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LIFESTYLE インタビュー

2024.04.01

フリーアナウンサー堀井美香さんが「朗読」を続ける理由〜50代を自分らしくサバイブする方法〜

50歳のタイミングでTBSを退社後、フリーアナウンサーとして活躍する堀井美香さん。ライフワークとして続けている「朗読」へのチャレンジについてお話しを伺いました。

朗読との出会い

27年間アナウンサーとして勤めたTBSを退社し、フリーランスアナウンサーとして活躍中の堀井美香さん。ジェーン・スーさんとの軽妙なやりとりが人気のポッドキャスト番組「OVER THE SUN」も話題です。Domani読者の中にも「互助会員(OVER THE SUN リスナーの総称)」もいるのでは?そんな堀井美香さんがフリーになってから続けている「朗読会」。今回は堀井さんと朗読との出会いから、現在にいたるまで、そして今後挑戦してみたいことを伺いました。

アナウンサーはいつごろから目指されていましたか?

大学時代は公務員を目指して資格スクールに通っていました。そんなとき、大学の事務局の方にマスコミ講座のパンフレットをよかったら受けてみてといただいて。公務員試験には面接もあるし、なにか役に立つかな、と思って講座を受けたのが始まりなんです。だから昔から目指していた、というよりはきっかけがあってそうなった、という感じですね。

アナウンサー業の中で「朗読」との出会ったきっかけは?

アナウンサーってプロフェッショナルな専門性が求められる仕事。実況があったり、取材があったり、キャリアの中でいろいろと分かれていくんですよね。私の場合は育休から復帰したタイミングで「今後、何を突き詰めていこう?」と考えたときに、周りから「読みとかナレーションがうまいね」と褒めていただくことが何度かあって。そこにすがった、という感じです。すごく好きだから、とか自発的なスタートではないんですよね。周りからの評価がよかったからそこをつきつめて行ったんです。

アナウンサーも、朗読も、人からのきっかけによって始まったんですね。フリーになられてからは「朗読会」を続けていらっしゃいますよね。

フリーになってから始めた「yomibasho」という朗読会は次回で4回目になります。TBSを退社した後、お仕事の幅が広くなって自由になっていく中で、なにか軸となるものが必要だなと思って。何年かたって「あれ?私ってなにやってるんだっけ?」とならないように、これだけは絶対やっていこう!と決めました。

朗読会の会場をおさえるのって、今からでも1年後とか2年後しかおさえられないことが多いんです。そうすると、もう先に自分の首をしめちゃうというか、やらざるをえない状況を自分で作ることになるのですが、それが私の性分にすごくあっていて。多分ほっとくとやらなくなっちゃうから。

朗読会の運営なども堀井さんがご自身でやられているんですよね?

はい。内容などはもちろんですが、それこそ会場押さえたり、チケット販売や、ポスター作り、出演者のお弁当や駐車場の手配までやっています。普通だったらイベント会社などを入れるんでしょうけど…。

1人でやっている以上、お客さんのキャパシティには限界があります。ただ、私は規模を大きくしたいというよりは、今の状態でできる規模感で続けたいと思っているので、お客さんが楽しんでくれるしかけを考えたりする方にシフトしています。

去年の夏に地元の秋田で朗読会をしたときには、いらっしゃったお客さん800名に地元の和菓子屋さんの紅白饅頭をお配りしたんです。すごくおいしいおまんじゅうなんですけど、賞味期限が2日間しかもたなくて。普通にチームでやっていたら「堀井さん、もっと日持ちするお菓子に変えましょう」ってなると思うんです。でもそこをあえて私のやりたいようにやらせてもらっている、この自由なスタイルが結構気に入っています。

次回の朗読の題材は三浦綾子さんの「母」と「泥流地帯」ですが、題材はどうやって決めていますか?

作品選びはいつもかなり時間をかけています。何日も図書館に足を運んだりして、いろいろな作品を読んで選んでいます。その中で「三浦綾子さんの作品がいいんじゃない?」と進めてくれた方がいて。私自身、昔読んでいて好きだったので、それをきっかけにいろいろな作品を読んでみて「母」と「泥流地帯」に出会いました。

「母」は朗読会でも2回読んでいるのですが、もっと時間をかけてやっていきたい、という気持ちがあって、このまましばらく続けていくのかなという予感があります。「母」は80歳を超えた小林多喜二の母が語り手なのですが、今の私にはまだまだ薄っぺらい部分があって。例えば自分が60代とか70代になったら、いろいろな人の生き方を見たり、自分の死が近くなって、内在するものと同時に読み方も変わってくるのかなと思っています。

今回の2作品どちらも、理不尽な出来事がある中で、どういう気持ちで受け入れるか、またはやり過ごすか、人としてどうやったら強くいられるか、優しくいられるか、人の中にある「強さ」みたいなものを物語を通して伝えていけたらと思います。

「泥流地帯」は俳優の西村雅彦さんと一緒に読まれるんですね。

これも今回はいつもと少し趣向を変えてみようと思い、お声がけさせていただきました。どんな雰囲気になるのか楽しみです。

朗読会の際は堀井さんのご家族もお手伝いをされているそうですね。

そうなんです。子どもたちはすでに成人して働いているのもあり、家族は私のやることをいい意味でほっといてくれるので、私としてはすごく楽。朗読会にはスタッフとして参加してくれて、息子が動画を作ってくれたり、娘が当日の会場の導線などを仕切ってくれたりしてます。夫はもともとテレビの美術をやっていたので、舞台の床張りをしてくれました。物販は妹が担当をしてくれたり、ほんと家族総出で協力してくれています。

次回の会場は、東京文化会館ですね。

東京文化会館は、普段クラシックコンサートが行われる会場。その会場に合わせて、音楽を多めにとりいれたり、前回と内容を新しくしてます。

みなさん朗読会と聞くとなかなか行かれたことないかもしれないですが、本当に小学校のころやっていた音読や、子どもが小さいころにやった絵本の読み聞かせと同じなんですよ。だからみなさんにも朗読はぜひおすすめです。

朗読と聞くと、スキルが必要なのかなと思ってしまうのですが…。

私はよくも悪くも勉強しすぎちゃって、自分でも今後はここをほぐしていかないとなって思ってるんですよね。私が本当に感動するのは、やっぱり初めて読む人の朗読。ルールもなにもない自由な読み方なんです。
今まででいちばんうまいと思ったのは、うちの母や祖母の朗読だったりします。本当に文字を言葉にする人の魅力ったらないんですよ。

朗読をするなら、ぜひ、昔好きだった本ぜひ読んでみてください。映画でも音楽でも、見るタイミングや年齢によって印象が変わるように、朗読も全然違う読みになってるかもしれません。

Domani世代はアラフォーの読者が多いのですが、堀井さんが40代のころはどのようににすごされていましたか?

そのころは子どもたちが思春期だったり受験期だったりしていて、自分のことは自分でできるけど、目は離せない、みたいな時期でした。精神的なフォローが必要というか。ただ物理的には時間ができてきたので、めちゃめちゃ仕事してましたね。もうなんのお仕事をしていたか思い出せないくらい(笑)。

物理的には手が離れたとはいえ、仕事との両立は大変じゃないですか?

もうやるしかなかったって感じです。1日終えて、起きて、ああまた1日始まるんだ。の繰り返しでした。
ただ、当時は会社員だったから、社内の先輩をみていると大体自分のいく道がわかって計画も立てやすかったんです。子どもたちも三年後には学校を卒業して、というようなある程度の先が見えていたので、そこから逆算して考えていましたね。「3年後に子どもたちがこうなるから、じゃあ今これしよう」と、計画的に考えていました。

当時のご自身に言いたいアドバイスはありますか?

仕事に関しては「偉いね」って褒めてあげたいです。子どものことになると、過保護というほどではないんですが、あれこれやってあげていたので、夫や周囲の人に「もう少しほっときなよ」って言われたりしていました。でも当時はまったく聞く耳をもたずで。今思えば「もう少し手を抜いても大丈夫だよ」と言いたいですが、でもきっと当時の私は聞かないんだろうな、と思います(笑)。

仕事がある中で育児を完璧にするのはかなり大変じゃないですか?

仕事で悩むことはもちろんありましたけど、アナウンサーの仕事自体は好きだったので、ストレスではなかったんでしょうね。それはすごくありがたい環境だなとは思います。
アナウンサーという仕事は、いろいろなスタジオに移動したり、都内に取材をしたり割と自由に動けたりするので、仕事と仕事の隙間時間にちょっとカフェに入ってひとりですごしていた時間が今思うと割と大事だった気がします。そういう時間があることで、また次に行けるというか。

子育てのときもひとり時間を作っていましたか?

育児中はなかったですね。ひとりで美容院行っても、「子どもたちが待っているから、早く帰りたい!」みたい感じでした。

私の母もすごく忙しい人で、休むということを教わらなかったというか、時間があるなら子どものために使って、母とはそういうものだ!と勝手に思い込んでいたんですよね。今思えば、そんなことはないなと思うんですけど。それでも当時はやっぱり余裕がなくなったりして、子どもから隠れて自宅のパントリーや、車の中で泣いたりとかしてましたもん。

そんな夢中ですごした40代を経て、50代になって変わってきたことってありますか?

昔と比べて、欲がなくなってきました。物欲もそうだし、こうなりたい!とかこのポジションに行きたい、とかそういう思いがはがれてきています。きっと今は周りに比べる人がいないからだと思うんです。フリーになって、来年再来年、何をやってるかわからない状況でも、それでもいいかなと思える潔さが出てきたのかなと思います。

母親としても子育ての渦中にいるときは、子どもにたいしての希望とか期待はもちろんありました。子どもの塾でも「なんで特進クラスじゃないの!(笑)」とか、そういう競い合いもありましたね。でも今となってはそういうのもなくなって、もう自分であればいいんだなっていうところに行き着きました。

堀井さんは朗読にチャレンジし続けていますが、なにからチャレンジしたらいいかわからない、という読者にアドバイスはありますか?

一番いいのは、好きなことを見つけてやるのがハッピーですよね。でも好きなものがなくっても、人から勧められたものをちゃんとやってみるというのもありかな、と思います。最初は違和感あるかもしれないけど、意志あるところに道ができるんじゃなくて、努力して重ねていくことで、「あれ、なんか私、これできてるかも」みたいなパターンもあるかと思うんです。

自分からではなく人からの声に耳を傾けてみる、ということですね。

読者の方は、多分ここから50代、60代に向けて余裕が出てくるときに何をやろうかな、なにができるかなって考えると思うんですが、なんとなく今までの経験則から自分の想像力の範囲が出来あがってきてるじゃないですか。そこを人から言われたことによって、全然違う分野に広げられるんじゃないかなと思います。
あとは、私たちの年代になってくると、自分のことも一生懸命やりたいけど、世の中のことや、この後に続いてくる世代のことが気になり始めてくる年齢なんです。よく街でシニアの方が花壇に花を植えていたりすると思うんですけど、あの境地というか。

それをやることで、自分もハッピーになると思うので、自分の好きなものとか、やりたいことがなくても、社会の不足している部分や課題のような、誰かのアシストをする役目というのもひとつあるかなと思います。

私も朗読会とは別に、絵本の読み聞かせのボランティアをしたり、忙しいシングルファミリー向けにお弁当を配達したりしています。ほんとうに小さいことではあるのだけど、それでも意味はあるし、自分の生き方にもつながってくるんじゃないかなと思います。

堀井さんご自身で今後チャレンジしてみたいことってありますか?

それこそポッドキャスト「OVER THE SUN」で、ジェーン・スーさんとお話ししたこともあるんですが、そこそこの生活費だけある状態で、誰からも成果も求められず、気にもされず好きなことをしてみたい、という話をしていて。多分私の性分的には1年が限度だとは思うんですが、たとえばずっとピアノ弾いているとか、図書館で本を読んでいるとか、陶芸しているとかそういう過ごし方をしてみたいな、とは思いますね。あれ、チャレンジじゃないかな?でもそれをやろうとすると、仕事をすべてストップしなきゃいけないから、チャレンジといえばそうなるのかな。そんな生活にもちょっと憧れます。

Domani世代にぜひメッセージをお願いします。

40代って忙しいですよね。でも10年後「あのときの自分よくやってたな」って思えるような、日々をぜひ送ってください!新しいことを始めるのって、本当に何歳でもいいと思うので。もし、今、何も余裕がない、と思っていても、今やっていることが必ず50や60になったときにストックされていくと思います。

写真/田中麻以 

yomibasho vol.4 堀井美香音楽朗読会
「泥流地帯」「母」〜小林多喜二と母セキ

フリーアナウンサー堀井美香さんが主催する「yomibasho project」の第4回朗読会。今回は昼夜2公演が行われます。夜に『母』を一人で、昼にはゲストの西村雅彦さんと共に『泥流地帯』を朗読します。『母』は拷問死した小林多喜二の母の話、『泥流地帯』は1926年十勝岳噴火後の復興を描く三浦綾子の作品。

チケット
4月7日からローソンチケットにて販売

公演内容
日時:2024年7月20日(土)
   昼公演 13時30分開場、14時開演〜16時終演
   夜公演 18時30分開場、19時開演〜21時終演
場所:東京文化会館小ホール 全席指定 S席5,000円、A席4,000、通し券 8,000円

 

フリーアナウンサー

堀井美香

1972年生まれ。1995年にTBSにアナウンサーとして入社後、2児の出産を経て、数々のアナウンス、ナレーションを担当。2022年3月に退社したのち、フリーランスアナウンサーとして、現在はジェーン・スーさんとの大人気ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」をはじめ、バラエティ番組のナレーションやライフワークでもある朗読会「yomibasho」の開催など、多方面で活躍中。

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