夜さっそく先輩の作業を手伝いました。u003cbru003eu003cbru003e結果、プロジェクトは無事成功し、その先輩とも深い信頼関係を築くことに成功。短期的な損得勘定ではなく、長期的な視点で行動することの重要性は、この時に学んだと思っています。
「情けは人の為ならず」の使い方と例文
誤用されやすい「情けは人の為ならず」ですが、使い方のポイントと例文をチェックすれば、間違った使用を回避できます。
「情けは人の為ならず」を使うコツは、他人や自分に「ある人を助けよう」と言い聞かせる際に用いることです。ポジティブな意味を持っている言葉であるため、アドバイスや教訓にも使えるでしょう。
例文を確認すれば、自然に使いこなせるヒントになるはずです。

アドバイスとして使う
「情けは人の為ならず」は、誰かへのアドバイスとして背中を押す際に使える表現です。正しいことだとわかっていても、なかなか心が決まらなくて悩んでいる友人や、勇気が出ない自分に対しても使えるでしょう。
ただ「情けは人の為ならず」を、相手が間違ってマイナスな意味で認識している場合、アドバイスとして使うことで誤解を生む可能性があるため、そのあたりを確認しておくと安心かもしれませんね。


