彼女はほしい。でも、「モテない芸人」のポジションも捨てがたい
白いスーツでネガティブナルシストな言葉を発するこじらせキャラがウケて、人気急上昇中の栗谷さん。そのキャラは、ユニット「カリスマ3」でも発揮されましたが、同時に「35歳にして初彼女ができた」ことでも話題に。そこに至るまでには、多くの傷ついた経験がありました。
語り/栗谷(カカロニ)
中学生から19 歳まで
女性と話すことはありませんでした
実は、小学生のころはモテていたんです。足が速いというだけでちやほやされ、自信もあったから、好きな女の子にメールで告白したりして。ところが、そのメールが女子の間でチェーンメールとして拡散されてしまいました。それを機に女子全員から無視され、僕は女性が怖くなり、話しをすることも一切なくなりました。はい、19歳ぐらいまでずっとです。
クラブチームに入っていたくらい真剣にやっていたサッカーは、徐々に自分のレベルがわかってきて、プロへの夢は断念。代わりに見つけた夢が、お笑い芸人でした。決まっていた大学入学を蹴って、そこから1年かけてお金を貯め、NSC(吉本総合芸能学院。吉本の芸人養成所)に入りました。なのに、初日でメンタルをやられてしまった。有吉さんに憧れていた僕は、初回の授業で、片っ端からみんなにあだ名をつけ、毒を吐いたのはよかったけど、それがまったく面白くなかった。センスも才能もないのに、とんがってイキがって、じゃあ「ネタは面白いのか?」という目で見られるのに耐えられず、行かなくなってしまったのです。養成所に払った1年分のお金は、戻ってきませんでした。そこから、やりたいことがわからなくなって、20歳にして遅めのヤンキーデビュー。そこでもやっぱり女の子とうまくしゃべることはできませんでした。
売れてないのに女の子と遊ぶのは、なんか違う
ヤンキーのあと人力舎の養成所を経て、もういちど芸人を目指したのですが、やっぱりこじれてばかりでした。
先輩から誘われた合コンでは、男性4:女性3という想定外のメンバーになり、3組のカップルが誕生して、僕だけがその場に残るという苦い経験をしたり。うまくしゃべれないから仕方ないけど、完全に心折れて、ひとり残って尾崎豊を歌い、初めての合コンは終わりました。
合コンは、それっきりです。一方で、「芸人は遊んでなんぼ」「お金を浪費してこそ」みたいな古い考えももってました。でも、何にお金を使ったらいいかわからない。遊ぶ代わりに、寿司と焼肉を交互に食べて、借金を重ねていきました。その後、ライブに出るようになって借金を返し始めましたが、全部返し終わったのは、それから10年以上あとの最近になってからです。
ライブに出るようになると、僕にも「ファン」だという女性が増えてきます。だからといって、ファンに手を出すことはしたくない。DMが来て誘い文句が書いてあっても、「ありがとうございます」しか返しませんでした。だって、売れてもいないのに女の子と遊んでるのは、なんか違う。恋愛したいくせに、こういうところは変にこだわりがあるんです。
売れたら、女優さんやグラビアアイドルと
つき合えるかもしれない
2017年、今の事務所(グレープカンパニー)に入ってから、いろんなことが変わっていきました。オーディションの機会が増え、寄席に出るようになり、テレビに出る機会も増え…。
でも女性と話すのが苦手なのは変わらず、僕はいつしか「マスクをしないと女性としゃべれない」までになっていました。また、BBQに誘われてそれが合コンみたいな場だったので、ぶちキレて帰って、近くの喫茶店でひとりネタを書いたりもしました。つらいけど、売れるまでは頑張ろう。だって、売れたら女優さんとかグラビアアイドルとかと、つき合えるかもしれないんだし。
マッチングアプリで会った女性は総勢70人
女優さんやグラビアアイドルさんとつき合うなんていうのは、現実では起こりませんでした。その代わり、僕はマッチングアプリを手に入れました。最初は番組の企画で始め、実際にアプリ経由で女性と会うようになり、そうするうちに「話すことが楽しい」と思えるようになっていったのです。30歳を過ぎてようやく、です。 僕のやり方は、自分から「いいね」はせずに、相手から「いいね」が来たら「いいね」を返す。最初の20~30人は、女性に慣れていない自分のリバビリとしてランチかお茶を。当日ドタキャンされることはよくありましたし、男性2人を連れてやって来て、笑いながら動画を撮られたこともありました。僕が芸人だとわかっていて、「一発ギャグをやれ」なんて言う人もいました。それでも、リハビリ期間だからと耐えつつ、逆にうまくいきそうになっても、それ以上先には進みません。だって、リハビリ期間ですから。
デート経験を重ねるうち、おかしなジレンマが僕のなかで生じていました。彼女はほしい。でも、「モテない芸人」「彼女ができたことのない芸人」というポジションで仕事が増えてきた今、彼女ができたら仕事がなくなってしまう…。そんな思いを抱えながらも、アプリを始めてからただひとり、僕から「いいね」をした女性がいました。それが、今の彼女です。そのときには、アプリで会った女性の人数は70人近くになっていました。
告白のあとは、僕が号泣
最初のデートは渋谷で。お茶するだけの予定が、話していたらとにかく楽しくて、「このまま飲みに行きませんか」と。こんなふうに自分から言ったのは、初めてです。何時間一緒にいても楽しくて、僕の話に笑ってくれて、こんなに幸せなことがあるのかと思ったほど。正式に交際を申し込んだのは、7回めのデートでした。渋谷の宮下パークのベンチで、「つき合ってください」と。返事は「はい」。僕は大号泣して、彼女はそれを見てまた笑って。昨年の11月末のことでした。 その後、ディズニーから江ノ島まで、デートコースの王道を経験してきましたが、いちばん幸せなのはうちで一緒に過ごす時間です。人並みに結婚だって考えます。でも、幸せになるほど、不安も募ります。いつも周囲から下に見られて、いじられて、それでも生意気にナルシストなことを言う僕のキャラが面白かったのに、幸せになったらどうなるのか。誰も笑ってくれないんじゃないか。 その折り合いを、僕はいつかつけることができるんだろうか。(おわり)
芸人
栗谷
1989年生まれ、神奈川県厚木市出身。2016年5月、すがやと共にお笑いコンビ・カカロニを結成。深夜のバラエテイ番組『ゴッドダン』などでブレイクし、『アメトーーク』(テレビ朝日系)『トークサバイバー2』(Netflix)などに出演。俳優としてドラマ『降り積もれ孤独な死よ』で好演した。2024年M-1グランプリでは、「カリスマ3」として、すがちゃん最高No.1(ぱーてぃーちゃん)、Den(リンダカラー∞)とのユニットで3回戦まで進出。
○公式X:栗谷((くりたに)カカロニ)
○Instagram:カカロニの栗谷
撮影/高木亜麗
取材・文/南 ゆかり